白内障手術をしてわかったメリット・デメリット 「保険が適用された」「老眼鏡のいらない生活に」体験談で見る費用と医師の探し方
加齢などが原因で、目の中の水晶体が白く濁る白内障。視界がかすむ、ぼやけるといった症状により、日常生活に支障を感じ始める人も少なくない。治療の中心となるのが、水晶体の代わりに人工の眼内レンズを入れる手術だ。そこで、手術方法やレンズの種類、費用、医師の選び方など、実際に白内障手術を受けたかたの体験談をもとに、手術のメリット・デメリットや、費用、医師選びのポイントをご紹介する。
教えてくれた人
平松類さん/二本松眼科病院副院長、眼科専門医。テレビやラジオ、YouTubeチャンネル「眼科医平松類」等でわかりやすい医療情報を提供。『名医が教える! 目のトラブル解決大全』(KADOKAWA)など著書多数。
白内障手術で迷う「単焦点」と「多焦点」眼内レンズの選び方
白内障はどのように治療したらいいのだろうか。眼科専門医の平松類さんは、こう語る。
「点眼薬などの薬物療法の研究も進められていますが、いまのところ手術がもっとも効果的。にごった水晶体を取り除き、人工の眼内レンズを入れます」
手術の際に重要になるのが、どの眼内レンズを選ぶかという点だ。眼内レンズには、「単焦点眼内レンズ」と「多焦点眼内レンズ」の2種類がある。単焦点眼内レンズは、焦点距離が1つに固定されたレンズのこと。一方、多焦点眼内レンズは、複数の箇所にピントを合わせられ、遠方、中間、近方を見やすくできる。
「単焦点眼内レンズの場合、ピントを近くに合わせれば、遠くを見るための眼鏡が必要になり、遠くに合わせれば近くを見るための眼鏡が必要になります。近くから遠くまで眼鏡なしで見たいという人は、多焦点眼内レンズがおすすめです。
実際には、95%以上の人が、保険適用される単焦点眼内レンズを入れます。また、緑内障の人や網膜に病気のある人は多焦点眼内レンズを入れられないことがあるので、選択肢が単焦点眼内レンズに限られる場合もあります。
いずれにせよ、知っておいてほしいのは、『高額レンズだからといって、よく見えるようになるわけではない』ということ。過剰な期待は禁物です。経済状態考慮したうえで、自分はどんな見え方を希望するのか、事前に医師と相談しつつ考える必要があります。
たとえば、読書を楽しみたいので手元がはっきり見えればよいのであれば、単焦点眼内レンズで十分なケースも多い。ニーズに合ったレンズを主治医と相談しながら選ぶことが大切です」
【体験談】「白内障手術」をしたからわかったメリット・デメリット4選
白内障手術をすれば必ずよく見えるようになるわけではない。どの段階でどう決断するのか。リアルボイスを聞いた。
【1】単焦点眼内レンズ体験談
佐藤明子さん(仮名・80才)の場合
夫と暮らす専業主婦。3人の子供は独立。20代の頃から近眼のため眼鏡を着用。50代から老眼を意識するようになったが、白内障の症状は実感してこなかった。
症状はないが年齢を考慮して手術を実施
今年1月に白内障の手術を受けたという佐藤明子さん。きっかけは同じ年代の友人からのすすめだった。
「2年ほど前から白内障手術を受けたという友人が増え、『あなたも年齢的にやった方がいい、放っておくと大変だから』『世界が明るくなるわよ』などと言われるようになったんです。この頃、眼鏡を多焦点レンズに変えたこともあり、見えづらくなった実感はありませんでしたが、気になって医師に相談しました」
ところが診断は異常なし。医師は、自覚症状もないから手術はしなくてもいいと思うが、年齢的にも時間の問題だから、この機会にやってもいい、ということだった。それで佐藤さんは手術を決断。どんなレンズにしたいかなどは聞かれることもなく、保険適用の単焦点眼内レンズが医師によって選ばれた。
「最初に左目、2週間後に右目を手術しました。いずれも日帰りで、痛みや違和感もありませんでした。見えやすくなったわけでもなく、これまでの眼鏡をかけて暮らしています」
佐藤さんのように、症状の有無にかかわらず、年齢を考えて手術する場合もあるが、生活に支障がなければ、医師と相談の上、様子を見る手もあるという。
<レンズの種類>
単焦点眼内レンズ(医師からの説明がなくメーカーなどは不明)
<費用>
両目で約10万円(保険適用)
<結果>
もともと支障がなかったので、より見えやすくなったという実感はなし。
【2】多焦点眼内レンズ体験談
井川小百合さん(仮名・65才)の場合
夫、息子家族と二世帯住宅で暮らす専業主婦。長年、乱視用の眼鏡を愛用。白内障手術で乱視矯正し、趣味の読書とスポーツを眼鏡なしで楽しむことを希望していた。
紫外線によるダメージで白内障が悪化
「2024年の秋頃、左目が急に見えなくなったことに気づき、白内障の可能性を考えました」
と振り返る井川小百合さん。もともと乱視だったが、視力は両目とも1.5あり、見えづらさを感じたことはなかった。だからこそ、白内障にすぐに気づけたという。
「還暦を過ぎた4年ほど前からアレルギー性の結膜炎になりやすくなり、近くの眼科に通院していました。そのときから医師には、『屋外でスポーツをするのが趣味なら、目のトラブルを避けるためにサングラスをかけるように』と言われていました。でも、サングラスをかける習慣がなかったのと、甘く考えていたんですね。目の紫外線対策はあまりせずにいました」
すぐに受診すると、診断はやはり白内障。見えづらさを感じてから半年後の今年3月、手術をすることに。眼内レンズはクリニックの医師が多焦点眼内レンズに決めた。
「乱視で本が読みにくいとか、スポーツジムでのレッスンは眼鏡なしでやりたいなど、目に対する悩みや不満を医師に相談したところ、保険適用される多焦点眼内レンズ『レンティス コンフォート』を選んでくれたようです」
手術は片目ずつ、日帰りで行った。
「術後、もっとも驚いたのは、眼帯をとったときに目に飛び込んできた景色の明るさ。ガスコンロの炎の青さにさえうっとり。同時に、それだけ白内障が悪化していたのだと気づきました」
井川さんの場合、手術直後から目に違和感はなく、いまでは読書もスポーツも眼鏡なしで楽しんでいる。
「本当に手術をしてよかったです。困ったことといったら、以前よりほこりが目につくことくらい」
と笑った。
<レンズの種類>
レンティス コンフォート
<費用>
両目で約8万円(保険適用)
<結果>
視界が明るくなり、色も鮮やかに見えるようになった。乱視が矯正され眼鏡不要に。
【3】多焦点眼内レンズ体験談
川上幸子さん(仮名・62才)の場合
夫とは離婚、30代の息子は独立しているため、現在はひとり暮らし。もともと近視と乱視があり、13才から眼鏡やコンタクトレンズが欠かせない生活だったが40代で老眼になり、見えづらさが加速した。
高額だが“安心料”を含んだ費用に納得
「ひとり暮らしなので、人の手を借りなくても済むように健康第一の生活を心がけてきました。健康への投資は惜しみません」
と言う川上幸子さんは、10代のときから眼鏡を愛用。もともと視力はよくなかったが昨年から眼鏡が合わなくなって視力の急な低下を実感。近くの眼科に相談したところ白内障と診断された。
「白内障と聞いて、いずれ手術が必要だと思ったので、友人の体験談を参考に手術実績のある病院を探しました。私は犬を飼っているので家を空けられません。両目を日帰りで手術でき、送迎もしてもらえるクリニックを選びました」
手術に対する不安も受け止めてほしかった。
「手術で視力が失われるような危険性はないのか、先生の家族で同じ手術をした人がいたらその経緯はどうだったのかなど、病院長を含め、3人の医師にありとあらゆる疑問と不安をぶつけました。そして、すべての質問に丁寧に答えてくれた病院に決めました」
今年6月、手術は成功し、遠くも近くも眼鏡なしで見えるように。
「最初はピント合わせにとまどうこともありました。加えて、術後1週間ぐらいは、目に圧迫感が。慣れるまで1か月ほどかかりましたが、その間も主治医が『何かあったらいつでも連絡して』と携帯番号を教えてくださったので、安心できました。私の場合、保険適用外のレーザー手術と多焦点眼内レンズを使ったので、約160万円かかりましたが、行き届いたケアを考えると、決して高い治療費ではなかったと思っています」
<レンズの種類>
テクニスオデッセイ VB Simlicity
<費用>
検査費、レーザー手術費、眼内レンズ代、術後の点眼薬代など合計約160万円(保険適用外)
<結果>
違和感が落ち着くまで約1か月かかったが、現在は眼鏡なしで快適に生活している。
【4】多焦点眼内レンズ体験談
花山裕子さん(仮名・64才)の場合
夫とふたりで暮らす専業主婦。視力は両目とも1.2だが、50代から老眼に。61才で初期の白内障と診断され、主治医が白内障予防の点眼薬を処方してくれていたが、効果が感じられないまま3年が過ぎた。
目薬では治らない手術のできる病院へ
花山裕子さんが白内障を自覚したのは、いまから3年ほど前のこと。部屋にモヤがかかっているように見え、すぐに近くの眼科を受診すると白内障と診断された。
「医師からは『まだ初期なので、目薬で様子を見ましょう』と言われて従いました。しかし、それから3年経っても症状は改善されないどころか、どんどん見えづらくなって……。それなのに、手術の話は一向に出ませんでした」
その間、部屋のあちこちに老眼鏡を置いておくような、不自由な生活を送っていた。
「友人に相談すると、『あのクリニックは手術のできる病院と提携していないから手術をすすめないのでは? ほかの病院でセカンドオピニオンを受けた方がいいと思う』と言われ、知人が通う病院を紹介してもらいました」
その病院で診察を受けるとすぐに手術をすすめられた。そして今年5月、日帰り手術を受けた。老眼鏡から解放されるため、多焦点眼内レンズを選んだという。
「一度に両目を手術し、術後は目の保護のためのサングラスと帽子をかぶって帰宅しました」
術後2か月ぐらいは目に違和感があり、夜になるとヘッドライトや信号機の光がにじんで見える点が気になった。
「手術から半年たったいまも老眼鏡のいらない生活をしています。ただ、違和感やにじみについては“なくなる”のではなく“慣れる”といった感じ。それでも以前と比べれば見えやすさは段違い。満足しています」
<レンズの種類>
クラレオン パンオプティックス トリフォーカル
<費用>
両目で約70万円(手術は保険適用、眼内レンズは保険適用外)
<結果>
老眼鏡は不要となったが、ハロー・グレア(光がにじんだり、まぶしく見えたりすること)に慣れるのに2か月くらいかかった。
多焦点眼内レンズの選定療養費の例
種類/片眼の料金/両眼の料金
※すべて選定療養(手術代は保険適用でレンズ代のみ保険適用外)のレンズ
●クラレオン パンオプティックス トリフォーカル/22万2555円/44万5110円
●クラレオン パンオプティックス トーリック トリフォーカル/24万4555円/48万9110円
●クラレオン Vivity Extended Vision/23万3555円/46万7110円
●クラレオン Vivity TORIC Extended Vision/25万5555円/51万1110円
●テクニスオデッセイ VB Simlicity/20万3855円/40万7710円
●テクニスオデッセイ TVB Simlicity/22万5855円/45万1710円
取材・文/上村久留美 イラスト/飛鳥幸子 写真/Getty Images
※女性セブン2025年12月18日号
https://josei7.com
●老眼や白内障を早めるNG行動とは?「疲れ目のマッサージや目を擦ると水晶体にダメージも」【専門医解説】
