自宅での看取りを叶える在宅診療のポイント。在宅医は実績よりも「コミュニケーション能力」「看取り率」「口コミ」を重視【専門家解説】
かつては治療法がなかった病気も医療の発達により延命治療や緩和ケアなど「人生最後の選択肢」は多様化している。とはいえ、病院ではなく自宅で死にたいという人も多い中、願いが成就することは少ないのが現実だ。老いゆくなか、「家で死にたい」という親の最後の望みを叶えるためにはどうすればいいのか。親を自宅で看取るために欠かせない在宅医の見極め方を専門家に聞いた。
教えてくれた人
山中光茂さん/しろひげ在宅診療所院長、小澤竹俊さん/めぐみ在宅クリニック院長
病院や介護施設で死を迎える人が8割。自宅で最後を迎える方法とは?
古来、日本では「家で死ぬ」ことが当たり前だったが、現在は8割以上が病院で死を迎えている。背景として、昔は治らないとされた病気でも医療の進歩で入院治療できるようになったことや、核家族化によって家族が病院に旅立ちを任せるようになったこと、認知症患者の増加で自らの死ぬ場所を選べなくなったことなどが挙げられる。しかし、だからこそ住み慣れたわが家で最期を迎えたいと望む人は、圧倒的に多い。
日本財団の調査(2021年)によると、67~81才の58.8%が「自宅」での最期を希望し、「医療施設」(33.9%)、「介護施設」(4.1%)を引き離した。その理由は、「自分らしくいられる」「住み慣れているから」などが挙げられた。しろひげ在宅診療所院長の山中光茂さんは「たしかに在宅の方が病院よりも“人間らしい生活”を送れます」と指摘し、一般病院の緩和ケア病棟に勤務した経験からこう語る。
「病院には24時間、医師や看護師がいますしスタッフも一生懸命やりますが、どうしても処置がシステマチックになりがちです。たとえば、患者の好みや病状に応じて毎日の食事を変えることができません。でも自宅では、たとえ嚥下食であっても患者の好きな味を食べさせることができます。また、自宅での急変を恐れて病院を選ぶ家族もいますが、病院でも患者が自力でナースコールを押せなくて病変に気づけず、夜間にひとりでひっそり亡くなるケースもあります」
既存の制度を使えば、自宅でも親を看取ることができると山中さんは続ける。
「在宅でも訪問診療や介護保険を存分に活用すれば医療面や介護面の不安をカバーできるうえ、家族が添い寝して患者を落ち着かせるなどの精神的なケアも可能です。病院では形式的にコントロールされるさまざまな処置や介助も、在宅なら家族や本人の思いを遂げるかたちでできるんです」
「最期を迎えたい場所」2023年意識調査<上位は「自宅」>
20才以上の男女6000人を対象に、「最期を迎えたい場所」について質問した回答は以下の通り。
●医療機関:41.6%
●介護施設:10%
●自宅:43.8%
●無回答:4.6%
※出典/厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査報告書」(2023年)
最期を迎えた場所は「病院」が最多
2022年における死亡の場所別の割合は下記の通り。
●病院・診療所:65.9%
●介護施設:15.9%
●自宅:17.4%
●その他:1.8%
※出典/厚生労働省「人口動態調査」(2022年)
「いい在宅医」を見極めるひとつの指標は「看取り率」
自宅で死にたいという親の願いを叶えるピースとなるのが「いい在宅医」との出会いだ。いかに制度が充実し、家族の負担が減るといえども、看取りの中核を担う在宅医に問題があれば絵に描いた餅になる。山中さんは「最近は安直な在宅診療所も多いので要注意です」と警鐘を鳴らし、“ダメな在宅診療所”が乱立する背景に診療報酬の高さがあると指摘する。
「在宅医療を推進したい国の思惑もあり、在宅診療の診療報酬は病院での診療と比べてかなり優遇されるため、報酬目当ての在宅診療所が増えています。たとえば、フランチャイズで多店舗経営をしているけど常勤の在宅医は院長ひとりしかおらず、夜勤は大学病院からの派遣ドクターやアルバイトのドクターが現場に向かうケースがあります。これでは患者の状態に応じた医療は、到底期待できません」(山中さん)
玉石混交の在宅診療所を見極める指標のひとつは「看取り率」だと山中さんが続ける。
「大規模な在宅診療所のなかにはコールセンターを置き、患者宅から緊急の連絡があったら病院への救急搬送をすすめるところがあります。看取りを放棄するようなこうした診療所の看取り率は高くても70%ほどで、低ければ40~50%のケースもある。いい在宅診療所は最低でも看取り率が80%はあるはずです」
ただし、看取り率が高ければいい在宅診療所とは限らない。聞こえのよい情報に惑わされてはいけない。
「ホームページで実績や理念などを大々的に宣伝する診療所もありますが、鵜呑みにすべきではありません。地域の医療のことはその地域の医療従事者がいちばん知っているので、訪問看護ステーションでどの先生の評判がよいと思うか、何度か尋ねるのがいちばんです。『大事な家族が人生の最期を過ごすとき、どの先生がいいですか』と真摯に尋ねれば、意見を述べてくれるスタッフは多いはずです」(めぐみ在宅クリニック院長の小澤竹俊さん・以下同)
一般的に訪問診療は月2回の診察が目安になる。しかし体調が落ち着いているときにも「月2」にこだわる在宅医には気をつけたい。
「診療報酬は月2の方が月1よりも当然高くなります。患者が落ち着いているのに月2に固執する医師は営利目的の可能性があり、『月1回じゃダメですか』と尋ねてうまく答えられなかったら“チェンジ”を視野に入れていい」
コミュニケーションがうまく取れない医師は注意
実際に在宅医と顔を合わせる機会では、「コミュニケーション能力」をチェックしよう。
「いいドクターとは、やっぱり患者と家族の話をよく聞く医師です。患者とコミュニケーションがうまく取れず、日々の苦しさや不安を聞かない医師は変えた方がいい」(山中さん・以下同)
他方、がんの終末期や難病など処置の難しい病気の場合はコミュニケーション能力だけでなく、医師としての技量も問われる。そうしたケースでも診療所選びで頼りになるのは「口コミ」だという。
「治療が難しい病気の場合、在宅で専門的な医療ができることが看取りの成否を分けます。こうしたケースでは、地域包括支援センターでその患者の病気を診ることができる在宅医を紹介してもらい、訪問診療の契約を交わして緊急時はいつでも往診に駆けつけてもらえるよう準備を整えることをすすめます」
地域包括支援センターや医療ソーシャルワーカーに相談を
医師や在宅診療所選びに加えて、使うべきサービスやお金についての情報も網羅的に把握しておきたい。
「介護保険のサービスについてはケアマネジャーや地域包括支援センターに尋ねれば、詳細まで教えてもらえます。ただし医療保険や補助金、給付金といったお金まわりの総合的な情報についてはケアマネでは対応が難しいので、医療機関などで働く医療ソーシャルワーカーに相談するといいでしょう。総合病院に行けば相談窓口があるはずです」(小澤さん)
誰しも親の最後の願いを叶えてあげたいと思うはずだ。そのためには、まず「家での看取りは大変」という先入観を改め、親を自宅で看取ることは現実的に可能であるという出発点に立つことが求められる。
「とにかくみなさんに知ってほしいのは、在宅看取りは医療や生活のサポートを含めて、一連の制度をしっかりと活用することで、入院や通院以上に親をケアしてもらうことができるうえ、費用も思ったほどかかりません。その分、家族は余計な負担を感じることなく、親に愛情を注ぐことに集中できます。親を家で看取るのは難しいことではないのです」(山中さん)
親を自宅で看取ること。それは親の望みを叶えることであり、いつか訪れる自分の最期を準備することにもきっとつながるはずだ。
在宅医療を受けるまでの主な流れ
入院している親が退院して、在宅医療を受けるとなった場合、まず最初に始めることは、介護申請をすること。その後の流れは下記の通り。※取材をもとに本誌作成
【1】介護申請
各自治体の窓口や地域包括支援センターで申請。家族がいない場合はソーシャルワーカーが代行して申請を行うことも可。
【2】ケアマネジャー依頼・決定
【3】介護申請の審査
【4】要介護状態等区分決定
【5】訪問診療先の選択
【6】在宅診療所の決定
【7】カンファレンス(会議)
本人や家族、主治医、看護師、ケアマネジャー、ソーシャルワーカー、管理栄養士、理学療法士など関係者全員で行うことが望ましい。
【8】介護保険・医療保険サービス内容決定
【9】書類作成
ケアマネジャーが介護保険サービスに関する内容を、主治医たちが医療保険サービスに関する内容の書類を作成する。初回利用時に必要。
【10】在宅医療と介護サービス開始
退院し、自宅に帰ったその日からサービスが受けられる。
※女性セブン2025年12月4日号
https://josei7.com
●日本の在宅看取りは先進国で最下位 少子化や核家族化による「家族の負担」が原因か
