兄がボケました~認知症と介護と老後と「第43回 秋冬のプール」
若年性認知症の兄と暮らしてきたライターのツガエマナミコさんが、日々感じること、思うことを綴るエッセイ。現在は特別養護老人ホームに入所した兄の面会に週1ペースで通うマナミコさんですが、ようやく自分自身のための時間ができ、水泳という新たな趣味もできました。
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クロールにも挑戦します
先日は、台風で兄の面会を断念致しました。
この日の台風は風がほとんどない雨台風。「行かないと後悔する」と思い、差し入れを購入し、直前まで行く気だったのですが、スマホからケタタマしい警報音が何度も鳴り出したことと、外の様子が不気味なほど暗くなってきたことで「無理することはないか」と気が変わり外出を控えました。
結局、3時間もするとうっすら日が差す天気となり、「これなら行けましたわ」とは思いましたが、甚大な被害を受けた地域はたくさんあり、たまたまこの辺でそれがなかっただけなのだと、警報音に感謝いたしました。
夏休みが終わった途端、プール周辺が静かになりました。
わたくしが利用する温水プールに限っては夏場といえども中高年オンリーで顔ぶれも変わらず、淡々としたものでしたが、同じ建物にはレジャープールもあるので、浮き輪を抱えた子ども連れのファミリーや若いカップルなどが出入りしてなんとなく賑やかございました。先日急に人影が減ってさみしくなり、いつも聞こえていた外の噴水で水遊びする子供たちの声も消えて、秋の訪れを感じた次第でございます。
通い始めて3か月目。夏のプールも久しぶりでしたが、考えてみれば秋や冬にプールに入ったことはなく、これからは未知の世界だと不安がよぎりました。夏場は汗だくで歩いても「これからプールだ」と思えば楽しみでしたが、真冬には何を楽しみにプールに向かえばいいのでしょうか。温水プールとはいえ、たぶん水温は年間を通して30℃ぐらいでございます。行きも帰りも凍える…と思うと、週1ペースで通えるかどうか自信がなくなってまいりました。
平泳ぎの腕前はほとんど上がらず、頑張ってスピードを意識して泳いでも縮まったのは25mで2~3秒。50秒だったのが47~48秒になっただけでございます。平泳ぎ初心者のペースが25m40秒というのが本当なのか?と疑わしくさえ思えます。何かが根本的に間違っているのでございましょうか。確かに速い人は優雅に見えても速い。わたくしは足のキックがうまく使えていないのかもしれません。
と、まぁいろいろ考えますけれど、水泳はやはり全身運動であり、水圧によるマッサージ効果や水に包まれるリラックス効果などがあり、心身にだいぶ良いようでございます。水温で冷やされるので体温維持のためにエネルギーも使い、ダイエット効果もあるとか? まぁ、温水プールのせいかダイエット効果はまったく出ていませんけれども…。
ちゃんと数えてはいませんが、1時間に25m×20往復で1キロくらいの距離を泳いでいる計算になります。せっかく慣れてきたので続けたい気持ち満々で、いずれはクロールや背泳ぎにも挑戦したいものでございます。
といいますのも、周りの先輩方は腕に覚えのある方が多く、カッコイイのです。それがあまりに羨ましくなりつい、わたくしも先日クロールに挑戦しましたところ、息継ぎで思い切り水を飲んでしまい15メートル泳げずじまい。昔は平泳ぎよりクロールの方が好きでしたのに、肩が上がらないのか、息継ぎの余裕がなく我ながらガッカリ。クロールもYouTube動画で学習しようと思っているところでございます。
ちなみに日本の18歳以上で、週1回以上の水泳実施率は1.3%。推計人口136万人だそうでございます(笹川スポーツ財団のスポーツライフデータ2024)。お散歩・ウォーキングや筋トレに比べるとだいぶ少ないですが、バレーボール人口とはどっこいどっこい。
はたまた、子どもの習い事人気ランキングでは、最近流行りのダンスやピアノを抑えて水泳がここ20年近く1位を独走しているそうな。なぜかというと「費用が安いから」。そういえば、わたくしの兄も小さな頃はスイミングに通っておりましたっけ。
水泳は有酸素運動なので定期的に続ければ認知症予防効果もあるそうでございます。それでも真冬に水着を着こんで出かけるのかと思うと今から腰が引けます。何かもっと強力なモチベーションを見つけなければいけませんね。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性62才。両親と独身の兄妹が、2012年にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現66才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。2024年夏から特別養護老人ホームに入所。
イラスト/なとみみわ