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認知症の母がトイレの前でうずくまって倒れていた!真夏の夜にゾッとした出来事を解決に導いた「遠距離介護の必需品」

 岩手・盛岡でひとり暮らしを続ける認知症の母を遠距離介護している作家でブロガーの工藤広伸さん。実家には数台の見守りカメラを設置し、東京から母の様子を確認しているのだが、あるとき母が廊下で倒れているのを発見して――。

執筆/工藤広伸(くどうひろのぶ)

介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(81才・要介護4)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

著書『親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること』『親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと』(翔泳社)『老いた親の様子に「アレ?」と思ったら』(PHP研究所)など。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/、Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442

見守りカメラの映像で「母の異変を察知」

 7月のある月曜日の夜7時。実家のトイレから出てきた母が、照明を消した途端にひざから崩れ落ちて、廊下でうずくまってしまいました。重度の認知症で、助けを求めることもできない母。東京にいたわたしは、この危機をどう乗り越えたのでしょう。

***

 母の異変に最初に気づいたのは、東京にいたわたしでした。なぜ気づいたかというと、実家に設置した見守りカメラのおかげです。6台設置している見守りカメラの中でも、トイレの前に設置してあったカメラが、母の動きを感知してスマホに通知を送ってきました。

 トイレの前に見守りカメラを設置した理由は、母がトイレに紙パンツや尿取りパッドを流して何度も詰まらせ、周辺のカーペットが水浸しになってしまったことがあったからです。

 スマホの通知を受け、画面の映像を見た瞬間、母が倒れているのが見えました。ズボンと紙パンツはトイレの中に忘れてきたのか、下半身は何も身につけていない状態でした。わたしはすぐに見守りカメラのスピーカー機能を使って、声を掛けました。

わたし:「どうした? 大丈夫?」

母:「痛い、お腹が痛い」

わたし:「ちょっと待ってて、何とかするから」

 こういった緊急事態に電話する相手は、2人しかいません。岩手にいる妹と訪問看護師さんです。訪問看護は24時間対応の訪問看護ステーションと契約をしています。今回は医療的な判断が必要と考え、訪問看護の連絡先に電話をかけたのですが、留守電になってしまいました。次に妹に電話したのですが、こちらもつながりません。

 再び母に声を掛けると、今度は「お尻が痛い」と訴え始めました。

「お腹とお尻の両方が痛い病気って何だろう?」と考えていたところ、訪問看護師さんから折り返し電話がありました。

わたし:「よかった!午後7時頃に母がトイレの前で倒れて、お腹とお尻が痛いと言っています。意識はあって、今見守りカメラで声を掛けています」

看護師さん:「近くにいるので、15分くらいで家に着くと思います」

 わたしはカメラを通じて母に「看護師さんが、今来るからね」と声を掛け続けました。体感では1時間にも感じられましたが、30分で到着。

 玄関には鍵がかかっていましたが、看護師さんに電話で鍵の開け方を伝え、暗闇で苦戦しながらも、なんとか家に入ってもらうことができたのです。

看護師さんとは見守りカメラのスピーカーを通して会話

 わたしも看護師さんも、母が倒れた原因をある程度予測していました。おそらく原因は迷走神経反射で、腸に詰まっていた便が一気に出て血圧が急低下して、ふらつきで倒れたのではないかと思いました。

 母は以前から便秘になりやすく、迷走神経反射を何度も経験していました。ただ、いつもと痛がり方が違っていたため、他の病気の可能性も疑ったのです。

 看護師さんは倒れた母のそばに駆け寄り、体温や血圧をチェック。特に異常はなく、母と会話も成立している状態でした。わたしはその様子を見守りカメラで見ていましたし、看護師さんにもその旨を伝えたので、電話でやりとりするよりもスムーズでした。

 しかし看護師さんが母を起こした瞬間、残っていた便が出てしまい、廊下のカーペットが汚れてしまいました。そんな状況にも関わらず、看護師さんは母の便の状態を見て、「硬い便が栓の役割をしていて、それが取れたことによって便が一気に出てしまい、迷走神経反射が起きたのかもしれませんね」と冷静です。

 しばらくして母は自力で立てるまでに回復していました。そこからは6台の見守りカメラを通じて、看護師さんに母のケアをお願いしました。母の着替えや紙パンツ、おしりふきなどがある場所を伝えたので、着替えはすぐに終わりました。

 看護師さんはわが家の遠距離介護の状況を知っていましたが、見守りカメラがこんなに役立つとは思っていなかったようで、「見守りカメラ、もっと全国に広げるべきですね」と驚いていましたが、わたしは「もう発信しているんですよ」などと会話をする余裕も生まれ、母も落ち着いた様子で安心しました。

母が倒れてしまった理由は…

 今回の原因は、わたしの判断ミスでした。

 いつもは母の迷走神経反射を防ぐため、デイサービスや訪問看護で定期的に浣腸をして排便を促していました。しかし、わたしが実家にいた期間中、毎日自然な排便があったため、「今週は浣腸不要です」と伝えてしまったのです。

 実際には硬い便が栓となって大量の便が腸内に残り、その隙間を縫って軟便が出ていた状態でした。かかりつけ医とも話し合って、今後は排便の有無に関わらず定期的な浣腸を行うことになりました。

 訪問看護と契約し、トイレの前に見守りカメラを設置していたおかげで、この危機的状況を乗り切ることができました。この2つがなかったら、母は翌朝の訪問介護が来るまでトイレの前で横たわっていたかもしれませんし、熱中症にもなっていたかもしれません。思い出すだけでゾッとします…。

 高齢者は腸の機能低下や食事、水分摂取量の低下などで、便秘になりやすいと言われています。症状が気になるかたは、早めに医療機関へ相談してください。

 今日もしれっと、しれっと。

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