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兄がボケました~認知症と介護と老後と「第39回 我が家に宿泊客パート2」

 昨年の夏まで認知症を患う兄と8年以上にわたり二人暮らしをし、ずっとサポートを続けてきたライターのツガエマナミコさん。兄は現在、特別養護老人ホームに入所中で、マナミコさんは週に1回の面会を欠かしていません。マナミコさんが兄の介護を通して、思うことや日々の暮らしについて綴ります。

 * * *

「また来てくれる?」

 プール通いも8回を数え、常連になってまいりました。泳ぎのほうはあまり上達しておりませんが、回を重ねるごとに疲れ方が小さくなって休憩は1時間に2回ほどになりました。

 早さにこだわってはおりません。でも先日、世界水泳をテレビで見ておりましたら、50m平泳ぎを30秒ほどで泳いでいらっしゃるではありませんか。思わず我が目を疑いました。わたくしのタイムは25mで約50秒。「彼らなら15秒か~」と思い、世界の凄さを改めて感じました。おそらく25 mなら平泳ぎ3~4掻きで到達するはず。アンビリーバボーでございます。

 世界トップクラスと比較するのが間違いだったと、ネットで一般的初心者の平泳ぎ標準的タイムも調べてみましたら、25mで40秒でございました。どうやらわたくしは初心者の中でもずばぬけて遅いようで、やや凹んでおります。

 あくまでも健康促進でスピードはどうでもいい、と思っても標準でありたいと思うのがツガエの常。ゆっくり疲れないで泳ぐことがこれまでの目標でしたが、今後は少しスピードにもこだわってみようと思っております。

 今週の出来事といえば「我が家に宿泊客パート2」でございます。

 この春「8月にまた来るかも」と予告していたあの友人でございます。

→そのエピソード「「第27回 我が家に宿泊客」を読む

 今回も大阪からお仕事でいらしたのですが、共通の友人のお墓参りをしたいとのリクエストで関東には2泊3日で来られました。初日にわたくしとお墓参りを済ませ、1泊目を我が家でお過ごしになり、午後にはお仕事に向かい、翌朝早くの新幹線でお帰りになるとのことで2泊目は東京駅近くのお宿をとったようでございました。まったくお忙しい限り。

 お仕事以外でも忙しく、聞けば、姉妹で介護してきたお父さまが施設に入所されてホッとしたのもつかの間、施設のスタッフが総入れ替えになり、お父さまは新体制が気に入らず施設を変えることになったそう。夕食のツガエ特製カレーをつまみに、ひとしきり介護の愚痴に花が咲きました。

「父の気持ちもわかるけど、またバタバタして手続きも大変で…」と嘆く友人に、かつての自分を重ねつつ、もうその渦中にいないことを実感いたしました。過ぎ去ってみるとあっという間で、戻りたくはないけれどどこか空虚で寂しい摩訶不思議な心持ちでございます。彼女もいつかそんなときがやってくるので、今は最大限の共感をもって応援させていただきました。

 大阪といえば「大阪・関西万博」が開催中でございます。彼女も最近行ったそうですが、やはり話題のパビリオンはひとつも予約が取れず、20~30分待てば入れるパビリオンを3つだけ見て帰ってきたとのことでした。知り合いに「これだけは見た方がいい」と言われた噴水のショーも目の前に人がいっぱいで全然見えず、ドローンショーに最後の期待をかけたものの、強風により中止になってしまったのだとか。「並ばない万博とか言ってたけど、どこが?って感じだった」と憤慨しておりました。千葉県の有名なネズミさまの国でわたくしが体験したこととほぼ同じだったので、「おつかれさま」とお慰めいたしました。

 55年前の万博とは違い、いろいろな人がYouTubeでパビリオンの中の様子を可能な限り映してくださるので、ツガエはそれで充分な気がしております。

 さて、今週も兄の面会に行ってまいりました。

 先週と同じく兄は誰もいない部屋のベッドに一人でおりました。開け放たれた部屋のドアから覗くと、少し背をあげたベッドで両手を頭の後ろに置き、うたたねのポーズ。ドアをコンコンとすると、ふっと顔を動かしたのでしっかり起きている様子でした。

「こんちわ!来たよ~」と顔が見えるところまで行ってのぞき込むと、ニカッと笑って「来た~」と歓迎してくれました。10分もしないうちに「また来てくれる?」と言われたときにはちょっと胸が熱くなりました。1年通ってその言葉を聞いたのは初めてでございます。部屋で独りぼっちで過ごすことが多くなったから人恋しいのかな~と兄を不憫に思いました。けれど、この穏やかな兄は、少し増やした薬によって不機嫌さを抑制されている兄です。それを思うと穏やかな兄を手放しで喜べません。いずれ今の量では抑制できなくなり、薬の量は増え、それにも限界が来るはずでございます。兄はどうなるのでしょうか。否、遅かれ早かれわたくしもボケて同じ道を辿りそうなので、兄の行く末は自分の行く末を推し量る指標。しかと学ばせていただこうと思っております。

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文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性62才。両親と独身の兄妹が、2012年にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現66才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。2024年夏から特別養護老人ホームに入所。

イラスト/なとみみわ

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