自分と家族に必要な<介護の準備>ランキング28|10人の専門家が総力回答「1位はお金の準備」
「こんなはずじゃなかった」――介護という現実にぶつかると、される人もする人もそんな思いに直面する。しかし、始まる前にいまから備えておけば解決できることも少なくない。専門家たちが明かす、家族や自分が介護される前に準備しておきたい28のことをランキング形式でご紹介します。
監修・取材
・安藤なつさん(『介護現場歴20年。』著者/お笑いタレント)
・石川結貴さん(『家で死ぬということ ひとり暮らしの親を看取るまで』著者/ジャーナリスト)
・太田差惠子さん(介護・暮らしジャーナリスト)
・川内潤さん(NPO法人「となりのかいご」代表理事)
・工藤広伸さん(介護作家・ブロガー)
・小山朝子さん(介護ジャーナリストでオールアバウトガイド)
・渋澤和世さん(在宅介護エキスパート協会代表)
・曽根恵子さん(夢相続代表)
・高室成幸さん(ケアタウン総合研究所代表)
・田中克典さん(ケアマネジャー)
介護は突然「する側」「受ける側」になるケースが多い
「ピンピンコロリ」
誰もが理想とする人生の終わり方だが、実現できる人は非常に少ない。
厚生労働省の「令和3年度 介護保険事業状況報告(年報)」によると、2022年3月末時点で要介護・要支援者数は約690万人。65才以上の約5人に1人が日常生活に何らかの手助けが必要な要支援1以上に認定され、多くの人が介護生活を送っている。
さらに、認定者は右肩上がりで増えており、同調査によれば前年度より8万人増加。つまり、いまの日本においてほとんどの人が晩年を介護を受けながら迎えるということ。
不慮のけが、気づかぬうちに進行していた病や認知症など、突然“介護を受ける側”に身を置かれ、望んでもいない施設での生活や、孤独でさみしい生活を強いられる可能性は誰にでもあるのだ。
87才の父親、バイク事故で突然介護生活に
父親の看取り体験を綴った『家で死ぬということ ひとり暮らしの親を看取るまで』の著者で、ジャーナリストの石川結貴さんが言う。
「“ピンピンと生き、コロリと死ぬ”が口癖だった父ですが5年前の春、87才のときにバイク事故で大腿骨を骨折し、その入院中に慢性腎不全の疑いと診断され、退院後に要支援2の認定を受けました。父にとっては青天の霹靂だったようで、最初の頃は私から見ると危なっかしいことも父は“大丈夫だ”と言い続け、ずいぶんとけんかしました。
何より介護を受ける心の準備も環境も整っていなかったことが父のストレスをためたのだと思います」
事前に準備することでいざという時の助けになる
ヘルパー2級と介護福祉士の資格を持ち、著書『介護現場歴20年。』があるお笑いコンビ「メイプル超合金」の安藤なつさん(43才)は「介護される立場になったとき、そのことを受け入れるのは非常に難しい」と話す。
「出産や子育てであれば準備もできますが、介護はいつされる側になるのか、そのときにならないとわからない。そもそも“いま元気なのだから、今後もずっと自分のことは自分でできるはず”という気持ちで生活を送り、介護されることを想像していない人がほとんどだと思います。
しかし、健康なうちに万が一のことを考え、自ら支援を受けようと少しでも一歩踏み込んだ準備をしておくことで、いざ介護される立場になったときに慌てずに済むかもしれません」
では実際、何をどう準備すべきか。専門家たちの知識と経験に裏打ちされた回答をランキングで紹介する。
ランキング1位は「介護にかかるお金の準備」
最も多くの点数を集めたのは、5人が投票した「介護にかかる準備金を用意する」だった。在宅介護エキスパート協会代表の渋澤和世さんが解説する。
「ただやみくもに貯めるのではなく、しっかり試算しておく方が安心です。例えば過去3年に介護経験がある人の平均費用として、介護環境を整える一時金で74万円、月々の費用で8.3万円かかるというデータがある。それに加え、万が一の医療費と合わせ、最低10年分、1500万円は用意しておきたいです」
かなり高額だが、「今後はさらに必要費用が増える」と石川さんは予想する。
「国の方針として、在宅で介護の専門職や家族らに介護をしてもらう『地域包括ケアシステム』が打ち出されています。しかし、実際はヘルパー不足が深刻化しており、今後、公的な介護サービスはもっと受けにくくなる可能性が高い」
介護保険適用外の民間サービスとなれば保険による割引もきかない。予算は多めに見積もった方がいい。
資産状況を共有 どんな介護体制を希望するのが家族の話し合いは重要
ほかにも4位の「資産状況を共有する」など、お金の話は多数ランクイン。介護作家でブロガーの工藤広伸さんは、自身の経験を振り返りながらこう話す。
「祖母が認知症になったとき、祖母がどの銀行にいくら預けているか、また通帳や印鑑がどこにあるか親族の誰も把握していなかったため、手続きにかなり時間と手間がかかってしまった。結局ぼくが成年後見人になり、銀行を一行一行回って確認しました。幸い、岩手の実家近くにある銀行は少なかったので無事見つかりましたが、東京だったらお手上げでした」
石川さんも口を揃える。
「父は自分の老後についてあまり考えている人ではなかったのですが、口座や残高、日々の支払いがどうなっているのかは事前に共有してくれていたので助かりました。もし聞いていなければ、介護費用をどうするかで悩んだと思います」
お金が大事である一方、それだけでは安心できない。
「資産状況を共有する」と同点4位だったのは「どんな介護体制をとってもらうか家族で話し合う」だ。
「いざというときには家族に動いてもらう必要がある。予算やプランが共有されていなければ家族はどうすればいいか困りますし、本人が想像していた介護も受けられなくなるでしょう」(安藤さん)
介護プランを考えるにあたって重要になるのが2位の「自分の健康状態を把握する」だ。1位に挙げたケアマネジャーの田中克典さんが言う。
「60才以降は50代と違って体力も落ち、病気になりやすい。人間ドックまでとはいいませんが少なくとも定期健診は受けておくべき」
介護ジャーナリストでオールアバウトガイドの小山朝子さんも声を揃える。
「高齢になると、もともと弱かった部分が悪化することがある。自分の心身の状態を、元気なうちに把握することです」
頼れるのは専門職だけではない
先立つものを準備して家族に託し、自分の健康状態が把握できたら、快適な環境づくりに勤しもう。
夢相続代表の曽根恵子さんは「介護されることを見据えて居住環境を整える(11位)」に一票を投じた。
「自分が親を介護した経験から事前に部屋を片づけておくことの大切さが身にしみてわかった。ある程度ものを捨てないと介護ベッドが置けなかったり、リフォームするときも大変。家具の移動や片づけなどは高齢になると大仕事なので、子供に手伝ってもらうなどして、少しずつ進めておいた方がいいと思います」
「人間関係」も早くから作っておきたい。7位にランクインしたのは「地域で人間関係を作る」だ。
「特にひとり暮らしの場合、周囲に見守ってくれる人がいるのは非常に心強い。私も近所に仲間がいますが、困ったことがあったらお互い駆けつけられるので安心感があります。頼れるのはケアマネジャーなど専門職だけではありません」(小山さん)
「遠くの親類より近くの他人」ということわざの通り、近所の顔見知り程度でもいいので作っておきたい。
「“その日”のための準備は必ずあなたを救うはず。もし何から始めるべきか順番に迷ったら、正しい介護の情報を得るのがいちばん先と心得るべし。情報源としては『地域包括支援センター』がいちばん生活に密着した情報を得られるのでおすすめです」(田中さん)
いきなり相談に行くのはハードルが高いと思ったら、パンフレットを取りに行くだけでもいい。備えあれば憂いなし――不安の少ない老後のためにも、まずは正確な情報を「知る」ことから始めよう。