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兄がボケました~認知症と介護と老後と「 第15回 再会の季節」

 50代で若年性認知症を患った兄と長年暮らし、サポートしてきたライターのツガエマナミコさんでしたが、昨年、兄が特別養護老人ホームに入所して以降、ようやく自分自身のための時間をもてるようになりました。今回は、ものすごく久しぶりの人に再会したエピソードです。

 * * *

時間は残酷

 若かりし日にお世話になった方と36年振りに再会いたしました。

 それはわたくしがアルバイトをしていた喫茶店のママでございます。ママといっても当時の彼女は33歳。わたくしは26歳でございました。1年ほどでバイトを辞めて、その後閉店となった後も年賀状では「今年は会いたいね」と判で押したようなやりとりをしておりました。再会のきっかけは、「お母さまの他界」のご報告でした。「会いましょうか」という話になり、とある駅で待ち合わせをしたのです。

 しかし、約束の時間を15分過ぎてもお見えにならないので携帯番号にかけてみましたところ、お互い同じ駅の同じ改札にいることがわかり、「え、どこ?」となってキョロキョロしてみましたら、すぐそばに同じような挙動のお年寄りがいてビックリいたしました。

 ずっと人待ち顔の(失礼ながら)冴えないお年寄りの存在には気づいていましたが、まさかその冴えないお年寄りがご当人だとは夢にも思わなかったのでございます。

 当時のママはモデルさんのようなスタイルで、きっちりメイクをしたワンレンボディコン(当時流行りのファッション)の超美人。歳月を経た分、記憶している美しさから5割差し引いたお姿を想像しておりましたら、現実は面影の9割が消失しており、わずか1割しか残っておりませんでした。

 ノーメイクで眼鏡にマスク、小太りで地味なおばちゃん服(再び、失礼)……時間は残酷でございます。かくいうわたくしも昔とは別人だったのでございましょう。お互い目が合う瞬間もあったのに「違う」と思われたのでございますから……。

 かつてキレイな方だっただけに落差の激しさにしばらくは目を合わせられませんでした。でもしゃべり出せば当時がすぐに蘇り、あっという間に4時間が経ち、「定期的に会いましょうよ」と3か月後を約束して解散いたしました。

 このところ、しばらく会わない方との再会が増えているように思います。兄が施設に入所して自由の身になったことも大きいですが、年齢的に「今会っておかないと、いつ会えなくなるかわからない」という強迫観念もございます。

 人と会うことが多くなると、食事代やら手土産やら何かと物入りで、インプラントを含めて、今年はいつになく出費の多い春先となっております。

 さて、今週も兄に面会してまいりました。

 いつものようにユニットのリビングで車いすに乗ってじっとしている兄に「来たよ~」と肩をたたいて顔を見せると、珍しく「よっ!出ました!」と素早く反応して元気に笑ってくれました。いつもは顔を見てもぼうっとして「誰かな~?」みたいな顔をするのに、この日は妙にハッキリとしており、わたくしもテンションがあがりました。

 聞けば、午前中にお風呂に入って、疲れちゃって、お昼寝してさっき起きたところだとか。お部屋では細くなった兄の足をさすったり、冷たい指先を温めたりしながら、「36年振りの人と会ったら、まったく別人になっててびっくりしたよ」とか「今年は何年振りかでお雛さま出したよ~」などと話し、「アトム」や「ヤマト」などの懐かしのアニメソングを歌ってまいりました。

 この日は「また来るね。今日は帰るよ。またね」と言うと、かすかに手を振って見送ってくれました。たったそれだけのことにわたくしもスタッフの方も笑顔になっておりました。

 兄に報告した通り、お雛さまを出したのは、なんと11年振りでございました。父親が交通事故に遭ってからの3月はドタバタしてそれどころではなく、母の認知症、兄の認知症でますます出せない状況になり、ずっと仕舞いっぱなしだったのです。その間には引っ越しがあり、猛暑があり、もしやカビが生えているかもしれないと案じておりました。でも今年、何事もなく、美しいまま「再会」できました。

 それは母親が嫁入り道具で持参した古くて地味な立ち雛。幼い頃は七段飾りのような新しく豪華なお雛さまを羨ましく思っておりましたが、そこはかとない気品がわかるようになってからは「我が家のお雛さまが一番カッコイイ」と自負しております。

 ま、独身のわたくしには宝の持ち腐れではございますが……。

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文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性61才。両親と独身の兄妹が、2012年にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現66才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。2024年夏から特別養護老人ホームに入所。

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