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兄がボケました~認知症と介護と老後と「 第16回 日帰り熱海で」

兄がボケました~認知症と介護と老後と「 第16回 日帰り熱海で」

 若年性認知症の兄を長年在宅でサポートしてきたライターのツガエマナミコさんが綴る連載エッセイ、今回は、日帰り旅行のエピソードです。施設に入所した兄を訪問した様子も報告してます。

 * * *

大きく開けた場所にいると気持ちが良くなる

 尾崎紅葉の小説「金色夜叉」をご存じでしょうか。わたくしはまったく読んでおりませんが、「金色夜叉」といえば「貫一・お宮」、「貫一・お宮」といえば「熱海の海岸」ということは存じ上げております。この度は、そんな熱海の梅園と日帰り温泉を60歳越えの女子3人組で楽しんでまいりました。

 この日の熱海は雪がちらつく寒さでございました。ちょうど梅まつりの最中で、咲き誇る梅と風に舞う雪を同時に楽しむ幸運に恵まれました。しかもときどき晴れ間が見える絶妙な加減で、すすった温かいお汁粉がなんともおいしく和みました。

 日帰り温泉のオーシャンスパは、その名の通り、目の前がオーシャン(広大な海)でした。まるで海と一体化したようなスパ上階の露天風呂の解放感は至福。何十分浸かっていても、冷たい風が頭を冷やしてくれるのでのぼせることがなく、ただただ穏やかで気持ちの良い時間を過ごしました。

 夕方、徒歩で熱海駅まで戻りがてら、良さそうな居酒屋で金目鯛の煮つけやお刺身の盛り合わせをいただき、お腹も大満足。店を出た夜7時には駅前商店街はきれいに閉店しており、お土産を買い損ねましたが、十分楽しい一日でございました。

 ひとつ、友人2人が腹を立てていたのはスパ更衣室での出来事でございます。ロッカーの前に椅子を置いて陣取り、スマホをいじっていた中年のお姉さまがいたのでございます。「すみません」と声をかけると、あちらも「あ、すみません」と察して少し横にずれてくれたのですが、なおも椅子に座り続けスマホをいじっていたことが、友人たちには許せなかったようで、帰り道でのトークテーマになりました。

 更衣室でスマホを取り出すこと自体、あまり賛成できない上に、着替え終わっているにもかかわらずロッカー前に陣取ってどかないとは何事だというのです。確かに邪魔ではありました。でも二人の怒り様を見て思ったのは、「こういうことが俗にいう“炎上”につながるのだな」ということ。愚痴や怒りを聞いてもらえるはけ口がある人はいいけれど、そうでない人は書き込んじゃうのだと。

 目の前にあった介護というストレスから解放されたわたくしだから思うのかもしれませんが、積もり積もった不満を抱えている人ほど、怒りの着火点が低い気がいたします。友人2人は、今まさにご両親の介護に直面している真っ只中。わたくしが「そんなに悪い人じゃなかったけど」と言うのは2人にとってはさらなる火種になることも学びました。

 さて、今週の兄ですが、おかげさまで安定のご様子でした。手をマッサージすれば握り返してくれ、歌を歌えば拍手をしてくれ、「ああ、面会に来てよかった」と思わせてくれます。

 なだらかな丘の上は眺めが良く、広い空や遠くの山を眺めに行くのも楽しみの一つになっております。行く度に「この景色がいいんだよな~」と思い、きっとスタッフの方々にとってもストレスの緩和になっているに違いないと勝手に感じております。今週はリビングに3人もスタッフの方がいて、ありがたい気持ちでいっぱいになりました。

 オーシャンしかり、施設周辺の眺めしかり、やはり、人は大きくてひらけた場所にいると気持ちが良くなるようでございます。窓を開けたらすぐ隣の家の壁とか、外を歩いてもビルしか見えないような都会は、知らず知らずに人の心にダメージを与えている気がいたします。

 そんな中、気になったのは、高齢者施設に入る際、紹介業者と施設の間に高額な紹介手数料が発生している事例があるというニュースでございます。

 本来は利用者の希望に合う施設を紹介するのが紹介業者の務めなのに、利用者の希望を無視して施設側の希望に沿う利用者を紹介して施設側から報酬を得ている紹介業者が増えているというのです。細かいことはわかりませんけれど、要介護度や医療診療の度合いによって人に値段がつけられ、裏で取引きされているのかと思うとぞっといたします。まっとうな紹介業者のほうが多いと思いますけれど、法の網目をすり抜けて私腹を肥やす人物が福祉の世界にもいるということを我々は知らないといけませんね。

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文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性61才。両親と独身の兄妹が、2012年にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現66才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。2024年夏から特別養護老人ホームに入所。

イラスト/なとみみわ

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この記事へのみんなのコメント

  • りんりん

    ツガエ様、日々穏やかに過ごされているようですね。お友達との旅行は楽しまれた様で本当に良かったです。でも、お友達のお怒りはごもっともかと。更衣場所でのスマホはいけません。悲しいことにお金で更衣場面、服、浴衣なしを撮るという事件もあります。マナーとして場所取りもしてはいけないことだと思います。が、そこで揉めなくてよかったですね。そんな中年のお姉さま、どんな人かわかりません。昔から「触らぬ神に祟りなし」といいますからね。

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