科学的に正しい<音楽の聴き方>「気分を上げたい、リラックスしたい」目的別・おすすめの曲を専門家が提案
聴いただけでワクワクしたり、当時の思い出が蘇(よみがえ)ったり…。誰にでもそんな“エモい”音楽があるだろう。音楽と感情はつながりがあり、テンポやリズムに共通点があるという。音楽やリズムについて研究をしている音楽心理学の専門家に話を聞いた。
教えてくれた人
河瀬諭さん/神戸学院大学心理学部准教授
演奏者や観客の行動、音楽のグルーヴ(ノリ)など、音楽を切り口とした心理を幅広く研究している。現在は、誰かと踊ることで生まれる人同士の絆について研究中。
「ハッピーになる」「落ち着く」etc.音楽と感情の関係とは
「どんな音楽を聴けばどんな感情になるかの傾向は、ある程度わかっています」
と言うのは、音楽心理学の専門家である河瀬諭さん。
「下の図は、数々の演奏者がさまざまな曲を演奏した際の感情表現を集計したものです。たとえば、喜びを表す曲では、音色は明るく、速いテンポでリズミカルに演奏し、悲しみを表す曲ではテンポを落とし、鈍い音色になるなど、感情を表す演奏法には法則性がありました」(河瀬さん・以下同)
演奏者の感情表現と演奏した音の特徴
喜び
●平均テンポが速い
●音の立ち上がりが速い
●スタッカート(音を短く切る演奏法)が
●使われる
●音色が明るい
●テンポ変動が小さい など
優しさ
●平均テンポが遅い
●音の立ち上がりが遅い
●レガート(音を切れ目なくなめらかに演奏すること)が使われる
●音色が柔らかい など
怒り
●平均テンポが速い
●音圧レベルが高い
●音の立ち上がりが
●急激
●音色が鋭い など
恐れ
●平均テンポが速い
●テンポの変動が
●大きい
●音圧レベル(デシベル/dB)がとても低い
●スタッカートが使われる など
悲しみ
●平均テンポが遅い
●レガートが使われる
●ゆっくりしたヴィブラート(音を震わせる演奏・歌唱法)が使われる
●音色が鈍い
●音が小さい など
※出典:Juslin, P. N., & Timmers, R.(2010)より改変
楽曲の選択次第で“なりたい気分”になれる
興味深いのは、単純に短調=悲しい曲ということではなく、テンポやリズム、音圧などの組み合わせによって喜怒哀楽の表現が決まってくるという点だ。
「ただし、テンポが遅く、静かに演奏されることの多い優しい曲や悲しい曲は、判別がつきづらいようです。起伏が少ない曲は、人により受け止め方が異なるのかもしれません」
こうした研究事例などをもとに、河瀬さんは“なりたい気分”に合った楽曲の選定方法をこう話す。
「選定基準の1つはテンポ。一般的に、速くも遅くもないテンポは120BPMとされており、それ以上がアップテンポで覚醒的、それ以下がスローテンポで沈静的とされています」
ちなみに、120BPMの代表曲は「ロッキーのテーマ」で、ウオーキングに最適のテンポとされる。
「ヒーリング音楽としてよく言及されるエンヤの曲には、科学的な裏付けが。実験参加者に『人前で話す』というような心理的ストレスをかけた後にエンヤの曲を聴かせたところ、ストレスホルモンであるコルチゾールの値が減少したという実験結果が出ました」
今回紹介しているエンヤの「Only Time」は83BPM。安静時の人の正常な心拍数は1分間で60〜100回とされているので、呼吸をするような安心感があるのかもしれない。
「歌詞の内容で感情を揺さぶられるという楽曲もたくさんありますよね。歌詞はセルフトーク(心の中のひとりごと)として機能しますから、気分を上げたいときは、ポジティブな歌詞の曲を選ぶと効果的です」
河瀬さんが選ぶ目的別おすすめミュージック
状況や感情に合わせてどういう音楽が最適か、河瀬さんの解説とおすすめの音楽を紹介。気分に合わせて聴いてみよう。
<1>リラックスしたい
「落ち着いていてゆっくりとしたテンポ、そしてリズムが複雑でないものがいいと思います」(河瀬さん・以下同)
エンヤ「Only Time」(83BPM)
アイルランド出身の歌手、エンヤによるヒーリング音楽の代表格。
エリック・サティ「ジムノペディ」(75〜95BPM)
数々の映画やCMなどのBGMとして使われているピアノ曲。“ヒーリング音楽の原点”ともいわれる。
サン=サーンス「白鳥」(60BPM前後)
チェロとピアノによって演奏される優雅で穏やかな楽曲。
<2>気分を上げたい
「アップテンポで明るく、覚醒的な音がおすすめです。歌詞の影響も心理的に大きいので、自分に語りかけるようなポジティブな歌詞だとより◎」
いきものがかり「じょいふる」(159BPM)
「文字通り“ジョイフル(楽しい)”な一曲。ハイテンポが終始続き、自然と体が動きます」
ウルフルズ「ええねん」(174BPM)
「“笑い飛ばせばええねん”というポジティブな歌詞も前向きな気持ちを後押ししてくれます」
ワン・ダイレクション「What Makes You Beautiful」(125BPM)
「テンポはそれほど速くないが曲調が明るく、サビの部分で高く転調することで、気分がより高まります」
Mrs. GREEN APPLE「インフェルノ」(185BPM)
「疾走感のあるギターのテンポやメリハリのあるメロディーが特徴。とにかく突っ走ろうという気分に」
<3>運動前
「運動前は心拍数を上げて覚醒状態を作り、動ける体の準備をするための曲が向いています。テンポが速く、音が大きめのものがいいでしょう」
ONE OK ROCK「完全感覚Dreamer」(190BPM)
「ノンストップのスピード感があり、ライブでも相当盛り上がるという一曲。ウオーキングよりランニング向き」
カール・オルフ「カルミナ・ブラーナ」(139BPM)
「オーケストラと混声合唱による壮大な楽曲で、映画のクライマックスシーンにも登場する名曲」
B’z「ultra soul」(127BPM)
「言わずと知れたB’zの代表曲。この曲がかかれば自然と体が動き出し、『やるぞ!』という気分に」
<4>運動中
「音楽を聴くと、脳に音楽の情報が割り込むため、主観的なつらさが減るそうです。運動前のハードなものからリズミカルで明るい曲に変えることで、いつもよりちょっとがんばれます」
BTS「Dynamite」(114BPM)
「躍動感あふれるダンスでアップテンポな曲のイメージが強いが、意外にウオーキングに合うテンポ」
EXILE「Rising Sun」(127BPM)
「“陽はまたのぼってゆく”というポジティブな歌詞と力強いリズムが繰り返され、目標より長く歩けそうです」
ボン・ジョヴィ「リヴィン・オン・ア・プレイヤー」(123BPM)
「往年の大ヒット曲。“成功することを信じて生きる”という前向きな歌詞もスポーツにぴったり」
<5>物事に集中したい
「気分が乗らないときはアップテンポで明るめの覚醒系を。じっくり集中したいときや過緊張が伴う場面なら、力強い曲や静かな曲もおすすめです」
スキマスイッチ「全力少年」(134BPM)
「アップテンポで曲調も明るめ、自分を鼓舞してくれる応援ソングは、低めのテンションから上げるときに◎」
エミネム「ルーズ・ユアセルフ」(86BPM)
「心の内面に響くような力強いヒップホップは、アスリートの中でも支持の高いジャンル。静かな闘争心が湧いてきます」
アリアナ・グランデ「サムタイムス」(78BPM)
「スローテンポでとても静かな楽曲で、高ぶりすぎたテンションを抑えてくれる効果が」
<6>アンガーマネジメント
「怒りや不安を鎮めるには、テンポがゆっくりで、音が小さめの静かな曲がいちばん。先述のエンヤもいいですね」
カーペンターズ「イエスタデイ・ワンス・モア」(83BPM)
「メロディーもリズムもシンプルで、曲調も暗すぎず明るすぎず。心がニュートラルになる曲」
バックストリート・ボーイズ「アイ・ウォント・イット・ザット・ウェイ」(99BPM)
「やや寂しげなメロディーにも聞こえるが、興奮した感情を落ち着かせてくれるのにはちょうどよいフラットさです」
※「BPM」とは、Beats Per Minuteの頭文字で、1分間の拍数のこと。ちなみに多くの楽曲のBPMは、「SongBPM」「Tunebat」などのWEBサービスで配信中の楽曲を検索し、確認することができる。
取材・文/佐藤有栄 イラスト、写真/PIXTA
※女性セブン2024年11月28日号
https://josei7.com
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