介護のプロが選ぶシニア世代に役立ちそうな商品ランキング「1位は難聴対応スピーカー」
11月11日は介護の日。介護の負担をラクにするため、シニア世代の安全かつ豊かに生活をサポートするためのさまざまなアイデア商品が誕生している。そこで注目なのが『シニア兆し調査2022』によるシニア世代向けの商品ランキング。ランキング上位には、「難聴対応スピーカー」や「食材をやわらかくする調理家電」などが入った。どんなものなのか、ランキングをひも解きながら解説する。
シニア兆し調査で「期待の商品サービス」ランキングを発表
総務省によると、日本の総人口は前年に比べて82万人減少しているが、65才以上の高齢者人口は3627万人で過去最多。総人口に占める割合(高齢者率)は29.1%と過去最高。75才以上も初めて15%を超えた(9月15日現在推計)。
「人口におけるシニアの割合が増え続けています。また、医療の進歩により長寿化が進み、“シニアでいる期間”もますます長くなっています。そこで、だんだんと身体状態が衰え、生活の負担が増したとシニアのかたが感じ始めた際、安全かつ豊かに生活していくためにどのようなサポートがあればよいのかを改めて考えたいと思いました」
そう語るのは、「『情報』と『つながり』で幸せな長生きを実現する」をミッションに掲げて事業展開をしているリクシスのシニアビジネス創造支援事業部プロジェクトマネージャー・中村有沙さんだ。
同社は「超高齢社会における社会課題解決」をテーマに、シニアに関する知見の研究などを行う電通の社内横断プロジェクト「電通シニアラボ」と共同で『シニア兆し調査2022』を実施。双方の視点からの「期待の商品サービス」のランキングを発表した。
調査の対象となったのは、従来の機能やシステムにとどまらない新しいテクノロジーを取り入れた商品やサービスを中心とする27ジャンル(下段参照)で、介護職経験のある同社CCO(チーフケアオフィサー)木場猛さんがピックアップしたものだ。
「今回のジャンルには認知度がそれほど高くないものも入れましたが、全体的にポイントが高かったことに驚きました。調査対象の6割がTOP10入りしたものすべてに『興味がある』と回答していますが、それだけ高い興味・関心を持って、自分の生活に取り入れられそうなものを日々探しているのでしょう」(木場さん・以下同)
●60代・70代男女が選ぶ 不調が出てきたら取り入れたい!『期待の商品サービスTOP10』
順位/商品サービス名/取り入れたい(%)/興味がある(%)
1位/難聴対応スピーカー/46.1/74.1
2位/困りごと何でもお助けサービス/42.6/75.1
3位/ユニバーサル防災グッズ/40.9/73.8
4位/スマホで探せる紛失防止GPSタグ/40.5/73.1
5位/宅配弁当/38.1/74.4
6位/転倒を防ぐ床材/38.0/74.0
7位/やわらか外食サービス/36.4/69.0
8位/レトルト/冷凍やわらか食品/35.3/70.9
9位/やわらかくできる調理家電/35.1/68.6
9位/ハンズフリー・シューズ/35.1/62.5
出典:電通『シニア兆し調査』(対象は全国の60~79才の男女800人。インターネットで2022年7月27~29日に調査)
●期待度調査の項目
電通による『シニア兆し調査』は全国の60代前半男性、60代後半男性、70代前半女性、70代後半女性の各200人を対象に実施。リクシルによる『介護職調査』は全国の高齢者介護の現場従事者109名を対象に実施。それぞれインターネットで利用実態と将来期待度を調査。『介護職調査』の対象は以下の27ジャンル。【1】EC 【2】キャッシュレス決済 【3】移動式スーパー 【4】SNS 【5】ビデオ通話 【6】動画閲覧サービス 【7】フリマサービス 【8】紛失防止GPSタグ 【9】スマートスピーカー 【10】難聴対応スピーカー 【11】排泄予測機器 【12】外食モバイルオーダー 【13】宅配弁当 【14】やわらかレトルト冷凍食品 【15】やわらか調理家電 【16】やわらか外食サービス 【17】モバイルプロジェクター 【18】VRゴーグル 【19】直感型ゲーム 【20】コミュニケーションロボット 【21】写真共有・見守りサービス 【22】動画自伝サービス 【23】資産活用による社会貢献サービス 【24】転倒を防ぐ床材 【25】ユニバーサル防災グッズ 【26】買い物による介護予防サービス 【27】介護脱毛
難聴は介護リスクが進むきっかけになる
60代・70代シニアも、介護のプロも、期待度の1位は「難聴対応スピーカー」だった。
「シニアのかたの中には、いま現在すでに聴こえにくさを感じているかたもいることでしょう。難聴対応スピーカーが介護のプロでも1位になったのは、“聴こえにくさが身体の衰えを進行させる第一段階になる場合が多い”ことを、身をもって感じているからだと思います」
聴こえにくさを感じ始めると、周囲の人とのコミュニケーションがうまく取れなくなり、疎外感を感じたり閉じこもりがちになる。外出もしなくなって筋力が衰え、フレイル(加齢や病気などで筋力が衰えて心身の活力が低下し、要介護になる危険性が高くなった状態のこと)が進む。こうした事例が多いため、期待の商品第1位になったのだろう。
ではここからは、介護のプロが推す商品・サービスのトップ10を具体的に紹介しよう。1位の難聴対応スピーカーで、いま最も注目を集めているのは、高田純次のCMでも知られる『ミライスピーカー(R)』だ。開発のきっかけは、製造販売を行うサウンドファンの創業者・佐藤和則さんの父親が難聴になったことだったという。
音楽療法を研究する大学教授の「普通のスピーカーでは聴き取りづらい人が、蓄音機の音なら聴こえる」という話をヒントに試行錯誤を重ね、高齢のかたにも聴こえやすいスピーカーを開発。2015年10月から販売を開始した。同社取締役の金子一貴さんが言う。
「特許技術の『曲面サウンド(R)』により、音そのものをクリアに聴こえるように変換するのが『ミライスピーカー』です。広く遠くまではっきりと音声が届くため、テレビの音量を上げなくても言葉が聴き取りやすくなります。
以前行った調査では、70才以上の約半数が『聴こえにくい』と答え、その対応策として、8割近くのかたが『テレビの音量を上げる』を挙げました。一方、その家族世代である40才以上の4割超が『テレビの音が大きい』と回答しました。本商品はシニアには聴こえやすく、家族にはうるさがられないので、テレビの大音量問題を解消できます」
電源につなぎ、コードをテレビとつなぐだけで接続完了。空間全体に音が広がるため、テレビから離れたキッチンにいても、言葉が聴き取りやすくなるという。
衝撃によってやわらかくなる床材「ころやわ(R)」
介護のプロが推す第2位は「転倒を防ぐ床材」。注目は、転びにくくするのではなく、転んだときの衝撃を吸収する新しい床材『ころやわ(R)』(マジックシールズ)だ。一般的なフローリングと同じくらい硬いのに、転倒などして瞬間的に強い衝撃が加わるとやわらかくなるというから不思議だ。
「普段は硬くて凹まないので、歩行時はもちろん、車いすや杖も使用できます。が、歩行中にもし転んだときは床面が凹んで転倒による骨折リスクを低減してくれます。2020年11月から医療・福祉施設に導入し、当初はベッド周辺が中心でしたが、転倒が多いトイレや病室・居室全面への設置も増えています」(同社広報・北田佳子さん)
シニアの転倒骨折は、「要介護」となる大きな原因の1つ。見守りや付き添いで「転ばせない、ひとりで歩かせない」対策をとるにも限度があり、「自分の意思で自由に動けない」ことで認知症などのほかの病気を進行させたり、心身衰弱などの負の連鎖に陥ることもある。大腿骨骨折が原因で寝たきりになることも防げるこの床材は、転倒リスク低減だけでなく、シニアの活動量を増やす効果も考えられる。
見た目そのまま、やわらか料理に変身する「デリソフター」
3位の「やわらかくできる調理家電」の注目は、『デリソフター』(ギフモ)という、見た目と味は変えずに料理をやわらかくすることができる「ケア家電」だ。
「噛む力や飲み込む力が低下する摂食嚥下(えんげ)障害になると、刻んだり、ぺースト状に調理した専用の介護食を用意する必要があります。家族と別の料理を作るのは、手間と時間と費用が負担となりますが、本商品は家庭料理も市販の総菜も、見た目はそのままに、やわらかさの度合いを調整できるのがすばらしい」(木場さん・以下同)
この商品は、パナソニック発のベンチャー・ギフモが開発したもので、出来上がった料理を本体に入れて調理ボタンを押すだけで、12~29分後には対応食に変容する。形状をしっかりキープし、適度な食感を残しつつ、容易に咀嚼(そしゃく)できるほどやわらかくなる。
「食事をする上で、見た目や彩りはとても大切。家族みんなで同じものを、同じように目で楽しみながら食事ができるのは、豊かな生活につながります。5位の『やわらか外食サービス』も、同じ意味で注目されているのでしょう」
シニアによるランキングでは、5位「宅配弁当」、8位「レトルト/冷凍やわらか食品」もランクインしている。体が不調でも食べることの楽しみは大切にしたい、という気持ちの表れだろう。
●介護のプロが選ぶ 在宅シニアの役に立ちそう!期待の商品・サービスTOP10
順位/商品サービス/取り入れたい(%)
1位/難聴対応スピーカー/84.4
難聴でも、音量を上げずにテレビの音がはっきり聴こえる室内スピーカー『ミライスピーカー』が登場。
2位/転倒を防ぐ床材/76.1
転倒などで強い力が加わったときだけやわらかくなり、転倒による骨折を防ぐ床材『ころやわR』に注目。
3位/やわらかくできる調理家電/74.3
料理の見た目はそのままに、肉料理も総菜も食べやすいやわらかさにできる。調理家電『デリソフター』。
4位/買い物による介護予防サービス/68.8
買い物を楽しみながら介護予防やリハビリができるサービス。ショッピングセンターなどで行うのも特徴。
5位/やわらか外食サービス/67.0
外食における華やかなコース料理などを、嚥下障害などに対応したやわらか食で楽しめるサービス。
5位/写真共有・見守りサービス/67.0
スマホなどから送られてきた写真や動画をテレビで再生できる。視聴通知で家族の見守りもできる。
7位/コミュニケーションロボット/66.1
簡単な会話や時刻のお知らせなど、楽しみのある生活をサポートしてくれる、進化系ロボット。
8位/スマホで探せる紛失防止GPSタグ/65.1
紛失しやすいものにタグをつけておくことで、スマホで居場所を検索、すぐに発見できる、紛失防止GPSタグ。
9位/ユニバーサル防災グッズ/61.5
誰でも簡単に使える防災グッズ。頭にのせて押すだけで装着できる防災キャップ『でるキャップ』など。
10位/VRゴーグル/58.7
外出しなくても安全に旅行気分を味わえる。福祉・介護の現場でレクリエーションなどでの活用が普及。
出典:リクシス『シニア兆し調査』の『介護職調査』(対象は全国の高齢者介護の現場に従事する男女109人。インターネットで2022年7月28日~8月6日に調査)
コミュニケーション能力の向上が生活の質を上げる
4位の「買い物による介護予防サービス」は、ショッピングを介護・リハビリにつなげた新しい事業だ。
ショッピングリハビリカンパニーの代表・尾添純一さんは次のように説明する。
「フレイル状態にある高齢者を商業施設まで送迎し、買い物を通じて行ったりする、独自のリハビリプログラムです。歩行、買い物を通じて自宅の冷蔵庫の中を想像する『記憶の呼び出し』、計算してお金を払う『経済活動』、店員や仲間との『コミュニケーション』など、すべての活動が身体・認知機能の維持・改善に役立ちます。ショッピングリハビリは、『楽しみながら』『運動・訓練』ができるサービス。利用されるかたは楽しそうで、どんどん元気になられますよ」
同率5位の「写真共有・見守りサービス」で人気なのが、スマホから実家のテレビに動画や写真を直接送れる『まごチャンネル』(チカク)だ。
同社広報の石井唯宏さんは、人気の秘密を次のように解説する。
「面倒なWi-Fiの工事や設定は不要。本体に通信機能が内蔵されているので、テレビと電源をつなげるだけでOK。高齢者が使い慣れたテレビのリモコンで操作できるのが特徴です。また、動画や写真を視聴すると『見始めました通知』が届くので、見守りとしての機能も果たせます」
離れて暮らす高齢の親に「見守りサービスを導入する」と言うと「大げさな」と抵抗されそうだが、このサービスなら自然な形での「見守り」ができると好評だ。このサービスの利用によって高齢者の孤独感が減少傾向にあることが、同社と国立長寿医療研究センターとの共同研究の中間報告で示されている。
7位の「コミュニケーションロボット」は、おもちゃとして会話を楽しむものから、AI機能を搭載した最新型や通信機能を備えたものまで数多く登場している。
例えば『ロボホン』(シャープ)は、電話の機能を備えたモバイル型ロボット。話し相手になるほか、設定した時間に合わせて服薬確認をしてくれたりする。その日話した内容に合わせて、高齢者の様子を離れて暮らす家族に報告する「見守り・確認ツール」としても利用できる。
「介護スタッフの代わりにロボホンをテーブルに1台置き、レクリエーションを行っているという施設もあります。介護のプロの手が届かないところをサポートしてくれるものとして、期待値が高まっており、今後の進化が楽しみです」(木場さん)
8位の「スマホで探せる紛失防止GPSタグ」は、物忘れが進むシニアにとっての必需品になりそうだ。
9位の「ユニバーサル防災グッズ」は、いざというときに頼りになるものとして、シニアでは3位に入った注目商品。床ずれ防止用マットレスをはじめとする介護福祉用品「アルファプラ」シリーズを製造販売するタイカの『アルファプラ R』は、災害備蓄用の高機能マットレスとして自治体の導入も増えている。
「付属のエアポンプを使い、電気を使わずに膨らませることができ、床の硬さや冷たさを感じることなく、被災時の避難生活を過ごせます。また、頭の上にのせてそのまま押し付け、あごひもを留めれば、3秒ほどで装着完了できる防災キャップ『でるキャップ コンパクトタイプ』はポリエチレン製で約85gと軽く、シニアでも楽にかぶれます。防災頭巾の約5倍の高い衝撃緩衝力を発揮し、難燃素材により炎からも頭を守ります」(同社担当・尾身貴久さん)
10位の「VRゴーグル」は、外出がままならなくなったシニアのお出かけ欲をかなえるために導入する施設が増えており、今後は在宅シニアにも広がるかもしれない。
「家族のサポートや介護をしている人たちの間では、課題解決型エイジテック(難聴対応スピーカー、紛失防止タグ、やわらか調理家電、ハンズフリー・シューズ〈ナイキ ゴー フライイーズなど〉)や、安全を守る商品(ユニバーサル防災グッズ、転倒を防ぐ床材)の取り入れ傾向が高まっています」(中村さん)
シニア自身はすぐにイメージしやすい“食”などに対する期待が高く、在宅シニアの役に立ちそうという介護のプロの期待と若干ギャップがある。この先の楽しいシニアライフを考えながら、生活がもっと安全で便利になる商品サービスの知識を、いまのうちに得ておきたいものだ。
取材・文/山下和恵
※女性セブン2022年10月20日号
https://josei7.com/
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