全盲の精神科医が語る「目が見える」で成し遂げられること「目が見えている人は“超能力者”。見えるからこそ分かることがたくさんある」
患者の心の中に潜む悩みや苦しみに寄り添う──。視力を失った全盲の状態でそんな仕事を行っている人がいる。
その名は福場将太さん。北海道美唄市で精神科医として従事する彼は徐々に視野が狭まる病によって32歳で完全に視力を失った。それでも精神科医として10年以上にわたり、患者の心の病と向き合っている。
私たちの多くは「目が見えていること」について何も意識していないが、福場さんからすると、それは「超能力」。初の著書『目の見えない精神科医が、見えなくなって分かったこと』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。
教えてくれた人
福場将太さん
1980年広島県呉市生まれ。医療法人風のすずらん会 美唄すずらんクリニック副院長。広島大学附属高等学校卒業後、東京医科大学に進学。在学中に、難病指定疾患「網膜色素変性症」を診断され、視力が低下する葛藤の中で医師免許を取得。
2006年、現在の「江別すずらん病院」(北海道江別市)の前身である「美唄希望ヶ丘病院」に精神科医として着任。32歳で完全に失明するが、それから10年以上経過した現在も、患者の顔が見えない状態で精神科医として従事。支援する側と支援される側、両方の視点から得た知見を元に、心病む人たちと向き合っている。
また2018年からは自らの視覚障がいを開示し、「視覚障害をもつ医療従事者の会 ゆいまーる」の幹事、「公益社団法人 NEXTVISION」の理事として、目を病んだ人たちのメンタルケアについても活動中。ライフワークは音楽と文芸の創作。
自分の持つ「超能力」に気づいてますか?
目が見えない人間からすれば、「見える」というのはやっぱりすごいことです。
私にとって目が見えている人は、もはや超能力者なのです。だって私にとっては不可能に近いことも、一瞬で成し得てしまうのですから。
例えば「探し物」。世の中には失くした物をすぐに見つける名人がいますが、目を使わずにそれをするのは至難の業です。
机の上に1枚のコインが置かれていたとしましょう。これを探す際にも目が見えていれば文字通り一目瞭然、一瞬で、ピンポイントでつかみ取ることができます。しかし目が見えないと手で机の上を端から端まで探し回らなければなりません。
その手が当たってコインが床に落ち、なおかつコロコロ転がって行ってしまったりするともはや絶望的。耳をそばだててコインの消息を追うも、まるで蒸発したようになかなか想定した場所にはいてくれず、今度は床の上を端から端まで手を使って探し回ることになるのです。
目が見えていれば、部屋を見渡してキラリと光るコインを拾えばいいだけのこと。私のように手のひらをホコリまみれにする必要はありません。
部屋を整理整頓しておけば、ある程度は「探し物」の大変さを軽減することはできます。しかし屋外ではそうはいきません。
特に大変なのがスーパーマーケット。私には、どこに何が並んでいるのかさっぱり分かりません。レトルトカレーのコーナーに辿り着いても、パッケージはどれも似たり寄ったり、文字通り見分けがつかない状態です。
レトルトカレー以外にも、スーパーには、形状が似ている商品が盛りだくさん。
ペットボトルは言うに及ばず、紙のパックだってフルーツジュースも、飲むヨーグルトも、コーンポタージュスープも、基本的には牛乳と同じ形をして同じ棚に並んでいます。愛してやまない激辛レトルトカレーの『LEE』についてはさすがにパッケージの感触を憶えましたが、それでも辛さ10倍と20倍の違いまでは判別不能。
カップラーメンやカップ焼きそばもそう、缶詰もお肉やお刺身のトレイもそう、冷凍食品もそう、感触だけで判別するのは難しいです。
それにあんまり撫で回していたら万引き狙いの不審者と疑われてしまいますし。