介護職の賃上げ率2.52%にとどまる 「他産業に追いつかず」 介護事業所団体調査
全国の介護業界団体が実施した最新の調査によると、特別養護老人ホームや訪問介護などで働く介護職の正社員の今年度の賃上げ率は、前年度比2.52%にとどまった。介護業界は他産業に比べ賃金面でさらに遅れを取り他産業との格差が広がっていることから、人材流出の懸念が一層強まっていることが明らかになった。
調査が明らかにする介護業界の苦境
今回の調査は、全国老人保健施設協会(全老健)を含む9つの介護事業者団体が2024年8月から9月にかけて実施し、2060件(8761事業所分)の回答を集計したものだ。調査結果では、介護事業所の正社員の賃上げ率は平均2.52%、賃上げ額は6,098円だった。昨年度の4600円から33%増加したとはいえ、他産業の5%以上の賃上げには届かず、依然として賃金格差が残る印象だ。全老健の担当者は介護ポストセブンの取材に、
「介護施設・事業所での賃上げは一定程度進んだものの、他産業との格差は拡大している。連合による春闘の賃上げ率が、中小企業でも4.45%増だったのでとても追いつかない」
とコメントしている。
物価高騰が介護事業を直撃
介護業界の賃上げを阻んでいるもう一つの大きな要因は、物価高騰だ。今回の調査では、特別養護老人ホームの電気代が2020年6月と比較して55%増加し、ガス代は51%増、燃料費も32%増加していることが明らかになった。これらのコスト増加が、介護事業者の経営をさらに圧迫し、賃上げの余地を狭めている。全老健の担当者はこの状況について、「都道府県が行う、臨時経済対策は都道府県によって差がある。物価対策はありがたいが、地域差をなくして欲しい」と話す。光熱費や燃料費の負担が経営にのしかかる状況では、介護職員の賃上げが限界に達しており、今後、介護サービスの質にも影響が出る可能性が高い。
介護業界の未来には報酬制度改革が鍵
介護業界が他産業との賃金格差を埋め、安定して人材を確保するためには、賃金と報酬制度の見直しが不可欠だ。特に、10月に予定されている最低賃金の引き上げは、業界にさらなる圧力を加えると予想されている。このままでは、介護職員が他産業へと流出し、現場での人手不足が深刻化する懸念がある。
「令和6年の介護報酬改定は2年分の賃上げが含まれている。令和8年には追加の改定が予定されているが、現状では来年の賃上げをすることが困難な状況である。来年度の緊急追加対策を要望していきたい」(前出の全老健担当者)
賃金と物価のバランスを取りながら、介護業界が持続的に発展できるための対策が求められている。また、この問題は介護職員だけにとどまらず、介護サービスの利用者にも影響を及ぼす可能性がある。人材不足が進めば、サービスの質が低下し、必要なケアが行き届かなくなるリスクが高まる。今後、政府の支援策がどのように実行されるかが、業界全体の将来を左右する重要なカギとなるだろう。
構成・文/介護ポストセブン編集部