猫が母になつきません 第411話「ごまかす」
さびは人間でいうと60歳くらい。そりゃ抱っこもうれしくないわ。抱っこされそうだと察知してそそくさと逃げようとするところを後ろからガシッとつかまえます。私の腕のなかにおさまったさびの顔はもう「ちっ」って感じでほんとうに不満そうだけれど、たいがいはしばらくの間おとなしくモフらせてくれる。さびがのっけから前脚で私の顔につっぱりを入れてくる時は私も猛抗議で、さびの前脚に自ら顔をぐいぐいくいこませて不満を表す。するとさびは「そういうつもりじゃ…」という感じでさりげなく前脚を移動してほっぺたに触ります。最初からそうするつもりだったみたいに。
最近アメリカの大統領選のニュースで「cat lady(キャットレディ=猫好きおばさん)」という言葉が話題になっていました。トランプ大統領候補が副大統領候補に選んだヴァンス氏が過去にこの言葉を使っていて各方面から非難轟轟だったのですが、キャットレディは単に「猫好きな女性」というだけでなく、「独身」「子供がいない」「若くない」「孤独」といった意味を含んでいるのだそう。そうです、わたしがキャットレディです(笑)。総じてキャットレディは悪口として使われるのですが、自分で私はキャットレディだという場合にはいい意味にもなるのだとか。キャットレディですけど何か?、みたいなプライドを表す言葉として。
さびがいると母との生活が続いているようで、一緒に母が帰ってくるのを待っているような気持ちになります。挨拶し、話し、笑い、キャットレディの日々はむしろ孤独とは無縁です。
作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母と暮らすため地元に帰る。ゴミ屋敷を片付け、野良の母猫に託された猫二匹(わび♀、さび♀)も一緒に暮らしていたが、帰って12年目に母が亡くなる。猫も今はさびだけ。実家を売却後60年近く前に建てられた海が見える平屋に引越し、草ボーボーの庭を楽園に変えようと奮闘中(←賃貸なので制限あり)。