倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.43「亡き夫を思い出す夏の風景」
妻の倉田真由美さんの夫で映画プロデューサーの叶井俊太郎さん(享年56)が、すい臓がんの告知を受けたのは2年前の夏のこと。毎年夏休みに家族旅行をしていたという叶井家。夏の思い出を振り返り、今思うこととは。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
毎年夏には家族旅行へ
夫がいない初めての夏が終わろうとしています。
夫を思い出す時、背景にあるのは夏の風景であることが多いです。逆に夏の風景、真っ青な空に入道雲とか青い海に光る砂浜などを見た時も、夫を連想します。
今まで一緒に長い旅行に行ったのが、圧倒的に夏が多いからだと思います。夫と結婚してからずっと、夏には長めの休暇をとって家族旅行をしていました。
家族旅行って、必ずしも楽しいばっかりじゃないと思うんですよね。特に子どもがいると、旅の主役は子どもになりがちです。うちもそうでした。
遊びに行くのは、子どもが喜ぶ場所。子ども最優先。子どもが喜ぶ姿を見るのは幸せですしそのために行くことに不満を感じたことはないですが、じゃあ子どもと同じようにはしゃげるかというとそんなわけはなく、子どもが遊ぶのを見守りながらぼんやりする時間もわりとあります。
そういう時間は自分自身が「楽しい!」というより、「楽しそうでよかった」という時間。友だちや恋人と行く自分主体の旅とはやはり違います。
だからか、私は家族旅行に対しては「行ってもいいけど、お金も時間もかかるし、うーん…」と、必ずしも毎回積極的ではありませんでした。でも夫が「ここ行きたい!行こう!」と常に前のめりで、そのパワーに押されて出かけるというパターンがほとんど。私の旅の歴史は、ほぼ夫主導によるものです。
でも今振り返ると、どれもいい思い出ばかり。思い出して、「楽しかった」と言えるものばかりです。
その時その瞬間は気づかなくても、後で思い返した時にしみじみ分かる幸せってあります。夫と行った旅は、どれも楽しくて幸せな思い出です。もっともっと行っておけばよかったと後悔しているくらい。
旅は日常と違って記憶に残りやすいから、旅先の夫の姿をもっと目に焼き付けておけばよかったと悔やんでいます。
がん告知を受けた2年前の夏、石垣島へ
夫がすい臓がんの告知を受けた‘22年の夏、石垣島に行きました。この頃の夫は胆管の詰まりも治ってとても元気で、体重もまったく減っておらず元気いっぱいでした。
「俺も、これやろうかな」
工作好きな娘と並んで、シーサーの色塗り体験をやった夫。あれは、病気のことがなかったらやってなかったんじゃないかなと思います。
普段ほとんど病気のことは忘れて生活していた夫ですが、あの時だけは、自分なりに娘との思い出作りをしていたように感じました。本人には聞けずじまいですけどね。
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。
『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』
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