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考察『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』4話|「大丈夫ですか?」ではなく「何かお手伝いできることはありますか?」と訊くだけで変わる」

 昨年、ギャラクシー賞月間賞受賞など高い評価を受けた『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』の地上波再放送が話題です(NHK 火曜よる10時〜)。「令和の新しいホームドラマ」の呼び声も高い本作を、ドラマに詳しいライター・近藤正高さんが4話を振り返ります。

それぞれの突破口

『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』第4話のキーワードはずばり「道」だった。冒頭では、主人公・岸本七実(河合優実)がまだ生まれる前、彼女の両親である耕助(錦戸亮)とひとみ(坂井真紀)が歩きながら、近所にある坂道を、年をとっても苦労しないで登れるよう車を買おうかという話をしていた。新たな家庭を築こうとしていた二人には、きつい坂道も夢に満ちた未来へと一直線に通じているかのようであった。

 だが、その坂道も、耕助が亡くなり、さらに自身も病気で車椅子ユーザーとなったひとみには大きな障壁でしかなくなる。いざ一人だけで坂を登ろうとチャレンジしたものの、車椅子はどんなに力を入れても前へ進んでくれない。そこへ親切な人が通りかかり、「大丈夫ですか」と声をかけ、坂の上まで押してくれたのだが、そのときのひとみの表情は絶望そのものであった。

 今回のエピソードでは、ひとみが足が動かせないためにもどかしい思いをするさまが随所で描かれた。家にいてもちょっとした角でも車椅子で曲がるのには難儀するし、ベッドに横になりながらゴミを捨てようとしても、床に置かれたゴミ箱になかなか手が届かない。そんなふうに道を塞がれたような境遇に置かれながらも、ひとみはやがていくつかの出来事により、そこから抜け出ることを目指すようになる。

 一方、七実もまた、前回、大学のテストを欠席して家族と沖縄旅行に行ったおかげで単位取得の危機に陥った。その後も講義には出てはいたものの、そもそも彼女はひとみのために社会を変えたくて大学に入ったのに、一向にそれを実現するための糸口が見えず、母親同様に袋小路に入り込んでしまっていた。

 とはいえ、七実の場合、ひとみとは違って単純な性格(失礼!)が幸いして、すぐに突破口を見出す。講義を途中で抜け出してキャンパス内を歩いていたところ、たまたま、車椅子ユーザーである上級生の首藤(丸山晴生)が自身の起業した会社について講義しているところに出くわしたのだ。

 七実は前回、入学直後に首藤をキャンパス内で見かけた際には「起業って言葉、嫌いやわ」と口にしていた。それが一転して、このときの首藤の「車椅子に乗ったこの高さから、まるで虫眼鏡みたいに社会に足りないものや未来に必要なものを発見できるよう、僕たちは『ルーペ』というユニバーサルデザイン会社を立ち上げました」という言葉が、彼女にとって一筋の光明となる。

 七実は今回も思い立ったら即実行で、さっそく首藤に駆け寄ると、自分もルーペに入れてほしいと頼み込む。そして、自分の母親も車椅子に乗っており、いますぐ彼女のために何かしたいと思いのたけを訴えた。首藤の相棒・溝口(若林拓也)からいまは人を雇う余裕はないと断られても、お試し採用で構わないからと食い下がる。「じゃあ何ができる?」と首藤から訊かれると、パソコンが得意で、ホームページ(HP)がつくれるととっさに噓をついた。結局、これが決め手となり、まずはHPをつくり、それで仲間にするかどうか判断するということになる。

 七実はすぐさまHPづくりの参考書を手に入れると同時に、首藤についてネットでリサーチしたうえ、彼が先の講義で話していたことにちょっと言葉を盛って企業理念を書いてみた。これがずばり首藤の目指していることと一致する。高校時代にSNSで別人格になりすまし、クラスの一軍女子をまんまとだましてみせた憑依能力が、まさかこんなところで活かされるとは。七実の人生に無駄という二文字はないのかもしれない。

坂道を登りきって未来へ

 だが、はしゃいでばかりはいられなかった。このあと、首藤は溝口と駅ビルの内装デザインコンペについての打ち合わせ中、懸命に議事録を取る七実に対し、不意打ちのように「何でそんな頑張るん?」と質問してきた。彼女は迷うことなく「母を喜ばせるためです!」と答えるも、首藤からさらに「お母さんの喜びは岸本さんが頑張ることなん?」と疑問を呈され、言葉に詰まってしまう。

 そのころ、当のひとみは病院でのリハビリで一緒になる人たちから慕われ、さまざまな相談事を持ちかけられては、答えてあげていた。もともと彼女は、病気になる前には整体院で働いており、人の話を聞くのは得意だった。そんなひとみに、たまたまそばを通りかかった佐々木さん(佐藤貢三)が、こっちの道に進む道もあると、自分の名札を示して教えてくれる。そこには「心理カウンセラー」という肩書が記されていた。ひとみの心にもまた、一筋の光が射し込んだ瞬間だった。

 ここからもわかるように、ひとみの喜びとは、誰かから何かをしてもらうという以上に、自分が誰かのために役に立てられることだったのだ。七実がそのことに気づいたのは、連日徹夜しながらHPをつくっていた最中、ふと「首藤さんの喜びはどんなことですか?」と訊ねたときだった。これに対する首藤の答えは「人から『ありがとう』って言われるのはうれしいかな」。それというのも、車椅子になったとき、自分が感謝される側になることはもう一生ないと思っていたからだという。

 こうして七実はようやく、自分はひとみに何かをしてあげることばかり考えていたと気づくと、あることを思いつく。それは、例の駅ビルのコンペでひとみに話をしてもらうことだった。

 娘の依頼に初めは「人から同情されるような目で見られたくない」と断ったひとみだが、このあと、息子の草太(吉田葵)がある出来事を通じて自分の信念を貫くのを見て心を動かされる。そして例の坂道を自力で登ることに再び挑むと、子供たちの前で見事達成する。このとき、ひとみが「ホンマは『車椅子やからかわいそう』って自分が一番思ってたんかもしれへん」と己を省みると、七実は「昔のママに怒られるで」と返し、さらにどさくさにまぎれて「『七実のために一肌脱ぐか』とも言いそうやわ」「昔のママなら絶対言うわ」としつこくコンペへの参加を促した。ここまで言われたら、ひとみも受けて立つしかない。

 コンペにおいてひとみは「障害のある人もない人も、困っている人がいるとき、『大丈夫ですか?』と声をかけがちだと思うんです。『何かお手伝いできることはありますか?』と訊くようにするだけでずいぶん変わると思います」と語りかけた。この言葉は、ルーペに勝利をもたらすとともに、冒頭で彼女が坂道でかけられた言葉への回答にもなっていた。

 ともあれ、コンペの成功により、七実も正式にルーペのメンバーとして迎えられ、そればかりかひとみも、心理カウンセラーになる勉強をしながら、同社のアドバイザーとして自分の経験を人に伝える仕事を得ることになる。

 このドラマでは初回より、岸本家の過去と現在が地続きのように描かれてきたが、今回はとくにそれが際立っていたように思う。それというのも、やはり道を軸として物語が展開されたからだろう。

 そこでは、ひとみと耕助の新婚時代に始まり、子供たちが生まれてから待望の車を買ってみんなでドライブに出かけたことや、さらにダウン症の草太が普通の小学校に入学した際には、ひとみが心配して通学路の陰から見守るなか、ほかの子供たちが草太をあっさり受け容れてくれたことなど、道で起こる出来事がことごとくいまを生きるひとみに影響をおよぼし、動機づけとなっていた。

 そしてその道はさらに、車椅子に乗ったひとみが自力で坂道を登りきることにより、未来へとつながっていくことになる。ラストの七実の「パパはいなくなっても、ママは歩けなくなっても、ママとパパが歩いてきた道は続いていた」というモノローグには、まさにそんな今回の内容が集約されていた。

 今回の話で特筆すべきはもうひとつ、七実とひとみがそれぞれ袋小路から抜け出すべく行動を起こし、そこからお互いの気持ちを理解し合い、ついには同じ目標をもって仕事を始めるにいたったことだ。ひとみはまずはひと安心といったところだが、これまで母のために社会を変えるとがむしゃらに突き進んできた七実のほうは、学生にしてベンチャー企業の一員になったのを機に少しは落ち着くのだろうか? 次回予告では結構深刻な事態が彼女を待ち受けているようだし、気になるところだ。

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)


ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。

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