倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.39「夫を送る会で伝え損ねたこと」
映画プロデューサーの叶井俊太郎さん(享年56)を偲ぶ「叶井俊太郎さんを送る会」が2024年7月10日に行われた。会場となった東京・渋谷の映画館WWW X(旧シネマライズ)には多くの来場者が訪れた。妻で漫画家の倉田真由美さんは、当日会場で「伝えられなかった」メッセージがあるという。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
送る会に300人以上の来場が
先日、夫・叶井俊太郎を送る会を、有志の方々に開催していただきました。
生前の夫は何度か、
「俺が死んだら『送る会』やるよね」
と、口にしていました。葬儀に関することは一度も話さなかったのに、「送る会」はやって欲しかったのか仲間内でそういう話をしたことがあるのか、開催するのは本人の中で確定事項になっていたようでした。
私は夫が生きているうちに死後の話なんかしたくなくて、いつも詳しい話をする前に話題を変えていました。だから、夫がどんな「送る会」をして欲しかったかは分かりません。でも賑やかなのが好きな夫、「いっぱい人が集まるといいな」とは思っていたはずです。
実際、たくさんの人に来ていただきました。
夫は、実は普通のサラリーマンです。ちょっとだけ名前が有名なのは昔、「アメリ」など意表のヒット作に関わったからですが、どれも夫が作った映画ではありません。本人も散々ネタにしていますが、「アメリ」の場合、ホラー映画だと勘違いして買いつけたらラブコメで、なんだか分からないうちに大ヒットしちゃったという成功譚なのか何なのかが世間に面白がられたという経緯があります。
何か偉大なことを成し遂げたわけではないけど、不思議と人気者だった夫。正直なところ、なんとか100人くらい集まっていただけたらいいなと不安だったんですが、蓋を開けてみると「送る会」には300人以上の来場があったそうです。
当日、伝え損ねたこと
夫という人間のユニークさ、個性の強さを受け入れてくれていた人たちが数多くいたことに、私は感動しました。「送る会」では夫の人となりをよく知る人たちが、舞台上で様々なエピソードを語ってくれました。
夫が小学生の頃に、パンツの中に虫が入って大騒ぎしたという会場を沸かせた話は私も初めて聞く話でした。夫らしい、しんみりすることが一切ない、笑いに満ちたいい会でした。
閉会間際に私も少しお話しさせていただきました。また泣いてしまってうまく話せなかったけど、伝え損ねたことをこの場で一言だけ。
どうか夫のことを忘れないであげてください。たまには思い出してもらえたら幸甚です。
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。
『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』
『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』