倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.38「夫、最後のバイバイ」
すい臓がんで闘病を続けていた叶井俊太郎さんは、2024年2月15日の深夜、昏睡状態に陥った。妻で漫画家の倉田真由美さんは傍らで見守り続け、やがて朝を迎えた。意識を取り戻した叶井さんは、4度目の余命宣告を跳ね返し――。その後のエピソード。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
日が昇り、そして目覚めた夫
深夜自宅に来た訪問医に「朝までもたない」と言われ昏睡状態に陥った夫でしたが、日が昇る頃には呼吸も穏やかになり、その後目を覚ましました。
「俺、昨日ヤバかったよね」
「うん。危なかったよ」
意識を取り戻し、介護用ベッドから私に話しかけた夫。「やった、夫が戻ってきた!」と、飛び上がるほど嬉しかったのを覚えています。朝日を見ることはできないと宣告されたのにまたしても復活した夫、これからもまだまだ生きるんだと私は安堵しました。
私はキッチンに立ちコップに水を注ぎ、夫の口元に持っていきました。喉が渇いているはずでしたが、夫は口を湿らせる程度にしか飲めませんでした。
その後、夫はまた目を閉じて眠ってしまいました。正確には、眠っていたのか、ただ目を閉じていたのか、意識を失っていたのか、分かりません。夫はこれ以降話すことはありませんでした。
看護師さんが訪問
夜中に来てくれていた義妹は一旦帰宅して再度来る、ということでまた夫のそばにいるのは私だけになりましたが、昼頃には訪問看護師が夫の様子を見に来てくれました。
いつもなら看護師さんに軽口を叩く夫ですが、この日は目を閉じたまま、話しかけてもほとんど反応がありません。でも、首を振ったり身体を動かすので眠っているわけではないことは分かりました。血圧は深夜よりはましになってはいたものの上が60台と、とても低い状態が続いていました。
看護師さんに、今後の介助の仕方を指導してもらいました。夫は私たちに身体を預け、されるがままです。前日まで普通に話し、歩き、トイレもシャワーも自分でできた夫でしたが、これからは私が手伝うことになるのだなと腹を括りました。
看護師さんが帰る時、夫に声をかけました。
「叶井さん、今日は帰るね。また来るからね」
病んでいても陽気な夫と妙に気が合っていた看護師さんのよく通る声に、夫は手を上げて反応しました。聞こえていたし、意識があったんです。でも「バイバイ」と声を発することはありませんでした。
「俺、昨日ヤバかったよね」
「うん。危なかったよ」
朝方交わしたこのやりとりが、夫との最期の会話になりました。
思い出すと、夫の意識が戻って会話できたという喜びと、これが最期になったという悲しみが去来して、胸がいっぱいになります。
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。
『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』
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