「牛乳の飲みすぎは骨折リスクを上昇させる」と医師が警鐘 “ヨーグルトやチーズ”からカルシウムを摂取すべき理由とは
健康寿命が延伸し、超高齢社会となった日本。人々が長く当たり前だと思ってきた健康常識が、情報がアップデートされないまま、年齢によってはまったく当てはまらないこともあるという。自分が信じていた「老化」にまつわる常識が、すでに「過去のもの」となっていたとしたら―。知っているようで知らない「健康長寿につながる老化の新常識」を見ていこう。
教えてくれた人
秋津壽男さん/総合内科専門医・秋津医院院長
牛乳の飲みすぎは骨折リスクを上昇させる危険性も
骨を丈夫にするにはカルシウム、カルシウムといえば牛乳―そう連想する人は少なくない。
だが近年、牛乳が消化不良を引き起こすという説をはじめ、その健康効果に疑問符を付ける研究が増えているなか、「牛乳=骨を強くする」という従来の常識も見直されているようだ。
昨年9月、米メリーランド大学の研究グループは「牛乳の摂取で大腿骨付近の骨折リスクが高まる」とする論文を発表した。
この論文は48万人のデータを解析した大規模研究で、牛乳の摂取量が200g増えるごとに骨折リスクが7%増え、1日400g飲む人は、まったく飲まない人に比べて骨折リスクが15%も高かったという。
論文では、牛乳に含まれる乳糖のひとつである「ガラクトース」が骨折リスクを高める原因となった可能性が指摘された。
秋津医院院長の秋津壽男医師(総合内科専門医)が語る。
「ガラクトースを大量に摂取すると、細胞に酸化ストレスを与え、炎症を引き起こすという別の論文があります。このメカニズムで骨折リスクも上昇したのではないか」
医学界では実験用の「老化マウス」を作る際にガラクトースを注射することでも知られている。
「近年、過剰な牛乳摂取が老化を促すという警鐘は欧米を中心によく聞かれます。私はガラクトース以外にも原因があって、牛乳の摂取量が多い欧米人は乳脂肪の摂りすぎで『脂質異常症』の傾向が強いのではないかと考えます。脂質異常症は骨粗しょう症の危険因子のひとつで、骨粗しょう症が進んだ人が転倒して大腿骨を骨折することはよくあります」(秋津医師)
骨を丈夫にするならヨーグルトやチーズのほうが効果あり
牛乳ではなくヨーグルトやチーズなどの発酵乳製品からカルシウムを摂取するのはどうか。
前述のメリーランド大の論文によれば、ヨーグルトは1日の摂取量が250g増加するごとに大腿骨の骨折リスクが15%低下し、チーズは摂取量が43g増加するごとに大腿骨の骨折リスクが19%低下したという。
「ガラクトースは発酵の過程で分解される性質を持ち、これが要因のひとつになっている可能性を論文は示唆しています。
大量の摂取は控えるべきですが、骨を丈夫にすることを考えるなら牛乳よりヨーグルトやチーズのほうが良いでしょう」(秋津医師)
「三角食べ」は古い常識? 食後高血糖で動脈硬化リスクが上昇
子供の頃に給食で指導された「三角食べ」。おかずや汁物を1品ずつ食べていくのではなく、いろいろおかずをつまんではご飯、汁物というサイクルを繰り返す三角食べを、今も続けている人は多い。
三角食べはこれまで「消化に良い」「栄養の偏りがなくなる」などとメリットが説かれてきたが、近年、これを覆す研究が次々に発表されている。
米ウェイル・コーネル医科大学がアメリカ糖尿病学会誌で発表した論文によれば、野菜、炭水化物、汁物を交互に食べる「三角食べ」は食後高血糖になりやすく、炭水化物をまとめて最後に食べると食後高血糖になりにくいことがわかった。
前出の秋津医師が言う。
「食事中、炭水化物を早めに摂ると、食後の血糖値が上がりやすいとされています。食後の血糖値上昇を『血糖値スパイク』と呼び、これによる高血糖は血管を傷つけ、動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞のリスクを高めることがわかっています」
三角食べは「炭水化物の早期摂取」の実践でもあり、これが食後高血糖に繋がった可能性を論文は指摘した。
食べ始めは野菜がマスト
大阪府立大学の論文でも、野菜→肉や魚などの主菜→炭水化物の順番にまとめて食べることで食後の血糖値急上昇を予防できることが示された。
「胃の中がたんぱく質などで、ある程度満たされた状態で炭水化物が入ると、糖質が薄まり、血糖値の上昇が緩やかになる。これにより食後高血糖の予防につながると考えられます」(秋津医師)
健康な食事は三角食べではなく「片付け食い」が正解だったようだ。
※週刊ポスト2024年7月12日号
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