倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.30「心筋梗塞で死にかけた夫」
漫画家の倉田真由美さんの夫で映画プロデューサーの叶井俊太郎さん(享年56)が、すい臓がんで余命宣告を受けたのは2022年の夏。実はその2年前、叶井さんはある病を患っていた。当時を振り返り、がん告知後の過ごし方や気持ちの変化について綴ってくれた。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
すい臓がんが判明する2年前のこと
夫はすい臓がんが判明する2年前、2020年に心筋梗塞で死にかけました。
その日、毎朝一番に起きてくる夫がなかなか起きてこなくて、寝室に行ってみると夫は具合が悪そうに身体を丸めてベッドに寝そべっていました。
「どうしたの?」
「なんか、みぞおち辺りが気持ち悪い…食中毒かも」
「食中毒?」
昨夜、夫が食べたものを思い出しましたがすべて同じものを私も子も食べていて、内容的にも思い当たるものはありません。それに夫の様子から、食中毒とは違うのではないかという気がしました。
「気持ち悪いだけ?下痢とか吐き気とかは?」
「そういうのはない。でもなんかだるい…」
頭に触れてみましたが、熱はありません。
「何時くらいからそんな感じなの?」
「5時くらいかなあ」
既に2時間以上経っています。
「風邪かな。9時にいつも行く病院開くから行ってみる」
「風邪?風邪ねえ…でも熱ないのに、そんなに元気ないのは…」
私は首を傾げながら、ネットで情報を集めました。夫の症状に当てはまりそうなもの…そうしているうちに、「心筋梗塞」の可能性に辿り着きました。
私はその時まで、心筋梗塞とはもっと劇的な症状、「ううっ、苦しい…!」と胸を押さえて倒れ込むような症状しかないと思っていました。ところが実際には夫のように「胸の辺りが気持ち悪い」とぐったりする、そのくらいの症状もあるらしいのです。
慌てて近所の病院を調べました。ちょうど、朝7時半に開院している循環器内科が近所にありました。自転車で5分くらいで行ける距離です。
「心臓かもしれないから、今すぐ行こう!」と夫を起こし、二人で自転車でその病院に向かいました。
後で思うと恐ろしいことをしたと分かりますが、その時はそれが最善だと思ってしまっていました。
病院に着くと夫は青ざめてへとへと、私は受付で「心筋梗塞かもしれません、心電図を撮ってください」と訴えました。早い時刻のためか一番乗りで、すぐに撮ってもらえました。
推測は当たり、「心電図が非常に乱れている、ここでは処置できないから救急車を呼ぶ」と言われ、その後救急車で国立病院に運ばれて即手術。執刀医には、「あと1時間遅れていたら死んでいたかも」と言われました。
あの時「死ななくてよかった」
この時命拾いしたことは、後にすい臓がんが判明した時にも二人で話しました。
「あの時死ななくてよかったな。急に死ぬより、こうやって死ぬまでいろいろ準備できるほうがいい」
夫は言いました。「仕事の後始末、たくさんあるからね」と。
がんは、分かってから死を迎えるまでが長い病気です。告知されてからは、普通に生活していても常に頭の片隅に夫の病気が鎮座していました。
でも我が家の場合は「準備期間があってよかった」と夫が言ってくれたことで、悩んだり悲しんだりする時間が少しだけ楽になっていたような気がします。
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。
『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』
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