倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.29「夫の死んだふりに泣き笑い」
漫画家の倉田真由美さんの夫で映画プロデューサーの叶井俊太郎さん(享年56)のすい臓がんが発覚したのは2022年の夏。がん治療は行わず、対処療法を選んだ叶井さんだの闘病生活は、暗いものではなかったという。その理由のひとつとなるエピソードを振り返る――。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
夫は冗談を言うのが好きだった
夫は冗談を言うのが好きでした。頻繁に、というほどではないけど思い出したように時折、周囲を笑わせてくれました。
でも、夫の冗談は「誰もが笑える」「ほんわか、和やか」なものではなく、人をびっくりさせたりショックを与えたりするようなものが大半。例えば夫、すい臓がんが判明してからよく私の前で「死んだふり」をしていました。
座椅子に座った夫「ううっ、く、苦しい…」
私「えっ!?どうした!!?」
夫、目を閉じて項垂れる。
私「父ちゃん!大丈夫!?」と駆け寄る。
夫、目を開けて笑いながら「嘘〜」
何度もこれをやられ、何度も騙されました。分かっているはずなのに毎回焦ってしまい、「嘘〜」が出たらホッとして、泣き笑いで「なんでそんな嘘つくの!」と怒ったふりをしていました。
人によっては「不謹慎」と笑えないだろうし、本気で怒るかもしれません。でも、私には面白かった。泣いてしまうのに、こういうギリギリのおふざけをやる夫が面白かったんです。
手術後、夫の電話に泣き笑い
録音している電話での通話にも、似たようなやり取りが残っています。昨年11月末、3か月おきにしていた胆管を通すためのステント手術の時です。
その日、手術後に担当医師から電話があり、夫の手術が成功したこと、但しがんが大きくなっているため次はもう同じ手術ができるか分からないことを聞きました。でもとりあえず、手術は成功してよかった!と喜んでいたら、夫から電話が。
夫「手術…失敗だった」(神妙な声で)
私「え?」
夫「失敗だった。手術…」
私「いや、成功だったの知ってるから!先生から電話あったから!」
夫「ああ、そうなのね」
この時、私は夫らしい冗談にまた泣き笑いで「成功してよかったね」と言っていて、今もこの録音を聞くたびにその時の感情が蘇って泣いてしまいます。
冗談にも、相性があります。夫は昔付き合った女性にはよく怒られたと言っていました。夫の冗談やからかいは、人によっては腹が立つこともあると思います。でも、私には合っていたんです。
闘病生活が暗くならなかったのも、夫のこういう冗談が一役買ってくれていたと思います。
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。
『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』
『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』