頸椎椎間板ヘルニアの新たな治療法「頸椎人工椎間板置換術」が承認
脊椎(背骨)は26個の椎骨で構成され、首の部分にある7個の椎骨を頸椎(けいつい)という。頸椎椎間板(けいついついかんばん)ヘルニアは椎骨の間のクッションである椎間板がつぶれ、神経を圧迫することで首、肩、腕などに痛みや痺れを生じさせる。
重症例では手術を実施することもある。従来の頸椎前方固定術に加え、頸椎の可動性が保たれる頸椎人工椎間板置換術が保険承認され、新たな治療の選択肢が広がっている。
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保存療法で症状が改善しない場合は手術を検討
頸椎は頭蓋骨の底から始まり、頭を支えるだけでなく、手足の動きや痛み、冷温などの感覚を伝える神経の脊髄を取り囲み守っている。
7個の椎骨の間には椎間板という軟骨組織があり、クッションの役割を担う。何らかの衝撃や加齢などで椎間板が減少すると椎骨の間が狭くなり、飛び出した椎間板が神経を圧迫して首や肩、腕、下肢などに神経症状を起こすのが、頸椎椎間板ヘルニアで、40〜50歳代の働き盛りに多く発症する。
治療はまず、薬剤やネックカラーを用いた保存的療法が行なわれる。しかし、保存療法を一定期間実施しても、症状が改善しない場合は手術を検討することもある。
頸椎の難手術を数多く実施している、東京医科歯科大学整形外科学講座の吉井俊貴准教授に話を聞いた。
頸椎ヘルニアは首の前側からアプローチする手術が適している
「頸椎の手術には首の前側からアプローチする方法と後側からの2種類あります。実は後側からの手術法は日本で開発されました。今では90%以上が後側から行なわれています。ただし、頸椎ヘルニアは前側に病変があるので、症例にもよりますが、直接神経の圧迫を取るために、前側からの手術が適しています」
前側からの手術に、50年以上行なわれている頸椎前方固定術がある。首の前側を切開し、気道や食道をよけて頸椎にアプローチする。顕微鏡で見ながら椎間板と神経を圧迫しているヘルニアを取り出す。空洞になったところに、腸骨などから採取した骨を入れ、椎骨同士を金属のプレートで留める。これで神経の圧迫がなくなり、症状が改善する。
頸椎前方固定術は病変部の動きを抑制するので、治療した頸椎の上下の椎骨に通常の40〜70%増しの負担がかかり、治療後10年で4人に1人が再発するといわれている。神経障害を生じさせている頸椎ヘルニアは1か所だが、その上下の椎骨を画像で診ると神経にあたっている場合があり、固定術による負担の増加で悪化する可能性があるからだ。そのため、一度の手術で2〜3か所固定するケースもある。
新たに保険承認された「頸椎人工椎間板置換術」とは
2017年12月に頸椎の動きが保持できる頸椎人工椎間板置換術が保険承認された。
「固定術と同じように首の前側からアプローチして椎間板を取り出し、圧迫を解消します。違うのは椎間板のあった場所に、下側が受け皿のようになっていて上側は滑るように円形に動く金属製の専用器具を留置すること。これで上下の椎骨の動きに対応可能となりました。これまで日本では約90例実施され、当教室ではそのうち11例を担当しましたが、手術後の患者さんのQOL(生活の質)は向上しています」(吉井准教授)
専用器具は2つ保険承認されている。治療実施施設は現在、それぞれ全国18施設で、適応症例は頸椎ヘルニアと骨棘(骨のトゲ)など頸椎で神経が圧迫され、手足などに神経症状があり、保存療法を行なっても、改善が見られない症例だ。
※週刊ポスト2019年5月3・10日号
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