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お笑いコンビレギュラーも取得『レクリエーション介護士』講座潜入レポ!(前編)

 介護現場で毎日のように行われている様々なレクリエーションは、単なるお遊びではない。質の良いレクリエーションは、生活の質そのものを高める効果がある。お笑いコンビ、レギュラーが’17年に取得したことでも注目されている『レクリエーション介護士』の講座に記者が潜入!

 * * *

レクリエーションは様々な生活の質を上げる効果を持っている

 右手をパーに開いて前に出す。左手はグーで胸に当てる。合図に合わせて左右を入れ替える。つまり、左手のパーを前に突き出し、右手のグーを胸に当てる。次の合図で入れ替える。合図はだんだん早くなる。

──できますか?

 やってみるとわかるが、これは案外簡単だ。スピードが上がっても、そこそこついていくことができる。

──それでは次の展開です。

 といってもやることは単純だ。今度はグーを突き出し、パーを胸に当てる。さっきまではパーを突き出し、グーを胸に当てていた。つまり、グーパーの位置を入れ替えるだけだ。合図で左右を入れ替える。合図はだんだん早くなる。

──できますか?

 もし興味があったら試してもらいたい。パーが前、グーが胸なら簡単だけど、グーが前でパーが胸だと、途端に混乱してしまうのでは?

 ごくごく単純な運動だが、試してみると意外に難しい。そして、難しいということを知ることがまた、とても楽しい。レクリエーション介護士の講座に潜入してみて、最初に感じた驚きだった。
 
 介護とレクリエーションは切り離せない関係だ。多くの高齢者施設では、毎日何かしらのレクリエーションのイベントが行われていると言っていい。

 残念なことに、介護に携わったことのない方々は、レクリエーションを単なる余暇の遊びごとだと考えがちだ。

 しかし近年の研究では、適切なレクリエーションが様々な生活の質を上げる効果を持つことが分かってきている。

介護のレクリエーションを学べるシステムがなかった

 一般社団法人『日本アクティブコミュニティ協会』は、3万人を超える介護スタッフ会員を有するウェブサイト『介護レク広場』と全国200を超える介護施設の管理者・スタッフからアンケートを取った。

 結果、半数以上がレクリエーションについて学んだことがないとする一方で、9割以上の介護スタッフが「レクリエーションを学びたい」と回答したという。

 ところが学べる場所がない。系統立てて教える機関やシステムが存在しなかったのだ。

 以上のような背景を踏まえ、2014年に民間資格の『レクリエーション介護士』が誕生した。

 2日間で合計12時間の講座を受講し、定められた課題を提出。2日目の終わりに実施されるペーパー試験にパスすれば取得することができる。受講料は場所や実施する事業所によって様々だが、概ね3万8000円(税別)ほどだ。

 現在、1級・2級を合わせ、2万5700名ほどのレクリエーション介護士が全国の介護現場で活躍している。

受講者自身がレクリエーションの楽しさを知ること

 今回おじゃましたのは、介護資格取得の専門スクール『未来ケアカレッジ』大宮教室(埼玉県さいたま市大宮区)。2日間の講義の中から、すぐにでも役立つレクリエーションのテクニックを紹介させていただく。
 
 朝の10時から17時過ぎまで、2日間の講義を受けるのは、20歳代から60歳代までの20人ほどだ。皆さん、すでに何かしらのかたちで介護の仕事に携わっている。全員が介護スタッフとしてのスキルアップを目的に集まった「意識の高い」方々だ。

 当日の講師、田中健さんは介護の現場で長年経験を積み、現在は医療介護事業所を運営する『アイリスフレール株式会社』の取締役だ。介護関連の講演会や様々な資格の講師としても活動する。

「授業が眠いときはきっちり寝てください。その方が効率的です。15分くらいしたらそっと起こしてあげますからね」

 そう笑顔で語る一方で、「でもテストの点数は自己責任ですよ」と引き締める。

 初日は、受講生自身がレクリエーションの楽しさを知ることから始まった。思い知らされたのは、「楽しさの本質はコミュニケーションにある」ということだ。

 現実の問題として、介護現場でのレクリエーションを毛嫌いする高齢者は多く、施設のスタッフが促しても、全員が参加してくれるわけではない。

「幼稚園でやっているチイチイパッパのお遊戯みたいなこと、だいの大人がやってられるか」

 などの声をよく聞く。もっともな意見だとこれまでは思っていた。

大切なのは他者とのコミュニケーション

 しかし講習を受けることで、意識は変わった。

「レクリエーションは、その内容以上に他者とのコミュニケーションを楽しむものだ」

 との事実に気付かされたのだ。

 介護現場でのレクリエーションは、ほとんどの場合、1対多数で行われる。複数の参加者の前に、ひとりのスタッフが立ち、その指示に従うかっこうで、プログラムは進行する。会話はもっぱら、スタッフとそれぞれの参加者との間でやり取りされる。しかしこのままだと、コミュニケーションは、スタッフと参加者を結ぶ『線』でしかない。参加者同士が縦横に言葉を掛け合うことができれば、線と線が重なり、面でのコミュニケーションとなる。レクの時間が本当の意味で楽しくなるのはここからだ。

 本稿の冒頭で紹介した「グーパー運動」を思い出してほしい。
 
「突き出した方の手がパーで胸に当てる方がグーだとやりやすく、逆だと難しい。これ、細かい理論は知らないのですが、私たちは転ぶとき、とっさに突き出した方の手をパーにしますよね。びっくりしたら手をグーにして縮こまる。そうした動きが脳みその本能的な部分に染み付いている。だから逆の動きは難しいということだと思います」

間違えるからこそ脳みそが働く

 講師の田中さんが、我々受講生を前にグーパー運動について語る。

「介護現場のお年寄りたちでも、『前がパー、胸がグー』ならけっこう多くの方がこなせます。ところが逆になるとやっぱりできない」

 我々受講生も同じだ。どうしても突き出したほうの手をパーにしてしまう。隣の席の受講生も同じように間違え、それを見て、受講生同士が笑い合う。また「なぜだろう、腕が逆になってしまいますね」と声を掛け合うこともある。まさに面のコミュニケーションだ。

 田中さんは続ける。

「どんどん間違えてくださいね。間違えるからこそ脳みそが働く。『間違えた、まずいぞ』って考えて。『正しくやらなくちゃ』と頑張る。これがいい。そうじゃないとレクリエーションの意味がないんです。それと、間違えると『笑顔』になりますね。隣の人も笑顔です。ついさっきまで知らない人同士、緊張していた気持ちも少し和らいだんじゃありませんか?」

レクリエーションを楽しむコツ

 場の空気が和らいでいくことを、カチコチに固まった氷が溶ける様子にたとえて、『アイスブレイク』と呼ぶ。

 その場の雰囲気や参加者たちの心を溶かし、アイスブレイクさせることから始めると、レクリエーションはさらに効果を増す。

「1対多数から、1対1、そしてグループ対グループに発展させることで、コミュニケーションはさらに広がっていきます」(田中さん)

 例えば教室を2つのグループに分けた伝言ゲーム。先頭の人の背中に文字を書き、これを伝達していくのだが、なかなかうまく伝わらない。

──声に出したらだめっていうルールだから、背中の文字が分かった時点でOKサインを出すのはどうでしょう。そうすれば次に伝えるのがやりやすい。

 など、チームのメンバー同士で戦術を検討し合う展開となった。

 上のような状態になってこそ、レクリエーションは俄然楽しくなってくるのだ。

 後編では面のコミュニケーションを引っ張り出すさらなるアイディアと、日常生活に生かせるレクリエーションの広がりについて紹介する。

※後編は6月6日(木)公開予定。

撮影・取材・文/末並俊司

『週刊ポスト』を中心に活動するライター。2015年に母、16年に父が要介護状態となり、姉夫婦と協力して両親を自宅にて介護。また平行して16年後半に介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)を修了。その後17年に母、18年に父を自宅にて看取る。現在は東京都台東区にあるホスピスケア施設にて週に1回のボランティア活動を行っている。 

【データ】

『未来ケアカレッジ』
URL:https://www.miraicare.jp/

●芸人コンビ・レギュラーに密着インタビュー|笑いのバリアフリー化を目指して(前編)

●レクリエーション介護士として。芸人・レギュラーの「あるある介護」(後編)

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