便秘の人ほど認知症になりやすい!最新の研究結果を医師が解説「便が硬い人も要注意」
「便秘と認知症の関連性を示す研究が国内外で報告されています」とは、腸のエキスパートである医師の内藤裕二さんだ。便が硬いほど認知症のリスクは高まる傾向にあり、最大で約2倍にも跳ね上がるという。便秘が認知症に繋がる仕組みや予防策などについて詳しくお話を伺った。
教えてくれた人/医師・内藤裕二さん
京都府立医科大学 大学院医学研究科 生体免疫栄養学講座 教授。腸内環境の研究者として幅広く活躍。『70歳からの腸活』(エクスナレッジ)ほか著書多数。
便秘の人ほど認知症になりやすい傾向
「近年、便秘と認知症の関連性を示唆する研究結果が国内外から報告されており、便秘の人は認知症になりやすい傾向にあると考えられます」
こう語るのは、消化器専門医の内藤裕二さんだ。内藤さんは、腸内細菌研究のエキスパートとして多くの著書があり、腸に関する研究や講演などを行っている。
便秘と認知症の関係について、さらに詳しい話を伺った。
「国立がん研究センターが約5万人の中高年男女を対象に行った大規模コホート研究によると、週3回未満の排便頻度の人は、毎日排便する人と比べて、認知症リスクが男性で1.79倍、女性で1.29倍高くなることが明らかになりました。さらに、便が硬い人も認知症リスクが上昇することが判明しました」
このような調査が行われた背景には、超高齢社会の進展に伴い、認知症の予防や早期発見に役立つ手がかりを見出すことが喫緊(きっきん)の課題となっていることが挙げられます。
便秘は加齢に伴って増加する一般的な症状であり、認知症との関連性を探ることは、認知症対策を講じるうえで重要な意味を持つと考えられます」
便秘が認知症リスクを高める要因は「腸内細菌の変化」
一体なぜ、便秘が認知症を引き起こす要因になるのか、詳しいメカニズムを教えてもらった。
「便秘が認知症のリスクにつながるメカニズムとしては、腸内細菌の変化が注目されています。
便秘になると腸内を便が長時間滞留することで、腸内細菌のバランスが乱れ、炎症を引き起こす細菌が増加します。その結果、腸管バリアの機能が低下し、全身の慢性炎症や酸化ストレスにつながると考えられています。
これらは脳の神経細胞にダメージを与え、認知症発症の素地となる可能性が示唆されているのです」
便秘が認知症リスクにつながるメカニズム
便秘
↓
腸内に便が溜まる
↓
腸内細菌のバランスが乱れる
↓
炎症を起こす菌が増殖
↓
腸管バリアの機能が低下
↓
全身の慢性炎症・酸化ストレス
↓
脳の神経細胞にダメージ
↓
認知症発症の素地になる可能性が
便秘の症状と認知症リスクの関係性
「一般的に、週3回以下の排便、あるいは硬くてコロコロした便が続く状態、さらには排便困難症状(いきみ、排便痛、残便感など)があるときは、慢性便秘と判断されます。
先述の国立がん研究センターの研究では、週3回未満の排便で認知症リスクの上昇が認められました。ただし、1、2日便が出ないくらいであれば、すぐに認知症リスクが高まるというわけではありません。長期的な便秘状態が続くことが問題なのです。
また、便が硬いほど認知症リスクは高まる傾向にあります。普通便に比べ、硬い便で認知症リスクは男性1.30倍、女性1.15倍に上昇し、とくに硬い便では、それぞれ2.18倍、1.84倍にまで達しました。
便の硬さは腸内滞留時間の長さを反映するため、硬い便が慢性化している場合は腸内環境が悪化している可能性があると考えられます」
加齢で便秘の頻度は増加する
「加齢に伴い便秘の頻度は増加し、それに伴って認知症リスクも上昇する傾向があります。先述の研究は50才以上の中高年を対象としていますが、便秘による認知症リスクは、高齢になるほど顕著になると考えられます。
また、男女ともに同様の関連性が認められましたが、概して男性のほうがより強い関連を示す結果となりました。
ただし女性は、もともと若い頃から便秘になりやすい傾向があり、閉経後は特に便秘のリスクが高まります。高齢女性は便秘と認知症の両方のハイリスク群と言えるでしょう」
便秘による認知症を防ぐための対策とは?
高齢になるほど便秘になりやすく認知症のリスクも心配。なるべく早めの対策をしておきたいところだが…。
「高齢者におすすめしたい便秘対策としては、食事と生活習慣の両面からアプローチすることが大切です」
食事「発酵性食物繊維を豊富に含む食材を」
「食事面では、近年注目されている“発酵性食物繊維”を多く含む食材を積極的に摂りましょう。発酵性食物繊維とは、腸内細菌が食べて発酵させることで有益な物質が作られる食物繊維のことです。
発酵性食物繊維を多く含む食材のうち、高齢者のかたが食べやすい食品のひとつに“もち麦”が挙げられます。
もち麦はクセがないので白米と一緒に炊いて食べるのもいいですし、おかゆにしても食べやすいですよ。クセがないからこそ和洋中と、どんな食材とも合う点も使いやすいポイントですね。
このほか、豆類・野菜・果物のほか、ヨーグルトやみそなどの発酵食品も腸内細菌のバランスを整える働きがあります。豆類・豆類加工品はこれまで良質なタンパク源として考えられていましたが、発酵性食物繊維も比較的多く含まれていることが明らかになっています。また、水分をこまめに補給することも重要です。
おすすめの食材
□もち麦
□豆類、豆類の加工品
□野菜
□果物
□ヨーグルト
□みそ
生活習慣「排便は前かがみの姿勢がおすすめ」
「生活習慣面では、適度な運動習慣を心がけましょう。ウオーキングやストレッチなど、無理のない範囲で体を動かすことが大切です。
朝食が刺激となって大腸に大きな刺激が伝わり排便につながるので、朝食は抜かずに摂るようにしてください。
排便姿勢にも気をつけ、前かがみになって膝を曲げる姿勢をとるのがおすすめです。排便を我慢せず、便意を感じたらすぐにトイレに行くことのほか、便意がなくても朝食後にはトイレに行く習慣をつけましょう。
また、腹部マッサージも腸の動きを助ける効果が期待できます」
おすすめの生活習慣
□適度な運動
□排便姿勢は前かがみに
□便意を我慢しない
□朝食後はトイレに行く習慣をつける
□朝食をしっかり摂る
「便秘は放置すると認知症リスクの上昇だけでなく、さまざまな健康被害をもたらします。高齢者の方は便秘予防と改善を日頃の生活に取り入れ、健康長寿を目指していただきたいと思います」
※参考論文/Bowel movement frequency, stool consistency, and risk of disabling dementia: a population-based cohort study in Japan
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0033350623001671?via%3Dihub
構成/介護ポストセブン編集部
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