吉本芸人おばあちゃん(77才)新著で明かす波乱の人生。闘病や介護「ただじゃ起きない私です」
77才の後期高齢者、芸歴5年の芸人“おばあちゃん”。神保町よしもと漫才劇場最高齢の所属メンバーとなる偉業を果たし、若手ピン芸人として注目を集めるおばあちゃんが、新たに著書を出版し、話題を呼んでいる。初の自伝ともいえるおばあちゃんの山あり谷ありの半生の物語には、今の時代を生きるヒントがたくさん詰まっていました。
芸人おばあちゃんはいかにして誕生したのか?
「チャイム鳴り やっと出たのに 不在票」
高齢者ならではの日常のひとコマを詠んだ”シルバー川柳“の持ちネタでブレイク中の芸人おばあちゃんが、初の著書となる『ひまができ 今日も楽しい 生きがいを -77歳 後期高齢者 芸歴5年 芸名 おばあちゃん-』(ヨシモトブックス)を出版。
「2018年4月、NSC東京校に24期生として入学した私の年齢は、71歳。その年になって、なぜ芸人を目指したのか。皆さん、気になりますよね」(「」は本書より、以下同)
本書では、71才でお笑いの世界の門を叩いたおばあちゃん、そのバイタリティの源泉、幼少期から24才で結婚した夫とのこと、30代で罹患した乳がん、兄の介護経験まで、激動の半生が明かされる。
おばあちゃんは、これまの人生を「チャレンジの連続だった」と振り返り、現在、若手芸人たちとステージに立つ自分を、「年のせいとあきらめず、やりたいことに挑戦したご褒美でしょうか。いや、年だからできたんでしょうね」と評する。
「若者と 学ぶ喜び 宝物」「若者に 教えを乞うて 明日がある」「喜寿迎え 探し続ける 好きなこと」などなど、随所に川柳が散りばめられた全4章の物語には、年を取ることが楽しいと思わせてくれるエピソードが溢れている。
心に染みる、同期たちとの交流
序盤では、「芸人になりたいとは夢にも思ったことはなかった」というおばあちゃんが、NSCに入学したいきさつや、若者に交じってダンスや体操などのレッスンをどのようにこなしてきたのか、ピン芸人としてのおばあちゃんが形作られるまでが描かれる。
「親子ほど、いや祖母と孫ほど離れた若い人たちばかり。それでも毎日楽しく学校に通えたのは、優しい同期たちがいてくれたからこそ」と、同期たちへの感謝の想いがたくさん綴られている。
ネタ見せの発表の場では、なるべく若い人に譲り、同期の成長や活躍を心から喜ぶ。芸人でありながら自らは決して前に出ようとしない。そんな控えめなおばあちゃんが、恩師と仰ぐ構成作家・山田ナビスコさんとのやり取りを重ねる中で、シルバー川柳ネタが生まれるまでの経緯を知ることができる。
2023年には、約500組が参加するネタバトルを勝ち上がり、76才にして神保町よしもと漫才劇場の所属芸人となる。その後、千原ジュニアさんら大御所芸人たちから共演のオファーを受けるようになり、メディアからの取材オファーが舞い込むように。
「年を取っているだけでこんな風に注目していただき、嬉しさより恥ずかしさが勝っています」とおばあちゃんはあくまで謙虚。
大好きなお笑いの世界にいる幸せを噛みしめ、自らを「シンデレラガール」ならぬ「シンデレラおばあちゃん」という。
本書には、高齢者が若者と付き合うときに参考になるヒントもたくさんある。おばあちゃんが若い人と接するときに大切にしているのは、「素直に聞くこと」「知ったかぶりをしないこと」だという。
巻頭カラーページには、若手と舞台稽古をするスナップもたくさん掲載されていて、おばあちゃんと共演する若手芸人たちが、ともに切磋琢磨する温かい連帯感を感じられる。
また、巻末には劇場仲間の先輩芸人、ぼる塾やエルフ、ヨネダ2000らから、おばあちゃんへのエールが綴られ、おばあちゃんが若い芸人仲間から慕われている様子も見どころのひとつだ。
夢だった大学進学、そして闘病
著書の後半では、生い立ちが綴られる。「自分のやりたいこと」へと一直線に進んできたかのように見えるおばあちゃんだが、その人生にはさまざまな試練が訪れる。
少女時代は病弱だった母親の代わりに家事をこなし、弟の面倒も見ていた。
「わりと制限された子供時代でしたが、不思議なことに卑屈にはなりませんでした。(中略)ままならないことがあっても、自然と気持ちを前向きに切り替えてきた気がします」
こうした気の持ちようが、おばあちゃんの明るさと強さの源泉かもしれない。
「私が生まれたのは昭和22年。戦後まもない頃だったからか、女に学問は必要ない、という母の考え方から学校に行きたくても行けませんでした。
それでも学びたい気持ちは止められず、仕事をしながら自分で学費を貯め、20代で高校、40代で短大、さらに(47才で)放送大学を卒業」
子どもの頃から夢見ていた、「絶対に行くぞ」と決意していた大学への進学。
「学ぶなら自分で学費を出すしかない。その強い思いが、仕事を頑張るモチベーションのひとつになっていたと思います」
大学進学の想いをより一層強く後押ししたのが、38才のときに発覚した乳がんの発覚だった。その1年後には、卵巣に転移、45才で子宮への転移も経験する。しかし彼女は、こう続ける。
「乳がんになっただけじゃ面白くない。『自分の経験をなんとか世の中に還元できないか』と確固たる目的を持って大学へ進学できました。ただじゃ起きないのが私です」
「私は決して優れた人間ではないんです。無理せず、程よく手を抜きつつ、自分がすべきことを淡々とこなしているだけ」とあくまで穏やかな調子だが、病を抱えながら働き続け、そして大学を卒業するまでの努力は並大抵のことではなかっただろう。
おばあちゃんの根底にあるのは「不屈の精神」。そして、どんなときも常に明るく物事を捉えていくおばあちゃんの「自分に誠実な」姿に胸を打たれる。
***
「人生100年時代といわれる中で、老後に何すべきか不安を感じている人も多いのではないでしょうか。
現役時代に仕事などで成功を収めた人ほど、できない自分を人に見せたくない気持ちが勝り、新しく何かを始めるのを躊躇してしまいがちです。
年のせいにして、興味のあることをあきらめてしまうのはもったいないと思うんです。あきらめなかったおかげで今、私は毎日が充実しています」
令和を軽やかに生きる進化系おばあちゃん。その言葉に、老いと向き合いながらも新しいことにチャレンジしたいと思う気力が湧いてくる。
★おばあちゃん情報:新刊発売を記念してサイン会を開催!
4月10日水曜日、神保町よしもと劇場で『ひまができ 今日も楽しい 生きがいを -77歳 後期高齢者 芸歴5年 芸名 おばあちゃん-』出版を記念して、おばあちゃんのサイン&撮影会が開催される。
14:30~第1回分参加受付/書籍販売
15:00~第1回サイン&撮影会
17:30~第2回分参加受付/書籍販売
18:00~第2回サイン&撮影会
参加方法:当日劇場のショップで書籍を購入いただいた方に限り参加できます。
※撮影はお客様のスマホやカメラで撮影します。受付数に限りがございますのでご了承ください。
イベントのお問い合わせはヨシモトブックス編集部03・
プロフィール/おばあちゃん
1947年2月生まれ、東京都国分寺市出身。71才でNSC東京校に24期生として入学し、72才で芸人として活動開始。2023年6月、史上最高齢で神保町よしもと漫才劇場の所属芸人に。現役医師のしゅんしゅんクリニックPさんとのコンビ「医者とおばあちゃん」ではM‐1グランプリ3回戦まで勝ち抜いた経験も。2024年2月12日には初の単独ライブを開催。2024年3月には、おばあちゃんに密着したドキュメンタリー番組が世界発信(NHKワールド)されるなど、その活躍に注目が集まる。
文/前川亜紀 構成/編集部
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