「父にひと目会いたい」孫や来客に突然怒る父、家族もイライラ…。在宅介護の日々は続きます【実家は 老々介護中 Vol.33】
81才になる父は、がん・認知症・統合失調症と診断され、母が在宅介護をしています。美容ライターの私と3歳上の兄は、実家に通って母を手伝っています。「父に今のうち会わせておきたい人を呼ぼう」ということで、訪問介護の合間を縫って来てもらっているのですが、介護をする家族にとっては、体はキツいし、気を遣うし、新たなストレスに。こちらも見なりを整えてシュッとしていたいのですが、つい感情が出てしまうことも多いです…。
昔の父とはもう違うけど「ひと目会いたい」と来てくれる人がいる
仲のいい親戚に「父が家に帰ってきました」と電話しておいたので、ぽつぽつ会いに来てくれています。お昼のヘルパーさんが帰ったあたりの時間にスケジュールを入れるので、介護する家族の余裕が削られるのですが、母の意向なら頑張るしかない。母は、「夜、よく寝てくれるから、人が来ると助かる」とポジティブ変換していますが、せっかく訪ねてきてくれてもずっと眠っていたり、ぼんやりしていたりすることも多いです。
加えて、父は認知症の症状にスイッチングして“急に目の色が変わる”タイミングが来ることもあります。
「アレがない!どこにやった!」
「虫が入るから、ふすまを閉めろ!」
「俺に触るな!」
という感じです。穏やかなときでも、親戚の持ってきてくれたお土産を見て、
「なんだ、ろくなものがないな!」
と言い出したことも。母が「ああ、ごめんなさいね」と謝って、気疲れの連続です…。
さて、孫にも今のうちに会わせておきたいけれど、私の息子のほうは、受験勉強でなかなか来られず、テレビ電話で話すことになりました。
数年前まで、しょっちゅう実家に行っては、父と一緒にセミやザリガニを捕まえたり、将棋をさしたりしていたので、中学生になった今も、息子は父のお気に入り。
期末テストで午後の授業がない今日は、もう家に戻っているはずと思い、LINEのビデオ通話をかけてみると息子の顔が映りました。
「あー何の用? こっちはテストで疲れて、やっとごはん食べてるっていうのにさー」
母がその様子に大笑い。
「お父さん、うちの孫はテストで疲れてるんだって」
と、父にスマホ画面を見せると、父の表情がぱあっと花が咲いたように明るくなりました。
「ああ、テストどうだった?」と、シャキッとおじいちゃんらしい振る舞いに。
えっ、話をちゃんと理解できてる。
孫:「うん、数学はよかったし、地理もまあまあできた」
父:「ああ、よく頑張ったねえ。お小遣いをあげなくちゃ」
数年前の、しっかりした父が戻ってきた感じです。実際の発音はフガフガなので、「えっ、なに? なんて言ったの?」と孫に何度も聞き返されていましたが。
孫:「おじいちゃん、体痛くない?」
父:「お腹が痛いよ」
孫:「そうかー、気をつけてね」
父:「ありがとう」
このところ、ヘルパーさんに「えっ?えっ?」と何度も聞き返されることが多くなっていたため、父はあまり話さなくなっていたのですが、孫パワーよ、ありがとう。母は涙を浮かべていました。
ただ、「お腹が痛いよ」と言っていたのが気に掛かります。痛み止めを飲んでいますが、大腸がんの痛みはどのぐらい来るのか…。
実は、しょっちゅう顔を見せに来てくれる母方のおばさんから、「大腸がんが進むと、吐いたりするって聞くから、落ち着いてね」と独特の心配の仕方をされ、母、私、兄も「痛みがひどくなる前に、老衰が早くきてほしいよね…」と話していたところです。
しかし、おばさんは、
「お父さん、思ったより長生きして良かったねえ。ここだけの話、もっと早いかと思ってた。まわりに聞くとさ、具合悪くなったと思ったら、あっという間に弱ってお別れって人が多いもんねえ」
なんてことをストレートに言ってしまう人なので、兄がカンカンに怒り、「もうこの家に来るな!」とわめいていました。
悪気はなく、実家と仲がいいからこそなのですが、夕方のヘルパーさんが来て忙しい時間に大声で言い合いをして、いい迷惑です…。
心の余裕のないときこそ、言ってることを真に受けずにスルーしなくては! 父の言葉にも、です。わかっているけどまともに食らって、ストレスばかり。この状況、あと何日? もう少し続きます…。
文/タレイカ
都心で夫、子どもと暮らすアラフィフ美容ライター。がん、認知症、統合失調症を患う父(81才)を母が老々在宅介護中のため、実家にたびたび手伝いに帰っている。
イラスト/富圭愛
●生きているだけで精一杯の父。でも親戚の前ではシャンとしていたい【実家は 老々介護中 Vol.32】