考察『ゆりあ先生の赤い糸』8話。若い恋人の妻と対決したゆりあ(菅野美穂)の出した結論に唖然!今夜最終回
ゆりあ(菅野美穂)は、年下の恋人・優弥(木戸大聖)の妻に会い、自分が優弥をいっしょになるために、若い夫婦が別れることに戸惑い始めます。そんな時、思わぬ病を宣告され、まわりのひとたち、とくに要介護状態から回復し始めた夫の吾良(田中哲司)に何か手伝わせてほしいと気遣われたゆりあは、優弥との関係に思い切った結論を出すのでした。『ゆりあ先生の赤い糸』(テレビ朝日系 木曜よる9時~)8話をドラマに詳しいライター・近藤正高さんが振り返ります
優弥(木戸大聖)の妻と対決
「結婚したいですか」
今月に入って訃報が伝えられたテレビドラマ界の巨匠・山田太一に哀悼の意とオマージュを込め、『ふぞろいの林檎たち』風に第8話のサブタイトルをつけるとすれば、こうなるだろうか。第8話を見た人にはわかるとおり、これは、ゆりあ(菅野美穂)が彼氏の優弥(木戸大聖)の妻である里菜(えびちゃん)とついに会ったとき、言われたセリフからとった。より正しく再現するなら、「そんなに結婚したいですか」だけれども。
そもそもの発端は前回、優弥が里菜との離婚がまだ成立していないらしいと明かしたことだった(里菜が離婚届を出していなかったのだ)。今回、優弥はゆりあについにプロポーズしたのだが、これを機に里菜と改めて会って話をしたところ、彼女はゆりあのことを見たいと言い出す。優弥からこのことを伝えられ、そこはこれまでにもいろんな人(稟久の実家の母親や、みちるのDV夫など)と会って百戦錬磨のゆりあのこと、里菜とも会って話してみてもいいと受けて立ったのだった。
一方、里菜は里菜で、会うなら二人きりでと希望し、優弥抜きで対面が実現する。指定されたファミレスに、ゆりあは黒いスーツというフォーマルな格好で赴いたのに対し、里菜はヒョウ柄ファッションと、出で立ちからして対照的だ。ゆりあは里菜に会うとまず、ビジネスライクに謝罪すると、もし復縁する気がないなら「優弥さんを自分にください」と、まるで男性が結婚相手の父親と初めて会ったときのような切り出し方をしてみせた。
これに対し、里菜はすでに優弥にその気はなく、息子の優里亜にさえ会えればいいとあっさり受け入れ、やや拍子抜け。だが、このあとよくよく話を聞いていくと、里菜も優弥も互いの気持ちをちゃんと伝え合っていないのではないかと、ゆりあは思い始める。あげくの果てには、思わず、優弥との復縁を勧めるようなことを口走っていた。
そこへ、外から覗いてた優里亜が店のなかに駆け込んできたかと思うと、里菜に抱きついた。これにはずっと仏頂面だった里菜も思わず微笑む。この様子を見ながらゆりあは冷静を保っていたとはいえ、少なくとも優里亜との関係については内心「負けた!」と思ったのではないか。もちろん、優弥との結婚をあきらめたわけではないが、とりあえずこの日は、久々に親子水入らずでごはんでも食べるよう彼に伝えて別れた。ここへ来てもまだ相手のことを考えてしまうのが、やはりゆりあらしいというか何というか。
それにしても、里菜を演じるえびちゃんの堂々たる演技には感心した。マリーマリーという男女によるお笑いコンビを組む彼女は、公式YouTubeチャンネルでの自己紹介で、将来の夢として「最優秀助演女優賞」を挙げていた。それが今回早くも、芸歴30年のベテラン・菅野美穂相手に存在感を示す、見事な助演ぶりであった。
ゆりあの出した結論に唖然
今回は、ゆりあに優弥からのプロポーズ、里菜との対面と劇的な展開が続く一方で、吾良(田中哲司)が意識を取り戻して以来、着実に回復しつつあることから、最終回前にもかかわらず、何だか早くも後日談のような雰囲気が漂っていた。
稟久(鈴鹿央士)は、吾良が起きた途端、みちる(松岡茉優)の下の娘・みのんについて「俺の子だよ」と口にしたのを聞いてパニックになり、伊沢家を飛び出していた。その後、いったん荷物を取りに戻ったものの、すぐにまた出て行く。このとき、ゆりあと鉢合わせた彼は、いつのまにか金髪にして、あいかわらずの憎まれ口を叩くのだが、これまでずっと彼を見てきた者からすると、無理して強がっているのがバレバレで逆に愛おしささえ感じてしまった。
稟久はこのときには別の男と付き合っていた。相手は前回、みちるの上の娘・まにをバレエ教室に迎えに行ったときに知り合ったイケメン講師の智(さとし/黒羽麻璃央)だ。ただ、彼とは趣味も性格もどうも合わない上、稟久のなかではあきらかにまだ吾良に未練がある。智とは所詮、いきなり空いた心の穴を埋めるべく、その場しのぎに付き合い始めたにすぎないのだろう。伊沢家に帰ってくるのも時間の問題なのではないか。実際、伊沢家の前にフラッと立ち寄り、吾良の母・節子(三田佳子)に目撃されていた。
まに(白山乃愛)がバレエのレッスンにますます楽しさを覚えるなかで、母親のみちるは、もっと料理をつくれるようになりたいと、調理師免許を取ろうと思い立つ。ゆりあとの友情もさらに深まり、ゆりあが優弥からプロポーズされたと聞いて感涙したり、彼に送るメッセージにあれこれアドバイスしたりする。
そして吾良も、車椅子で友人と一緒に外へ飲みに行くまでに回復し――もちろん酒は飲まないよう、主治医の有香(志田未来)から釘を刺されてはいるが――自分が倒れた経験をフィクション仕立てでも書いてみようと意欲を燃やす。自分にしか書けないテーマを見つけられたのは、物書きとして何よりの幸せだろう。
ゆりあが里菜と会ったあと、優弥と彼女に復縁の余地はあると口にするのを聞いて、みちるはゆりあらしいと感じながらも、「優弥君、本当に奥さんとよりを戻せばいいと思ってる?」とゆりあのことを心配する。そのタイミングでゆりあ宛てに、その胸を恋しがる優弥から一言、「おっぱい」というメッセージが届き、二人は大笑いするのだった。
――が、この次の場面で思いがけない展開が待っていた。姉の蘭(吉瀬美智子)が胸にしこりがあるというので、ゆりあは有香に専門の医師(山下容莉枝)を紹介してもらうと、診察に付き添い、自分もついでに診てもらうことにした。すると蘭は問題なしだったものの、何と、ゆりあのほうに乳がんが見つかったのだ。例の「おっぱい」のメッセージの直後にまさかこんなことになろうとは、唖然とするしかない。
伊沢家の人たちも、ゆりあから告白を受け、驚きつつも、何とか力になりたいと申し出る。吾良がまだ体の自由が利かないながらも、自分にも何か手伝わせてほしいと切々と訴えるので、みちるも私たちに恩返しのチャンスをくださいと頭を下げた。吾良に続くゆりあのピンチに対し結束を固める家族の姿に、彼女ならずとも胸にグッと来るものがあった。
だが、こうなると優弥との関係はどうするのか? これについて、ゆりあの出した結論にまた唖然とさせられた。彼女は優弥を浜辺に呼び出すと、里菜とよりを戻して自分とは別れようと切り出したのだ。しかし、病気についてはとうとう知らせなかった。当然、優弥はゆりあは身勝手でそう言うのだと思って怒り、最後は手を出すかと思わせた。だが、彼はゆりあの体を強く抱きしめると、「幸せになってね、ゆりちゃん」と言って、最終的に別れを受け入れたのである。その優しさが切なく、つらすぎる……。
結末の予想がつかない
最終回を前にして急転直下の展開に、一体どんな結末を迎えるのかまったく予想がつかない。ちなみに原作コミック(講談社刊)では、作者の入江喜和が最終巻を前にした第10巻のあとがきで、この作品が少女マンガであることを改めて強調し、《みなさまの望まれるようなラストをむかえられるかはわかりませんが 少女マンガである以上 ワタクシも「ゆりあ先生を幸せにしたい」と思っております》と書いていた。
ドラマでいえば、ここに出てくる「少女マンガ」は何に置き換えられるのだろうか。やはり「ホームドラマ」か。それというのも、名作と呼ばれる往年のホームドラマもたいていは、たとえハッピーエンドとまではいかなくとも、主人公一家が明日に希望を抱くような結末となっていたからである。たとえば、山田太一脚本の『岸辺のアルバム』では、主役となる家族に次々と問題が噴出し、最後は洪水で家を流されながらも、けっして絶望したままでは終わらなかったように……。
なお、筆者はこのドラマについて毎回見終わってから、原作のうちその回に相当する部分だけ読み進めているので、まだ結末は知らない。たとえ何があろうとも、ゆりあたちが最後に幸せを感じてくれるような、そんなラストを望みたい。
文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)
ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。
●考察『ゆりあ先生の赤い糸』7話『鎌倉殿の13人』のやりくちで野望に近づく志生里(宮澤エマ)、目覚めた吾良(田中哲司)は全てを見ていた
●不朽の名作『岸辺のアルバム』は「八千草さんじゃなかったら、どうなっていたかわからない」
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