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考察『ゆりあ先生の赤い糸』7話『鎌倉殿の13人』のやりくちで野望に近づく志生里(宮澤エマ)、目覚めた吾良(田中哲司)は全てを見ていた

 くも膜下出血で倒れて要介護5の状態になった夫の吾良(田中哲司)を自宅介護するため、それまで存在を知らなかった吾良の知人たち(男性の恋人やシングルマザーとその娘たち)と同居生活を始めたゆりあ(菅野美穂)はハプニング続きの日々を送っていたが、なんと、吾良がいきなり喋り始める。それによると、しばらく前から意識が戻っていたと言うのだが……。『ゆりあ先生の赤い糸』(テレビ朝日系 木曜よる9時~)7話をドラマに詳しいライター・近藤正高さんが振り返ります

志生里(宮澤エマ)に激怒した節子(三田佳子)

 前回、小姑の志生里(宮澤エマ)が、稟久(鈴鹿央士)と結婚してみちる(松岡茉優)親子には出て行ってもらうと唐突にゆりあ(菅野美穂)に告げて驚かせたが、続く第7話ではついに実力行使に出る。仕事帰りのみちるにひそかに接触すると、ゆりあは本当はあなたたち親子に出て行ってほしいと思っていると嘘を伝えたのだ。このやりくち、見覚えがあるなーと思ったら、昨年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で登場人物たちが他人を追い落とすためによく使っていた「讒言(ざんげん)」というやつですね。

 みちるはすっかりだまされ、帰宅するや身支度をして、ゆりあが止めるのも聞かず、娘のまに(白山乃愛)とみのんを連れて家を出て行く。志生里としてみれば、みちるとゆりあの分断に成功して、まずは野望に第一歩というところである。

 みちるに讒言した直後、稟久とともに伊沢家に現れた志生里は、彼の腕を取ると「りっくんと家の前でばったり会っちゃって。運命的な、デスティニ~」と高笑いし、イラッとさせる。さらに、「晩ご飯は気にしないで」とゆりあに言っていたくせに(来宅したのがちょうど夕食時だった)、みちるたちが家を出て行くのを見届けるや、みのんのオムライスにしれっと口をつける始末。このとき志生里が、オムライスの上にケチャップで書かれた「みのん」の名前をスプーンで消してみせたのには、ゾクッとさせられた。ちなみに原作コミックの志生里もみちるに対し同じ行動をとるとはいえ、ここまで厚顔無恥ではない。

 そんな志生里に激怒した人がいた。ほかでもない、彼女の母親で、ゆりあの姑の節子(三田佳子)である。節子はまにとみのんを自分の孫同然にかわいがっていただけに、あの子たちはいつ帰ってくるのかとうろたえる。志生里はそんな母を「ママが洗脳されてる」とあざ笑うが、これに節子はキレて「出て行きなさい!」と泣き叫び、志生里のかぶっていたベレー帽を剥ぎ取ったりと怒りをあらわにする。節子、グッジョブ!

明かされる吾良(田中哲司)とみちる(松岡茉優)の娘との関係

 姑の後ろ盾を得たゆりあは、みちるたちを連れ戻すため、バレエのレッスン中にくじいた足をひきずりながら夜の街を探し回ることに。その途中、稟久に呼び止められる。稟久は、ゆりあが夫の吾良(田中哲司)の介護のあいまを縫って若い優弥(木戸大聖)と密会するのを快く思っておらず、ここしばらく彼女との関係がぎくしゃくしていた。そもそもみちるとはずっと折り合いが悪かったのに……。しかし、伊沢家の危機を前にここはいったん休戦し、ゆりあと二人で手分けしてみちる親子の捜索に全力を挙げる。

 当のみちるはお金をほとんど持っておらず、遠くには行っていなかった。ラーメン屋で食事をとったあと、娘たちと公園で途方に暮れていると、そこへ怪しい影が忍び寄る。男らしきその相手は電話で「30代の女性と女の子二人……」と何者かに伝え、彼女たちをいまにもどこかへ連れ去ろうとしている様子だ。ちょうど先日、まにの通うバレエ教室の周辺に不審者が出没し、生徒の帰宅時は保護者が迎えに来るよう連絡があったばかりで、緊張が走る。

 ゆりあがみちる親子を見つけたのはそのタイミングだった。彼女はまにを抱き寄せると、不審者相手に「失礼ですがあなた、彼女たちをどこへ連れて行くつもりですか?」「連れて帰るので、これ以上つきまとわないでいただきたい」「連れて帰るって言ってるの、私の家族を!」と啖呵を切る。そして、みちるにも手を差し伸べると、その場から連れ出した。もっとも、不審者と思われた相手は、じつは吾良の知り合いだったというオチがつくのだが。しかし、それなら相手はどこへ連絡を取っていたのだろうか? 劇中ではこれについて説明はなく、ちょっと視聴者に不親切に思われた(原作では、吾良の知り合いがみちる親子を一晩泊めてくれそうなところを探してあげていたということになっていたのだけれども)。

 ともあれ、稟久もゆりあが連絡し忘れていたため遅ればせながら合流し、みんなでそろって伊沢家に戻ることに。このとき、まにの希望で、足をくじいたゆりあをみちると稟久が支えながら記念撮影したのが、本当の家族になった感があって、胸にじんわりと来た。

 帰宅後、みちるはゆりあに、吾良が娘たちからパパと呼ばれるようになったいきさつを打ち明けた。それは、みちるが夫の小山田(前原滉)の再三のDVにたまりかね、まだ幼かったまにを連れて2度目の家出をしたときのこと。彼女は二人目の子供(みのん)を妊娠中で、途方に暮れた末、勤務先の食堂で知り合った吾良に助けを求めたのだった。

 このときの吾良は意外に厳しい感じで、自分に何をしてほしいのかとみちるに訊ねてきたという。これに彼女は、子供を世話できないから中絶すると自分が言ったら手伝ってくれるのかと逆に訊くと、吾良から「ほかに誰もいないなら付き添うけど、『本当にそれでいいの?』ってこと、100回ぐらい訊くよ、俺は」と、やんわりとではあるが諭されてしまった。吾良としてみれば、ゆりあとずっと不妊治療を続けてきただけに、新たに宿った命に対し無責任なことは言えなかったのだ。彼の言葉にみちるも産む覚悟を決める。このとき、吾良が自分のことを「いいじゃん、じいちゃんってことで」と言うと、みちるは「ええっ、パパがいい」と冗談めかしながらも涙ぐんだ。

 吾良とみちるの娘との関係(みのんは彼の娘ではなかった)についてすべてを知らされ、ゆりあは「クソバカだな、ほんと。結果、自ら進んでパパになってるじゃん」とあきれつつも、「ま、吾良らしいけどね」と納得する。かく言うゆりあも、吾良と似たり寄ったりのことを目下、みちる親子にしているような……。

 みちるの告白を受けて、ゆりあもお返しとばかり、優弥とその息子の優里亜の写真を見せる。それとあわせて、志生里の策略についてみちるに改めて教えた。これを聞いてみちるは、志生里が自分たちはともかく、これまでずっと吾良の面倒を見てきたゆりあのことを邪魔者扱いしているのは許せないと言ってくれた。ゆりあとみちるが、志生里やDV夫という共通の敵に対し手を取り合って立ち向かおうとする姿が、シスターフッド的な関係を思わせる。

 みちるは一方で、ゆりあが優弥に対してどうにも煮えきれない言葉を繰り返すことに我慢ならず、思わず「ダッサ」と言ってしまう。みちるからすれば、ゆりあは自分たち親子や吾良のことはしっかり受け止めてくれたのに、当の自分の気持ちは受け止められず、自分の人生を引き受けようとしていないように思われたのだ。

 みちるの辛辣な励ましに後押しされて、ゆりあは前回の一件以来しばらく会っていなかった優弥と会うことにする。次の場面で二人仲良く刺繍をする姿に心が和まされるも、その場所はどこかと思えば、ホテル。しかも白昼堂々と……何て大胆な! しかし、それは自分の気持ちに正直になろうというゆりあの覚悟の表れでもあったのだろう。

吾良の意識は戻っていた

 伊沢家に新たな局面が訪れたのは、その直後だった。それは、ゆりあが説得のため志生里を家に呼び出した席上、みちる親子をここへ来てもあくまで他人扱いして追い出そうとする志生里が、みちるから「(みのんが)吾良さんの子だって言えば、問題ないんですか?」と反論され(もちろん、とっさについた嘘である)、「何言ってんの、この人。お兄ちゃんがしゃべれないからって」と言い返したときだった。いきなり、「俺の子だよ」と吾良がベッドの上からはっきりと口にしたのだ。

 吾良のそばで付き添っていた稟久は事態を受け止めきれず、家を飛び出す。志生里もそれを追いかけるが、彼にクソババア呼ばわりされてしまう。節子もその場の空気を察して、バレエ教室へまにを迎えに行くと言って、ゆりあとみちるを吾良と3人だけにさせた。すると吾良は堰を切ったように話し始める。それによれば、彼は意識が戻ってからというもの何度か知らせようとしたものの、みんなが仲良く暮らしているところへいま自分が起きたら、幸せな夢が終わってしまうと思い、とても起きられなかったという。そして「ごめんな、ゆりさんばかりに苦労をかけて、いまさら何言ってるんだって話だけど、幸せだった」と謝る吾良に、ゆりあは「起きられるなら、早く起きればよかったのに……」と号泣しながら抱きつくのだった。

 吾良はきっと、意識が戻ったとき、ゆりあには一切話していなかった稟久やみちる親子が自分の家にいることにまず驚いただろう。しかも、ゆりあが彼らのことを受け入れ、みんなで家族同然に暮らす様子を見て、ひたすら感謝したに違いない。だが、それも自分が起きてしまえば、稟久やみちるたちがこの家にいる理由が失われ、すべてが終わってしまう。だから起きられなかった、というのが何とも切ない。

 できることなら、このまま吾良も一緒にみんなで暮らしていけばいいのに。でも、それではゆりあが優弥と一緒になれないし……。観ているこちらも複雑な気持ちになるが、果たして、ゆりあたちはこの状況にどうやって落とし所を見つけるのだろうか。

→「ゆりあ先生の赤い糸」のレビュー―を読む

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。

●考察『ゆりあ先生の赤い糸』6話 急展開!恋人の過去に動揺するゆりあ(菅野美穂)優弥(木戸大聖)の父役宮藤官九郎がヘラヘラしている分、話が堪える

●『俺の家の話』最終話|「新しい人生」に踏み出した長瀬智也をまだ惜しみ足りない

●『鎌倉殿の13人』最終話 弟を怪物にしてしまった政子の自責だったのか?それとも…恐るべきラストシーンを考察

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