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考察『ゆりあ先生の赤い糸』6話 急展開!恋人の過去に動揺するゆりあ(菅野美穂)優弥(木戸大聖)の父役宮藤官九郎がヘラヘラしている分、話が堪える

 くも膜下出血で倒れて要介護5の状態になった夫の吾良(田中哲司)を自宅介護する決意をしたゆりあ(菅野美穂)は、便利屋の青年・優弥(木戸大聖)と恋に落ち、吾良の妹(宮澤エマ)にまでそれを知られてしまいます。思いがけず優弥の父(宮藤官九郎)と話すことになり、辛い事実を突きつけられて動揺するゆりあ、急に発話しはじめる吾良……。急展開の『ゆりあ先生の赤い糸』(テレビ朝日系 木曜よる9時~)6話をドラマに詳しいライター・近藤正高さんが振り返ります。

志生里(宮澤エマ)の野心、稟久(鈴鹿央士)の黒さ

 油断していた。ドラマも折り返しをすぎたであろう第6話に来て、まさか、吾良(田中哲司)の妹の志生里(宮澤エマ)が伊沢家をかき回しにくるなんて。志生里は前々回出てこなかったこともあり、単ににぎやかしのキャラクターだったのか……と一瞬思ったりもしたのだが、演じ手に宮澤エマを起用したのだから、やはりただでは済まなかった。

 吾良の意識が戻ってしばらくして、志生里はいつものごとく気まぐれに来宅したかと思うと、ゆりあ(菅野美穂)に折り入って話があると切り出した。聞けば、彼女は稟久(鈴鹿央士)とメールのやりとりをしており、彼が吾郎の恋人であることも、また、ゆりあが吾郎とは別に好きな男がいることもすでに承知であった。そのうえで、ある提案を(もったいぶりながら)してきたのだ。それは、凛久と自分が結婚するというプランであった。志生里に言わせると、自分と稟久が仮面夫婦とはいえこの家に居着くようになれば、ゆりあは何の心配もなく好きな人との未来を考えられるようになるし、稟久は大手を振って吾良と暮らせるようになるというのだ。

 ただ、それを実行するにあたっては、いま同居しているみちる(松岡茉優)親子には出て行ってもらうと志生里は言い募る。それを聞いて、ゆりあはプランを拒んだ。しかも、これについて稟久はどう言っているのかと訊けば、まだゆりあにしか話していないという。それなら、まず稟久に結婚する気があるのかどうか訊いてみるよう、ゆりあは促したのだが、志生里は「えー、それって変な意味にとられない?」「私がりっくんのことが好きで、何か理由こじつけて、結婚したがってる、みたいな?」と抜け抜けと言うので、あきれるほかなかった。いや、どう考えても、あんたは結婚したいからこんなプランを立ててきたんでしょうが。

 ちなみに原作コミックにも同じシーンがあるものの、こちらの志生里はもう少し天然キャラで、さほど企んでる感じはしない。それが宮澤エマが演じると、同じプランも100%企みというか策略としか思えないのが面白い。そういえば、宮澤は昨年のNHKの大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で、自分の夫や育ててきた息子を権力の座に就けようと野心をたぎらせる女性を演じていた。あれを見ているだけに、本作でも彼女は体よくゆりあを追い出し、伊沢家を乗っ取ろうとしているのだ! とつい解釈してしまう。

 ともあれ、志生里には凛久に直接訊く気はなさそうなので、ゆりあが彼に単刀直入に問いただすことになる。すると凛久は、実家の旅館の跡継ぎ問題も抱えていることもあり、志生里の話に乗ればそこから解放されるし、しかも犬猿の仲であるみちるとその娘2人も追い出せるとあって、意外にも乗り気であった。ゆりあはそれを聞き、「本気で向こう(志生里)に加担するなら、きょうから吾良は敵だけどいいの?」と念を押すが、逆に稟久から、「ゆりさんこそ、いいんですか? この家を出て例の彼氏と一緒になれる願ったりかなったりのチャンスじゃないですか」と言い返されてしまう。そう言われると彼女は弱い。焦って「こんなおばさんと一緒になるには若すぎるから」と、彼氏である優弥(木戸大聖)のことを慮るふりをしてみせるも、稟久はそれも見逃さない。「そんなに怖いですか、(優弥に)捨てられるの?」「しっかりしろよ、おばさん! いまさら良識ぶるなら最初から不倫なんかやめとけよ」とここぞとばかり罵詈雑言を浴びせかける。

 以前から稟久は、人の弱みにつけ込んでズケズケ言ってくるタイプであったとはいえ、ここへ来てますます性格がねじれてきてるような気がしてならない。こうなると、鈴鹿央士が真っ黒な王子にしか見えなくなってくる。考えてみれば、志生里があんなプランを提案してきたのも、そもそも稟久が彼女に、ゆりあに好きな男がいると吹き込んだからではないか。稟久はおそらく、ゆりあがキッチンのテーブルで居眠りしているあいだに、スマホに優弥からのメッセージが届いているのを目にして、志生里に告げ口したのだろう。

宮藤官九郎、ヘラヘラと登場

 今回はさらに、ゆりあにとって大きな出来事があいつぐ。まず、優弥と息子の優里亜を交えてデートしたあと、成り行きで彼の実家を訪ねることになった。そこで現れたのが前回終わりの予告に出てきた宮藤官九郎である。宮藤の役どころは優弥の父親で、便利屋「VH本舗」の社長であった。宮藤といえば、一昨年に脚本を手がけたドラマ『俺の家の話』(TBS)で、脳梗塞で倒れた能楽師の父親を、プロレスラーの息子が介護する様子を描いていたことが思い出される。今回の出演にはひょっとすると、介護ドラマの先輩として胸を貸すという意味合いもあったのか。ちなみに宮藤自身は、週刊誌の連載エッセイで、このドラマを自分の撮影後に慌てて配信で1話から観て、「このあと俺が出て来るとは到底思えないほど素晴らしいドラマ」と評していた。

 原作コミックでは、優弥の父親は金髪でコワモテなキャラクターとして描かれている。これに対し、宮藤演じる父はヘラヘラというか飄々とした雰囲気。ゆりあとは優弥よりも世代が近いということで昔の洋楽談義に花を咲かせる(「VH本舗」という社名も、兄弟で起業するにあたって、同じく兄弟を中心に結成されたロックバンド、ヴァン・ヘイレンにあやかったらしい)。それでも原作と同じく、ときおり父親らしいことを言うから油断ならない。息子がゆりあと付き合っていることもすぐに見抜いて、「けじめだけはつけねえとな」と言うので、優弥もつい「先週、(逃げた妻との)離婚届を出した」と、ゆりあには二人きりになったところで伝えるつもりだったのに、うっかり口にしてしまう。

 さらに父親は、優弥に裏のおばあちゃんから頼まれた電球交換に行かせたところで、ゆりあに気になることを口にする。どうも優弥は妻に逃げられたばかりか、過去に事故に遭っていたらしい。だからこそ親としては息子にも孫にも幸せになってほしいと、「ほどほどに遊んだら、帰してやってくださいよ、先生」と頼んできたのだ。これにゆりあは遊びではないと反論するが、父親はやんわりとかわす。ヘラヘラした人にこういうことを言われると、よけい堪えたに違いない。このあと、優弥に見送られる途中、ゆりあは唐突に「このあいだの続き」をしようとホテルに誘うのだった。

 というわけで、ここから場面はベッドシーンへと移るのだが、優弥はこの日も結局、ゆりあと結ばれないままコトを終える。ゆりあはてっきり自分がおばさんだから、優弥が本気になれないのかと思い込んでいたのだが、ここで衝撃の事実が判明する。何と、優弥はかつてサラリーマン時代にバイク事故に遭うも、奇跡的に一命を取り留めた上に、一時は一生寝たきりとも言われていたのが見事回復したという。それでも下半身は事故前の状態には戻らないままらしい。だから、ベッドでうまくいかないのは自分が不良品だからで、ゆりあのせいではないと、彼は優しく慰めてくれる。

 だが、優弥の過去を知り、ゆりあのなかで、彼が以前、自分に「旦那さんがああいう状態になってもずっと一緒にいてくれるっていいなあ」などと言っていた、その真意に思いいたる。彼女としてみれば、それはあまりに残酷なことであった。なぜなら、優弥がゆりあに好意を抱いたのは自身の境遇ゆえで、運命でも何でもなかったのだとわかってしまったからだ。今回の劇中、ゆりあがバレエを習い始めたみちるの長女・まに(白山乃愛)に何やかやとアドバイスするのを見て、稟久が「過度な善意は悪意より人を苦しめることがあります」と忠告していたが、まさか、優弥の優しさがゆりあを苦しめることになるとは……。稟久と志生里の企みに対し、ゆりあに残された希望であった優弥との関係に暗雲がたちこめる。

 そんななか、まにが家でバレエの練習をしていると、「まに、うまくなったね」と声が……彼女が振り向くと、何と吾良がじっとこちらを見つめているではないか。今回前半で重湯のようなものを食べられるまでになっていた吾良だが、今度は発話できるようになったとすれば、思いのほか回復は早い。伊沢家が不安と希望でないまぜになるなか、次回、家庭崩壊の危機が!?

→「ゆりあ先生の赤い糸」のレビュー―を読む

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。

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