やわらか食の作り方|クリコ流時短のコツとやわらか牛焼肉丼レシピ
風邪や胃腸の調子が悪い時、口内炎ができた時、口腔内のがんに罹った時…やむなく長期にわたって“やわらか食”を余儀なくされることも。やわらか食は、長く煮たり、つぶしたり、とろみをつけたりと、どうしても通常食以上に調理に時間がかかり、それを3食作るとなると、いくら時間があっても足りない。
そこで、口腔底がんの手術後、噛む力を失った夫に美味しいご飯を食べさせたいと、独自に“見た目も味も家族と同じ献立”のやわらか介護食を編み出した介護食アドバイザーのクリコさんに、介護食の時短調理法を教えてもらいました。
新刊『噛む力が弱った人のおいしい長生きごはん』(講談社)で紹介している、その時短調理法を活用した『かぼちゃリゾット』と『牛焼肉丼』のレシピも併せてご紹介します!
→口の中が痛い時の調理のコツ|がん、口内炎など口腔内トラブル時の食事
時短を応援!作りおきフリージング
介護食作りは、やわらかくするために長く煮る、噛みやすいように細かく刻む、ミキサーにかける、すりつぶす、とろみをつける…というように、ひとつひとつの調理に手間がかかる。1日3食、毎日作るのは至難の業だ。でも市販の介護食は味覚が合わない、家族と同じように見栄えのいい食事が食べたい…などの理由から、できれば手作りで健康的で美味しい食事を食べてほしいもの。手探りで介護食作りを始めた当初、一日中キッチンにいてストレス満載だったというクリコさんが考案したのが、“作りおきフリージング”だ。
「イチから作り始めるのではなく、半加工済みのベース素材が冷凍庫にあれば、調理時間を大幅に短縮でき、気持ちにゆとりができます」(クリコさん、以下「」同)
これさえ冷凍庫にあれば安心!という、クリコ流、作りおきフリージングアイテムを5つご紹介します。
【1】冷凍野菜ピュレCubeを常備
食事の支度に充分な時間が取れなかったり、疲れておっくうな時、頼りになるのが冷凍保存してある野菜のピュレ。だし汁と合わせればすり流しに、コンソメスープと合わせればポタージュに、おかゆと合わせればリゾットになる。じゃがいものピュレと、かにのほぐし身にホワイトソースを加えてオーブントースターで焼けば、かにグラタンにも。「温めた鶏ガラスープにピュレをポンと入れるだけで、ポタージュがあっという間に完成。野菜のピュレは、時短料理の強い味方です」
【2】シート肉、えび&ほたてのすり身で形を再現
「肉やむきえびに材料を加えてミキサーにかけ、やわらかくした『たね』をもう一度、カタチを成形するのが特徴です。まとめてたくさん作って冷凍保存しておけば、短時間でさまざまな肉料理、えび・ほたて料理を作れて大活躍。シート肉は食べられる量によって重ねる枚数で厚みを調整できます。お箸でスッと切れるほどのやわらかさ。ただ、加熱しすぎると硬くなってしまうので注意しましょう」
【3】うま味&コク足しピュレ、ソース類も小分け冷凍
味つけの強い味方になるのが、玉ねぎをしっかり炒めたあめ色玉ねぎピュレ、複数のきのこで作ったミックスきのこのピュレ。ホワイトソースやミートソース、麻婆ダレといったソース類も、小分け冷凍しておけば味のバリエーションが豊かに。
【4】主食のご飯&麺は1食分ずつ冷凍して常備
元気の源・炭水化物も噛む力、飲み込む力に合わせて、軟飯や全がゆ、五分がゆなどまとめて作って1食分ずつ冷凍を。マカロニなどの麺類も、噛みやすいやわらかさにゆでて、食べやすい長さに切り、1食ずつ冷凍しておくといい。
【5】困った時に役立つ、完成品冷凍
体調が悪い時や、時間に追われて料理が作れない時、温め直すだけですぐに出せるのが完成品冷凍。「わが家では、えびマカロニグラタンやサケのクリームシチューでしたが、これを出せば必ず喜んで完食するテッパン料理の完成品をそのまま冷凍しておくといいですね。私が病気で入院した時も、この完成品冷凍が冷凍庫にあって、本当に助かりました」
介護食では、普通食の家庭料理のように、肉や魚、野菜などをそのまま調理するというわけにはいかず、野菜をやわらかくゆでてフードプロセッサーにかけてピュレにするのも、毎食この作業をしていてはいくら時間があっても足りない。まとめて作りおき冷凍しておけば、いつでも使いたい時に冷凍庫から半分できた状態で取り出して調理でき、調理時間を短縮できる。
「野菜のピュレはほかの素材と組み合わせて、彩りよく栄養満点の野菜料理を簡単に作ることができます。ベース素材を準備しておけば、料理のレパートリーも簡単に増やせる上に、作る人、食べる人にとっての食事の時間が楽しい物に変わります」
彩りも美しくビタミンも摂れる野菜ピュレ。本の中では、にんじんやほうれん草、ミックスきのこ、あめ色玉ねぎの野菜ピュレの作り方を紹介しているが、ここではかぼちゃピュレの作り方を紹介します。
かぼちゃのピュレの作り方
【材料】(作りやすい分量)
かぼちゃ…100g
水…大さじ1~2
塩…ひとつまみ
【作り方】
1. 皮をむき1.5cm角に切ったかぼちゃを耐熱容器に入れ、水と塩をなじませる。ラップなどで蓋をし、600wの電子レンジで4~5分加熱。
2. 熱いうちにマッシャーなどでなめらかになるまでつぶす。裏ごし器で裏ごしするとよりなめらかになる。
3. 小分け冷凍容器に詰めて冷凍保存。*冷凍保存期間の目安は約2週間
*じゃがいもの場合も同様。葉もの野菜もゆでてフードプロセッサーにかけ、ピュレにして冷凍保存ができる。
かぼちゃのリゾット
かぼちゃのピュレをおかゆに入れて、鶏ガラスープの素と煮るだけ。和風にかたよりがちなおかゆのバリエーションが広がります。
【材料】(1人分)
全がゆ[ご飯…100g 水…300cc]
鶏ガラスープの素…小さじ3/4
かぼちゃのピュレ…50g
かぼちゃ(皮と種を除く)…20g
無塩バター…5g
塩…適量
●トッピング
粉チーズ…大さじ1
オリーブ油…適量
【作り方】
1.かぼちゃを7mm角に切り、やわらかくゆでる。
2.かぼちゃのピュレを用意する。冷凍保存してある場合は、解凍する。
3.全がゆを作る。ご飯をゆでこぼし、さっと水洗いして鍋に戻す。水を加え、舌でつぶせるやわらかさになるまで、20分を目安に加熱する。途中、水が足りなければ適宜足す。鶏ガラスープの素を加える。
4.水分が少なくなったら焦げないよう鍋底からかき混ぜ、ご飯がやわらかくなったら1と2を混ぜる。
5.鍋底の筋が2秒ほどで消えるくらいになったら、火からおろし、バターを加え混ぜる。塩分が足りなければ塩で調味し、皿に盛る。
6.香りづけにオリーブ油を回しかけ、粉チーズをふりかける。
*削りたてのパルメザンチーズを使うと風味が更にアップする。
ボリューム満点!やわらか牛焼肉丼
お肉がどうしても食べたい時だって、シート肉を使えば大丈夫! しかも、やわらかい牛シート肉に、市販の焼肉タレを絡めるだけ!
【材料】(1人分)
全がゆ[ご飯…75g 水…240cc]
牛シート肉の肉だね…150g
焼肉のタレ(市販品)…適量
卵黄…1個分
●トッピング
カイワレ…適量
【作り方】
1.全がゆを作る(「かぼちゃのリゾット」作り方の3を参照)。焼肉丼なので、水分少なめに仕上げる。
2.牛シート肉の肉だね150gで牛シート肉を3枚作る。肉だねを冷凍保存してある場合は、解凍する。牛シート肉を冷凍保存してある場合は、1枚ずつ600wの電子レンジで約1分20秒加熱する。
3.2を横半分に切る。フライパンに焼肉のタレを煮立て、肉をさっと絡める。
4.丼に1を盛りつけ、3を並べる。真ん中に卵黄をのせ、カイワレを添える。
クリコ
本名、保森千枝。料理研究家・介護食アドバイザー。夫の勧めで料理教室を開講。2011年、口腔底がんの手術後、噛む力を失った夫に「おいしく食べて、元気になってほしい」と、独学で介護食作りを始める。2014年、介護食アドバイザー資格、食品衛生責任者資格を取得。「簡単においしく」「家族と同じ献立」「好みの味つけ」「美しい盛りつけ」をモットーに介護食作りを提案し、講演会や料理講習会で活躍中。著書『希望のごはん』(日経BP社)。
◆WEBサイト
「やわらかい・飲み込みやすい クリコ流 ふわふわ希望ごはん」(http://curiko-kaigo-gohan.com/)
ベネッセの介護相談室「クリコ流介護ごはん」(https://kaigo-sodanshitsu.jp/recipe/)
●『希望のごはん』ができるまで~介護食に新風を吹き込んだ愛のstory<前編>