<災害時に備える>「高齢者や障害者の避難の障壁を知ることが大切」 いますぐ取り組みたい3つのことを専門家が解説
いつ発生してもおかしくない自然災害。豪雨、火災などが起きたとき、自力では避難が難しい「避難行動要支援者」にとって、避難する上で障壁となるものは何か?介護が必要な人や認知症の人、足腰が弱った高齢者、障害のある人たちが、安全に避難するにはどうすべきなのか、専門家に伺った。
教えてくれた人
防災介助士インストラクター、サービス介助士インストラクタ
桜美林大学院老年学研究科修士課程修了。公益財団法人「日本ケアフィット共育機構」の事務局に勤務し、防災に関する知識や情報を啓発している。企業や教育機関などで高齢者や障害者に対する介助技術を含めた接遇についての講演などを行う。近年はボランティア組織の構築、施設のユニバーサルチェック、災害時の避難行動要支援者対策なども担当。
https://www.carefit.org/
もしものときの避難行動に立ち塞がる物と事
内閣府の調査※によると、自然災害は、1970年代に比べて、発生件数、被災者数ともに約3倍に増加している。介護が必要な人や障害のある人にとって、災害時の避難はたやすいことではない。
※内閣府「世界の自然災害の状況」
https://www.bousai.go.jp/kokusai/kyoryoku/world.html
「地震や水害などの災害が起きたときに、人々が避難する際に立ちふさがる障壁となる物や事があります。
高齢者や障害がある人は、避難する際にさまざまな障壁があることで、逃げ遅れたり、危険な状態に陥ったりする可能性が高いと考えられます。
身体的な状況によって避難しにくいという個別の事情のほかにも、社会環境の側にも障壁があるということを知っていて欲しいと思います」
こう教えてくれたのは、日本ケアフィット共育機構の冨樫正義さんだ。
冨樫さんは防災介助士の育成や、高齢者や障害者など、災害時に自力では避難することが難しい避難行動要支援者のサポートを行っている。
社会環境にある障壁を知っておこう
まず、社会環境にある障壁とはどんなものがあるのだろうか?
「たとえば、電車の車内アナウンスは、情報が音声だけなので、聞こえない人や聞こえにくい人は気づくことができません。また、エレベーターがない場所では、車いすを使用している人は避難するのはとても大変なことです。
社会の障壁には、事物、制度、慣行、観念という4つのジャンルがあります」
【社会環境における4つの障壁】
・事物…段差などの物理的なもの。
・制度…障害を理由に入試やクラブなどの入会に制限があるなど。
・慣行…音声情報や視覚情報が主となっているような文化・情報。
・観念…人の心にある差別や偏見など。
現在、こうした社会環境における障壁をなくしていくための取り組みが実施されているという。
「2015年に仙台市で開かれた国連の防災世界会議をきっかけに、国際社会が取り組む課題として広がりつつある、『インクルーシブ防災』(誰1人取り残さない防災)の取り組みにおいては、障害の社会モデルの視点から、避難行動要支援者が直面する社会の障壁に目を向け是正していくことが求められています」
「どんな人が何に困っているか?」避難時の障壁
在宅介護中の人や、施設や病院で暮らしている人、車いすの使用者にとって、避難時には、障壁となるものがさまざまあるという。
「まずは、どんなことが障壁になっているのか確認しておきましょう。何が避難の妨げになっているのかを知っておくことで、いざというときの避難に役立つことがあると思います」
【車いすを利用している人】
・施設などにエレベーターがなく階段しか使えない。
・エレベーターやトイレなどバリアフリー設備が整っていない。
・バリアフリー設備は備えていても、その情報が得られない。
・車いすを使用していない人の目線の高さでは、車いす使用者に気づきにくいため、避難時にぶつかったり、接触したりすることがある。
・避難所などでベッドがない、または少ない。
「避難所では床で就寝しなくてはならないことが多いのですが、車いす使用の人にとっては床に降りることが難しい場合もあります。布団タイプではなく簡易ベッドなどがあるといいのですが、常設されている所はまだ少ないです。最近はダンボールで作成できるベッドなどがありますから、常備していただくといいですね」
【視覚に障害がある人】
・テレビの緊急速報など文字情報だけだとわからないことがある。
・避難経路の案内が視覚情報のみだとわからないことがある。
・避難時、白杖の使用者が気づかれないことがあり、危険を伴うことがある。
・盲導犬を避難所に同行することが難しいケースがある。
・避難スペースやトイレの配置など、避難所のレイアウトに配慮がないことがある。
「視覚障害者は、壁を頼りに歩行することも多いため、トイレなどに行きやすいように居住スペースの配置には配慮していただきたいです」
【聴覚に障害がある人】
・緊急速報や行政からの避難情報、テレビやラジオの災害情報は、音声が主となっていることが多い。
・避難所などで周囲とのコミュニケーションがとりにくい。
・救援物資の配布時に、拡声器などの音声情報が主となっている。
・普段、手話言語で話しているが、避難所では手話言語で話せる人がいない場合がある。
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「このように障害のある人にとっては、避難情報が出ていても届かなかったり、情報不足で実際の行動には結び付かなかったりすることがあります。
これは情報の提供方法が、『音声情報を耳で聴く』『掲示物を目で見る』『歩いて移動する』など、障害のない人を前提としていることが原因でしょう。
高齢者や障害のある人も、普段から避難所になっている場所に家族などと一緒に行ってみて、避難の妨げとなっている事や物を見つけたら、それを行政に相談してみるなど、行動をおこすことが大事だと言えます」
災害時の備え「いますぐ取り組みたい3つのこと」
もしもの災害時に備え、取り組んでおきたいことを教えてもらった。
・実際に避難所まで行ってみる
「自然災害が起きたとしても、備え次第で人への被害の大きさは変わってきます。日頃からお住まいの地域のハザードマップを入手し、実際に災害時の避難をイメージしながら、避難所になりそうな学校などの場所まで行ってみましょう。自身での移動が難しいかたも、家族などの支援者とともに可能な限り避難経路の確認をしておくといいでしょう」
・避難行動要支援者名簿に登録する
「ひとりで避難することが難しい人は、『避難行動要支援者名簿』に登録しておくといいでしょう。これは、お住まいの地域の役所で登録することができます。
名簿に登録した情報が、民生委員や地域包括支援センター、消防機関、警察機関などに共有され(共有される団体は地域による)、いざ災害がおきたときの安否確認や避難支援につながります。
ひとり暮らしの高齢者や在宅介護をしているかたは、登録しておくことをおすすめします」
・防災時の備え、地域の人たちと交流を
「災害時には支援する側の人たちも被害にあっている可能性もあるため、まずは各家庭での防災の備えをしておくこと。そして、日頃から地域の人たちとの交流をはかり、必要な支援について理解してもらうことが必要ですね」
写真提供/公益財団法人日本ケアフィット共育機構 取材・文/本上夕貴
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