自立支援ケア|施設レポート「おむつゼロ」で若返る!歩けるようになった人も
同施設では、寝たきりの状態で入所した人でも、まずは座れるように、次は立ち上がれるように、そして歩けるようにと、段階を踏んだサポートをしている。足に力が入るようになると、歩行器での歩行が始まる。
「しっかり踏みしめて歩くようになると転びにくくなり、骨折も減ります。歩く距離が長くなると、転倒が増えて骨折を招いてしまうのではないかと心配するかたもいますが、実際は逆なのです」(粕川さん・以下同)
年間10例ほどあった骨折は、今では1、2例に減った。また、両施設とも国際的に認められた機器を使った、パワーリハビリを導入している。いわば、老人用の筋トレマシーンによるリハビリだ。
「これにより衰えた筋肉を伸ばす軽負担の有酸素運動ができます。無理のないよう段階を踏んで、萎縮した筋肉の活動範囲を広げるもの。運動をするとドーパミンが発生し、脳の血流がよくなるので認知症のかたにも適しています」
なぎさの里でのトイレへ行くタイミングは3〜5回。朝起きてから、朝食後、昼食後、夕方、寝る前など。職員が声をかけリズムを作るようにしている。なかには、自ら「トイレに行きたい」と申し出る人や、自分でトイレに行き、しっかり戻ってくる人も出てきた。
車椅子の生活から今では自力でスーパーへ
94才での入所時は要介護度4だった96才の女性は、認知症を患い、大腿骨骨折がきっかけで移動は車椅子だった。
おむつをはずすために、まずは補助の手すりにつかまり、立ち上がるリハビリを始めた。徐々に歩行器を使い歩けるようになり、その距離が伸びて、今では昔通っていたスーパーに、補助器具を使って自力で買い物へ行けるまでになった。
「入所直後は表情が乏しかったのですが、今ではよく笑顔を見せてくれます」
要介護度も3に下がった。
くも膜下出血によって右半身が不自由となった68才の男性も、入所当時は無表情で無口だった。食事も介助なしでは食べられなかったが、今では1人で食事ができるようになり、職員にも冗談を飛ばす。要介護度5ながら、競馬場にも出かけるなど、見違えるほど行動的になった。
「おむつゼロ」が大きく減らした2つの負担
おむつゼロにより、介護現場では大きく2つの負担が減る。
1つは、おむつ代の削減。なぎさの里では、月額約50万円から30万円近くにまで下がった。現在は、紙パンツや布パンツに変わった人が多いという。
2つめは、介護者である職員の負担軽減だ。
「立てる入所者が増えたことで、介護が楽になりました。排便のために下剤を使用していたときは、おむつでは防ぎきれない水様便が寝ている間に出ることも。入所者の安眠を妨げるのはもちろんですが、パジャマもシーツもすべて取り替えるため、処理が大変でしたが、その作業がなくなりました」
前出の竹内さんは、おむつがはずれることは、生活やケアが楽になる以上の価値があると話す。
「おむつを使わないことで、お年寄りは尊厳を守ることができる。いわば“自分という人間を取り戻す”という効果があり、顔つきや言動、すべてが変わってきます」(竹内さん)
きたざわ苑で、ほとんど何も話さなくなっていた認知症の女性が、ケアを始めて3か月後のある日、突然、息子の名を呼んだ。しばらく呼ばれることのなかった自分の名を口にした母を前に、男性はその場で涙にむせいだそうだ。
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確かに、私たちは便利なおむつに助けられる場面が、きっとやってくるだろう。だが、さらにその先にある「おむつゼロ」への回帰は、大切な家族の笑顔を見るために欠かせない介護であることも、忘れないでほしい。
撮影/矢口和也
※女性セブン2019年2月28日号
●胃ろうが外れた人も!「あきらめない」自立支援介護を実践する老人ホーム<前編>