自立支援ケア|施設レポート「おむつゼロ」で若返る!歩けるようになった人も
東京・世田谷区立きたざわ苑は、要介護度3以上の介護者が約100人入所しており、全員がおむつゼロで過ごす。
’06年から取り組みを始め、’08年には入所者全員がおむつゼロを達成した。
実は当初、職員の間には、この取り組みに対して懸念する声もあった。
「おむつをはずす過程で、1日あたり1.5リットルの水分を摂る必要があります。しかし、それまでの平均摂取量は約800ml。この量を飲んでもらうだけでも大変なのに、さらに倍近く増やすのは無理だと言う職員が多かったのです」(施設長・岩上広一さん・以下同)
そもそも高齢者にとって、おむつを替えたりトイレへ行くことそのものが面倒で、水分を飲み控える人は少なくない。そのため、水分不足の面が問題となっていた。介護の現場では、「水を飲ませる」ことひとつとっても、難しいことなのだ。
しかしそれでも、反対意見を抑えて取り組みを始めたのは、“老人ホームを終の棲家にしない”という理念があったから。
「いつか元気になって、家族のもとに帰ってほしい。自宅でのおむつ替えは重労働ですし、その意味でも、おむつをはずす取り組みは、在宅での生活を支える重要なケアとなると考えたのです」
認知症の人の症状が改善、尿路感染症もゼロに
おむつはずしは、健康面での効果も期待があった。
「おむつの中で大便と尿が混ざると化学反応が起こり、おむつ焼けでただれたり、女性は尿路感染症を引き起こすことも。それらを予防するためにも、排泄の自立は意味があると思いました」
いざスタートすると、途端に効果が表れた。
「認知症のかたの周辺症状がピタッと止まったのです。入院率も下がり、期待していたとおり、尿路感染症までゼロになりました」
結果が出ると、反対していた職員の意識も変わった。トイレで排泄する習慣を取り戻す取り組みも行った。
「体が硬直している人には便座部分にクッションをあてがうなど、工夫を凝らしていました。“いいといわれることは、なんでもやってみよう”とポジティブな意識でまわりを引っ張ってくれた現場リーダーがいたことも、大きかったですね」
2年後、寝たきりの要介護者を含め、ついに「おむつゼロ」は結実した。
新潟県の施設での水分対策は…
新潟県にある、なぎさの里は、入所者の約6割が要介護度4~5。’14年に、自立支援介護の方針に則って取り組みを始め、’17年に入所者全員の日中おむつゼロ化に成功した。
同施設では、水を飲んでもらうために、工夫を施している。
「お茶や水ばかりでは、どうしても1.5リットルは飲みきれません。飽きさせないよう、牛乳やコーヒー、ココア、紅茶、寒天ゼリーなど、入所者の好みに合わせて出しています。飲むタイミングは、トイレに行った後、動いた後など、習慣化しています」(ケア課長の粕川晶弘さん)
寒天ゼリーは食物繊維も含むため、排便を促す効果もある。無理に飲ませることはせず、職員と雑談しながら一緒に飲むなど、環境づくりにも気を配る。
食事については、他の多くの老人ホームと異なり、入所者の7割が常食というから驚く。おやつにはせんべいなど、あえて硬いものを出し、するめでかむ力を鍛え、流動食から常食に戻した人もいる。
なぎさの里に入所している94才の米田さん(仮名)は、介助なしで食事をしていた。
「ご飯はなんでもいただく。お水もいっぱい飲むよ」(米田さん)
この日の献立は、ご飯、鮭のねぎマヨ、小松菜のおひたし、みそ汁という常食のメニューだった。