兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第218回 我が家と介護施設】
若年性認知症を患う兄が3泊4日で特養のショートステイを利用することが決まりました。早速、施設に契約、見学に行った妹のツガエマナミコさんは、施設の人の説明に、少し微妙な気持ちになります。本格的な施設入居に向けて動き始めたものの、兄の生活の場は、我が家より施設の方が快適?うーむ、そう簡単には気持ちは割り切れないのです。
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ショートステイ先からの心強い言葉
「我々プロが対応しますし、おうちで過ごすよりも快適に過ごせると思いますよ」
これは、兄が今度お世話になるショートステイの契約を済ませて、館内を案内していただくなかで介護主任さまがおっしゃったお言葉です。 はじめは“おうちで過ごすよりも”というフレーズにひっかかりがあったのですが、家に帰ってきて兄と向き合うと、会話をする気にならない自分がおりました。「偉そうなこと言ったって兄に全然優しくできないじゃないか!」と自分の態度を再自覚。まさに“おうちで過ごすよりも”はおっしゃる通りのお言葉でした。 施設だったらもっと話しかけてもらえるのでしょうし、我が家というものの記憶があまりない兄にとっては、仏頂面の妹が愚痴ばかり言っている場所より、知らない人でも笑顔で優しくかまってもらえる場所の方がきっと幸せなのでございます。
そして、話のついでに入居を考えていることを申し上げると「今回のショートステイの後、ロングのショートステイ(3か月まで可能)をしていただき、そのまま入居という流れがご本人にとっても我々にとっても一番いいと思います」というお話がありました。
現在「空き」があるかどうかまでは勇気がなくて聞けませんでしたが、何百人待ちという感じでもないような印象を受けました。申し込み方法など、今度ケアマネさまに伺ってみようと思います。
さて、今回のショートステイに向けて、準備をしなければなりません。以前利用したショートステイでは、1泊だったこともあり、パジャマは特に必要なく、足元はスリッパでOKでしたが、今回はパジャマと室内履きが必須のようでございます。3泊分+予備の着替えまで入れると、荷物はなかなかの分量。最近、毎朝お便さま攻撃に見舞われるので、パジャマは3着用意しないとダメかもしれないと思っております。そうなると鞄も大きなものが必要になりそう。ああ、お買い物に行かなければ……。
今朝も、お便さまを踏んづけた靴下で家の中を歩き回られ、「もういやだー!」となったばかりでございます。ショートステイでも同様のことが起こると思われ、とても心配でございます。個室にはおトイレがありませんでした。その施設ではスタッフが声をかけて連れていく方式だそうです。自分の部屋のポリ容器に毎朝お尿さまをしていることや、部屋のあちこちでやってしまう可能性があることをお伝えしたのですが、「それをどうすればいいか、どう工夫すればいいかを考えるのが我々の仕事ですから大丈夫です」と心強いお言葉で受け止めてくださいました。実際の兄の排泄攻撃で「手に負えないわ」と思われないことを祈るばかりでございます。
そんなこととは全く関係なく、このたび、2か月ほど前から取り組んでまいりました「円周率小数点以下100桁覚えようチャレンジ」がついに最終回を迎えました。
還暦オバチャンの挑戦でしたが、おかげさまで目標達成いたしました。
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こう並べてみると100桁など少なく見えます。2か月もかければこのくらい覚えられて当然かもしれません。でも自分としては途方もない挑戦でございました。せっかく覚えたのだから70歳になっても100桁言える自分でありたいもの。これからもお洗濯ものを干す時間や、原稿書きの合間の気分転換にぶつぶつ唱えたいと思っております。
円周率は今や100兆桁までコンピューターによって計算されていて、さらに記録を伸ばそうと世界中が競っているそうでございます。たった100桁でもその一端だと思うとロマンを感じずにいられないツガエでございます。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性60才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現64才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ