「1か月で4kgやせた母。暑さのせいだと思ったら…」夏バテ症状に似た危険な病気「症状別逆引き病気リスト」
今年の夏は、10年に一度といわれるほど危険な暑さに見舞われ、体がだるい、やる気が出ないとこぼす人は多い。そのほとんどの人は「ただの夏バテだから少し休めばよくなるはず」と体調の異変を軽く見ているかもしれない。しかし、その症状が実は重病の予兆…ということも。そこで、夏バテの症状に似た「命に関わる危険な病気」について専門家に教えてもらった。
教えてくれた人
岡田正彦さん/新潟大学名誉教授、秋津壽男さん/秋津医院院長、室井一辰さん/医療経済ジャーナリスト、菊池大和さん/きくち総合診療クリニック理事長
やせる、腰痛・背中の痛みで受診したら…
東京都在住の土井美香子さん(26才・仮名)の母は、短い闘病生活の末、8月半ばに静かに息を引き取った。体調に異変が現れたのは、昨年夏のことだった。
「母は“暑くてだるいし、食欲もない”と言って、>1か月で4kgもやせました。でも“夏バテだから涼しくなったらよくなる”“いいダイエットになった”と楽観視していたんです。ところが月に入ってもだるさが取れず、腰痛や背中の痛みがひどくなってきたというので、念のために大学病院を受診させました。検査の結果はすい臓がん。ステージ4で、すでにリンパ節にも広範囲に転移していたため手術では取りきれない状態で、“余命半年”>”と宣告されました」(土井さん)
抗がん剤による闘病の末、土井さんの母は53才の若さでこの世を去った。土井さんは目に涙をためながら、こうつぶやく。
「暑さのせいだと思い込んで、母の不調を軽視していたことが悔やまれます」
新潟大学名誉教授の岡田正彦さんが言う。
「夏バテだと思っていたら、実は命にかかわる病気に罹患していたというケースは少なくありません。高をくくらず、病気のサインを見逃さないようにしてほしい」
手遅れにならないよう、気になる夏バテの症状から、罹患の可能性のある病気を「逆引き」しよう。
手遅れにならないように!症状から逆引きする可能性のある病気
症状例:食欲不振、吐き気、胃もたれ、背中と腰の間が痛む
「どんなに具合が悪くても、食欲だけはなくならないのが自慢」という岐阜県在住の伊藤篤子さん(4才・仮名)が、食欲不振に陥ったのも昨年夏のことだった。
「猛暑日が続いていたので、“さすがのお母さんも猛暑には勝てないか”と子供たちと一緒に笑い合っていました。実際、暑さが和らいだ日には多少食べられたので、体がだるいのも夏バテのせいだと思っていたんです」(伊藤さん)
次第に気温に関係なく食事がとれなくなり、がんばって食べると吐き気に襲われるようになった。しかし、夫も同じ時期に「暑くて食欲がない」と言っていたので、それでもまだ夏バテだと思っていたという。
しかし、その後も胃もたれが続き、さらに背中と腰の間が痛むようになってきたので病院を受診。すると胃がんが見つかった。
「幸い初期だったので内視鏡手術で済みましたが、あのままがまんしてやり過ごしていたらと思うと、ゾッとします」(伊藤さん)
●食欲不振は胃がんの初期症状
秋津医院院長の秋津壽男さんは、食欲不振は胃がんの初期症状の1つだと話す。
「がん細胞には食欲を抑えて体力を低下させる作用があるため、胃がんだけでなく、肝臓がんやすい臓がん、血液のがんである白血病やリンパ腫など、さまざまながんとの関連が疑われます」
●高齢者に多い「腎機能低下」
怖いのはがんだけではない。岡田さんが特に「高齢者に多い」と指摘するのが腎機能低下だ。
「元気がなくてご飯が食べられないという高齢者を検査すると、腎臓の機能が悪化し、塩分濃度が下がっているケースが意外に多い。腎機能が低下すると食欲がなくなり、結果として塩分濃度も下がっているのです。エアコンが効いていて、体に負担がかからない環境で暮らしているにもかかわらず、ちゃんと食べられていないようなら、一度血液検査を受けてみた方がいい。いきすぎた塩分摂取制限が原因の場合もあるので、塩分の控えすぎにも要注意。特に高齢者は、夏場はちゃんと塩分を摂取しましょう」
●甲状腺機能低下症にも要注意!
医療経済ジャーナリストの室井一辰さんは、甲状腺機能低下症の可能性を指摘する。
「甲状腺機能が低下すると食欲が落ち、エネルギーが湧いてこないといった夏バテと同じ症状が現れます。放置すると心不全や動脈硬化、意識障害などを引き起こし、最悪の場合、死に至ります。肌が乾燥してカサカサする、体がむくむ、寒気がするなどの症状も出ていたら、甲状腺機能低下症を疑うべきでしょう」
●新型コロナ感染の可能性も
また、今年の夏は「夏バテだと思っていたら、実は新型コロナだった」という患者が多いという。
「ワクチン接種が進んでいることもあり、新型コロナに感染しても高熱やひどい咳などの症状が出ないケースが増えている。食欲不振や倦怠感、のどの違和感などから、新型コロナとは気がつかずに病院に来る患者さんも少なくない。食欲が減退してウイルス性胃腸炎にかかっていても、症状が軽いと夏バテと勘違いしてしまうケースもある」(秋津さん)
食欲がないだけ―では済まされないのだ。
「食欲不振」逆引きリスト
・ウイルス性胃腸炎
・うっ血性心不全
・がん
・関節リウマチ
・甲状腺機能低下症
・更年期障害
・新型コロナ
・鉄欠乏症
・脳卒中
・パーキンソン病
・白血病
・貧血
・慢性腎臓病
・リンパ腫
→市販薬に頼らず、すぐに病院へ行くべきケース|食欲不振が長引く、熱を伴う腹痛…
症状例2:繰り返す便秘と下痢
夏バテは食欲不振のほかにも胃腸の不調を招くことが多い。汗をかいて水分が不足するため便秘になることや、消化力が落ちたり冷たいものの摂りすぎで下痢をしてしまうことも珍しくない。だが、岡田さんはこう話す。
<“>「感染性の胃腸炎や潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群、クローン病など、下痢や便秘を招く可能性のある病気は数多い。特に夏場は食中毒やウイルス性の胃腸炎、夏風邪も考えられます」
●大腸がんの恐れも
とりわけ、きくち総合診療クリニック理事長の菊池大和さんが注意を促すのは、便秘と下痢を繰り返す症状だ。
「便秘と下痢を繰り返す場合は、大腸がんの恐れがある。1年以内に大腸カメラ検査を受けていれば可能性は低いですが、検査を受けたことのない人やしばらく検査を受けていない人は病院を受診し、調べてみる方が安心です」
●腸の不調が別の部位の病気の場合も
腸の不調が、別の部位の病気によるケースもある。
「うっ血性心不全や肝炎、関節リウマチ、睡眠時無呼吸症候群でも、胃腸障害などの症状が現れることがあります」(室井さん)
「胃腸症状」逆引きリスト
・インフルエンザ
・うっ血性心不全
・ウイルス性胃腸炎
・潰瘍性大腸炎
・風邪
・過敏性腸症候群
・肝炎
・関節リウマチ
・クローン病
・結核
・甲状腺機能低下症
・食中毒
・睡眠時無呼吸症候群
・線維筋痛症
・大腸がん
・糖尿病
・慢性閉塞性肺疾患(COPD)
→”大腸がん”を防ぐ6つの習慣「毎日スプーン1杯のオリーブオイルを」【医師監修】
症状3:不眠、抜けない疲労感
よく眠れないのは夏バテのせいと思い込むのも早計だ。
福岡県に住む坂田孝江さん(49才・仮名)は不眠に悩まされ、疲労感が抜けない日々が続いた。姑の介護や子供の受験のサポートなどで忙しく、「やらなきゃ」と自分を奮い立たせようとするが、気力と体力がついていかない。
●うつ病の可能性も
「熱帯夜が続いているから寝つけなくて当然と思っていたのですが、いつまでたっても眠れない日が続くので、おかしいと思って病院を受診すると、うつ病と診断されました。医師によれば、私の表情を見て、ひと目でうつだとわかったとか。鏡を見るたびに顔が黒ずんでいるように感じていたのは、日焼けのせいではなく、うつに伴うストレスで顔の血流が滞っていたためだったようです」(坂田さん)
「睡眠障害」逆引きリスト
・うつ病
・更年期障害
・睡眠時無呼吸症候群
→2分以内に寝つける!米軍が採用した究極の睡眠法「漸進的筋弛緩法」とは?やり方をイラストでわかりやすく解説【睡眠専門医監修】
写真/PIXTA
※女性セブン2023年9月7日号
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