母の介護付有料老人ホームの費用を父がアルバイトをして賄っているが将来が不安…払えなくなる前にできる対策は?年金で賄うには?実例相談をもとにFP解説
介護付有料老人ホームの費用は、公的な施設よりも高額のため、年金収入だけでは足りないことも。また、入居時に支払う入居一時金も数百万~数千万と高額なケースがほとんどです。入居年数が長くなることで介護費用もかさむため、親の年金や預貯金だけで払い続けられるのかと不安を感じている人も多いのではないでしょうか。「母親の介護付有料老人ホームの支払いが不安」という実例相談から、費用が払えない場合の対処法について、ファイナンシャルプランナー・行政書士の河村修一さんに解説いただきました。
相談事例:有料老人ホームの支払いが不安
相談者のAさんは首都圏在住ですが、70代後半の親御さんは地方で暮らしています。お父様は今のところ元気で実家でひとり暮らしをしていますが、お母様は要介護4で介護付有料老人ホーム(以下、有老)に入居中です。お母様が入居している有老は、入居一時金が約150万円、月々の支払いが約20万円かかっているとのこと。
現在、お父様は会社を退職後、年金だけでは足りないため、アルバイトをしてお母様の老人ホーム代を捻出している状況です。
Aさんは、今後、お父様が病気や介護で働けなくなった場合、有老の費用を支払い続けるのは難しいと考え、比較的安価な特別養護老人ホーム(以下、特養)への転居を考えています。
ただし、お父様は、自分が働けるうちは有老から特養へ変わることに難色を示しているとのことでした。
Aさんは、今後、資金援助する必要があるのか心配になったとのこと。そこで、収支や預貯金額から将来のお金の流れを見える化する「キャッシュフロー表」を一緒に作成してみました。
お母様がそのまま有老に入居し、お父様が再来年(2年後)にアルバイトを辞めた場合は、おおよそ5年後には預貯金が枯渇することがわかりました。
仮に、お母様が有老を退去して、特養(ユニット型個室)に入所した場合は、軽減制度※等を利用して、おおよそ8年後まで資産寿命が延びます。
ただし、特養は人気があり、地域によってはすぐに入所できない事情があるため、早めに情報収集をしたり、複数施設の申込みを行ったりするなど対策を講じる必要があるでしょう。
入所するまでに相当の待ち期間がある場合には、Aさんの支援も毎月数万円必要になるかもしれません。
※「特定入所者介護サービス費」。要介護度や年収等により居住費と食費などが軽減される制度などがある。介護保険負担限度額認定を受け宇r必要がある。
→特養に早く入所できた実例・介護費用を安く抑える補足給付とは?【介護のお金FP解説】
施設を退去したら入居一時金は返却される?
なお、有老を退去する際、支払った入居一時金はどうなるのでしょうか。
原則として有老の入居一時金は、償却期間中に退去した場合、未償却分が返金されます。
Aさんのお母様が入居した有老の場合、入居一時金150万円、初期償却率30%、償却期間5年となっています。
仮に2年目で退去した場合は、毎年の償却額は、入居一時金から初期償却を控除した金額を償却期間で除して求めると21万円となり、63万円が返金されます。
初期償却:150万円×30%=45万円
年間の償却額:105万円÷5年=21万円
毎月の償却額:21万円÷12カ月=1.75万円
このようなことから、有老に入居するときには、入居一時金の償却率について確認しておくといいでしょう。
今回の相談事例のように、親のほうは自分の収入や預貯金で介護費用をまかないたいと考えていても、いつまでも健康を維持できるとも限らず、また、介護期間が長引くことで預貯金が尽きてしてしまうという問題もあります。
以下で、介護費用についての意識調査を紹介します。
介護費用は「年金や貯金でまかないたい」が約8割!
内閣府「令和4年度高齢者の健康に関する調査」によると、将来、排せつ等の介護が必要な状態になった際の介護費用のまかない方は、全体では「年金等の収入でまかなう」が最も多く、8割強の人が、「年金等の収入」と「貯蓄」でまかなうと考えています。
なお、子どもなどの家族・親族からの経済的な援助を考えている人は、4.3%と少ないことがわかります。
今後、介護費用の自己負担は増加すると予測されており、健康面や経済面なども含めて長く働くことが、よりよい選択肢となるのではないでしょうか。
■介護費用のまかない方
■介護費用のまかない方
年金等の収入でまかなう…64%
貯蓄でまかなう…19%
収入や貯蓄ではまかなえないが、資産を売却するなどして自分でまかなう…3%
子などの家族・親族からの経済的な援助を受けることになると思う…4%
特に考えていない…8%
不明・無回答…2%
※参考/内閣府「令和4年度 高齢者の健康に関する調査」
https://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/r04/zentai/pdf/2_3_3.pdf
※参考/内閣府「令和4年度 高齢者の健康に関する調査(調査の目的及び方法等)」
https://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/r04/zentai/pdf/1.pdf
介護費用はいくらかかる?
ちなみに、介護費用はいくらかかるのでしょうか?
生命保険文化センターが行った調査では、介護期間は平均61.1カ月(5年1か月)、介護費用のうち、一時費用(住宅改造や介護用ベッドの購入など一時的にかかった費用)は平均74万円、月々の費用は1か月当たり平均で8.3万円、単純に以下のように計算すると、1人当たり約580万円が必要になります。
■介護費用=一時費用+毎月の介護費用×介護期間
なお、介護期間10年以上が17.6%と前回調査に比べて増えており、長期化すれば介護費用のさらなる増加につながります。
また、在宅介護か施設介護かによっても介護費用は異なっており、在宅の平均4.8万円、施設の場合は平均12.2万円と在宅に比べ高くなっています。
※参考/2021(令和3)年度生命保険に関する全国実態調査/生命保険文化センター
https://www.jili.or.jp/files/research/zenkokujittai/pdf/r3/2021honshi_all.pdf
老人ホームの費用が払えない問題【まとめ】
調査結果からもわかるように、自分の介護費用は年金や預貯金でまかないたいと思っていても、長期化すればそれが難しいこともあります。また、有老など民間の介護施設は、利用料が高額のこともあり、年金だけで支払い続けることが難しい事例も。
有老の支払いが難しくなったときの対処法としては、有老を退去して支払える範囲の施設に転居する方法があります。
例えば、有老から比較的安価な特養へ転居することで、毎月の費用を減らすのも一案です。
ただし、特養は人気があり、地域によっては、すぐに入所できるとは限りませんので、早めに情報収集をして、複数の施設に申込みを行なったり、地域を拡大して探したりする必要があるでしょう。
なお、特養に入所するまで待ち期間が長い場合は、子どもの支援もある程度必要かもしれません。また、有老の退去時に、入居一時金を支払っている人は、返金があるのか否かをしっかりと施設に確認しておきましょう。
今後、介護費用の自己負担は増加していくことが予想され、マネープラン等を作成するなど「見える化」することが重要ではないでしょうか。
※記事中では、相談実例をもとに一部設定を変更しています。
執筆
河村修一さん/ファイナンシャルプランナー・行政書士
CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、行政書士、認知症サポーター。兵庫県立神戸商科大学卒業後、複数の保険会社に勤務。親の遠距離介護の経験をいかし、2011年に介護者専門の事務所を設立。2018年東京・杉並区に「カワムラ行政書士事務所」を開業し、介護から相続手続きまでワンストップで対応。多くのメディアや講演会などで活躍する。https://www.kawamura-fp.com/
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