お見舞いに行くと、ニコニコ穏やかな父。救急車に助けられたけど、今後はどうする?【実家は老々介護中 Vol.24】
80才になる父は、がん・認知症・統合失調症と診断され、母が在宅介護をしています。美容ライターの私は、たまに実家を手伝っています。緊急入院した父を見舞うと、一緒に行った母のほうが元気を取り戻しました。一心同体の父母は、今後最期まで家で過ごせるのか? とりあえず父が入院している間に、母は歯医者と整骨院へ行き、髪も切りに行かなくては。やることはたくさんあります。
入院してホッと胸をなでおろす
「コロナ陰性でした。面会できますよ」
父が入院した翌朝、病院から連絡を受けると、母は猛スピードで洗面用具やティッシュなどの入院セットを作り、着替えて髪をとかすと、ソワソワし始めました。
私も母もあまり寝てないので、運転はやめてタクシーで行くことに。その予約電話をしている最中に、母が「タクシーを待たせたら悪いから、先に行くね!」と飛び出して行ってしまい。「ちょっと待ってよ!」と慌てて追いかけると、母はのどかな国道の先をじーっと見つめて、今か今かとタクシーを待っていました。
「やだ、お母さん、忠犬ナントカみたい」。50年夫婦でいると、一心同体、体の半分が持って行かれたように思っているのかな。
病院に着くと、父は目をぱっちり開けて、穏やかな表情でした。点滴につながれていましたが、呼吸器はつけておらず、「来たよー」と顔を覗き込むと、ウンウンとうなずく。
「コロナじゃなくて良かったよねえ」「すっ飛んで来ちゃったわよ」「夜は寝られたの?」
母がひとりでしゃべり、父は適当にうなずいていました。2〜3週間入院したら、また家に戻れるというので、ふたりともホッとした様子です。
「元気になるまで待ってるからね。お母さんも、家でちゃんとごはん食べてるし、これから白髪を染めてきれいにして、ちょくちょくお父さんのお見舞いに来るってさ」
少しふざけてみせると、父はまたニコニコ。熱でだるいらしく、話の中身はそんなに聞いてないと思いますが。
そして数日後、また母とお見舞いに行くと「ああ、来たの」とすまして話せるようになり、ご飯もしっかり食べていました。ああ、良かった!
それにしても母がなかなかのボサボサ髪です。この機会にって言うのもアレですが、父が入院しているうちに、母は歯の健診や腰痛の治療など、後回しにしていた用事を片付けています。髪も切らなくては。
「お母さん、髪切りに行けば?」
「うーん、面倒くさくて。時間かかると疲れるのよ。美容院だけで出かけるの、お父さんに悪いしさ」。
うん、それもわかる。だけど“自分だけ楽しい思いをするのはお父さんに悪い”、という気持ちは、以前、「10年介護している間に通り越してる」って言ってたことがあるから、今の母の心境は面倒臭いのと、気持ちに余裕がないということかなと思います。
「家に帰ってもひとりで落ち着かないんでしょ。切りに行こうよ。近くに1000円カットがあるじゃない」
大型スーパーに1000円カットが入っていて、以前から「気になるよね」と言っていたのです。行けるときに行ってしまおう! 母を引っ張って入ってみました。すごく簡単な店構えですが、シャンプー無し・ブロー無しだから10分で切り終わって便利!
担当してくれた美容師さんは、ご自身も親御さんの介護をしていて、自分の都合の良い時間だけ働けるからここはありがたいのだそう。良い美容師さんに当たったのかもですが、とても上手でした。
しかも、隣にカラー専門店が併設されていて、根本の白髪染めだけなら1980円で1時間弱だそう。この流れで入ってみると、自動シャンプーマシンが髪を洗い、最後のドライヤーは自分でやるシステム。私がスーパーでお買い物をして、戻ってきたら母が若々しくなっていました!
この日、実は母に聞きたいことがありました。「できれば、最期まで家にいたい」と言ってたのはどうなったのか、ということ。
これは、聞く前に母が口火を切りました。
「お医者さんが、救急車呼んでしまったほうがいいんじゃないかって言うんで、呼んでいいんだね? ってお父さんの目を見たら、いいって言うからそうしたんだけどね」
すごい。もはや、アイコンタクトで会話できるんだ。
「うん、肺炎は治せるから、これで良かったよね」。肺炎で逝くのは嫌だってことだね。
もし、また家に戻って来られて、ガンのほうが悪化したとき、救急車を呼ばないでいられるのかな。そんな勇気あるだろうか?
救急車を呼んだら家で看取りはできないけど、呼ばないのは母の負担が大きい。私が一緒にいるときだとしても、私が覚悟できるだろうか。どうしよう、無理な気がします…。
文/タレイカ
都心で夫、子どもと暮らすアラフィフ美容ライター。がん、認知症、統合失調症を患う父(80才)を母が老々在宅介護中のため、実家にたびたび手伝いに帰っている。
イラスト/富圭愛