難聴を遠ざけて「聞こえやすい耳」を手に入れるための3つのトレーニング【医師解説】
聴力は加齢とともに衰えていくもの、と思っていませんか。呼吸法や速聴トレーニングなどで、難聴を遠ざける可能性があるんです。聞こえの専門家がおすすめする方法を紹介します。また、通販などでよく見る補聴器の使用には注意が必要だという。補聴器選びのコツやそれ以外の方法などの情報を教えてもらいました。
ペットボトル呼吸で難聴を遠ざける
正しい呼吸法を習慣づけて、全身に酸素を送り届けることも難聴を遠ざける。目と耳の治療院『日本リバース』院長で整体師の今野清志さんはこう言う。
「体内の酸素が不足していると、血流や脳の神経などに負担がかかり、音や声が聞き取りにくくなる。体全体に酸素を取り込むことができる腹式呼吸を習慣づけてください」(今野さん・以下同)
呼吸を整えるために今野さんが推奨するのは、「ペットボトル呼吸」だ。
まずは、500mlのペットボトルを用意し、底に千枚通しなどで直径1.5~2mm程度の穴を3 つ開ける。ボトルの口をくわえ、鼻から深く息を吸い込んでから、6秒以上かけて、ゆっくり口から息を吐く。
「取り組むうちに呼吸機能は次第にアップしていくので、楽にできるようになったら、さらに時間をかけて息を吐いたり、穴を1つ指でふさいで吐いたりするといい。ただし、頭がくらくらするようなら酸欠の危険があるので、すぐにやめること。腹式呼吸を身につけただけで、聞こえづらさが解消し、テレビの音量を下げることができたと話す患者は少なくありません」
●聴覚をクリアにする「ペットボトル呼吸」
底に穴を3つ開けたペットボトルの口をくわえて鼻から深く息を吸い込み、6秒以上かけてゆっくり口から息を吐く。
1.5倍速の速聴で耳トレ
筋肉と同様、耳も鍛えれば強くなる。川越耳科学クリニック院長の坂田英明さんが推奨するのは“耳トレ”だ。
「いちばんのおすすめは、速聴トレーニングです。好きな曲、録音したラジオなど何でもいいので、言葉が入っているものを1.5倍速で集中して聴いてみてください。テンポの速い会話を聞き取る訓練をすると、通常の会話の速度がゆっくりに聞こえるようになります。井戸端会議も耳にいい。1対1ではなく、3~4人のグループで、“聴く” “考える” “話す” を行うと、脳が刺激されます。メンバーに関西弁など方言を使う人がいれば抑揚がつき、さらに気をつけて聴くことになるので、なおいいです」(坂田さん)
お気に入りのアナウンサーの声を聴く
今野さんは「毎日、お気に入りのアナウンサーの声を集中して聴くことから始めてほしい」と話す。
「お天気コーナーなど5分程度で終わるものを、集中して一生懸命聴くとトレーニングになる。ただ聞き流していても効果はありません。聞こえるようになってきたら、少しずつ音を小さくしてみてください」(今野さん・以下同)
「耳トレ」とともに、耳そのものに働きかければ血流アップで相乗効果が見込める。
「親指と人差し指で耳を握って、さするだけでいい。1分間以上続けると、毛細血管の血流が安定するので、聴神経の働きも活発化します」
医師の診断を受け、適切な対応をすることでQOLが上がる。
通販で補聴器を買ってはいけない理由
加齢とともに補聴器デビューを果たす人もいるだろう。しかし、80代の山下加代子さん(仮名)は効果がなかったと嘆息する。
「耳が聞こえづらくなったと相談したら、息子が通販で補聴器を頼んでくれて、助かったと思ったのもつかの間、使ってもぜんぜん聞こえがよくならない。結局、何をしても聴力は戻らないのか、と思って落ち込んだし、ますます外出がおっくうになりました」
山下さんのように、市販のものを使う人も少なくないが、田渕さんは「自分に合った補聴器を作らなければ、意味がない」と話す。
「家族が買ってきたものをつけているという人も多いが、補聴器は個人の症状に合わせて作るもの。度数が合わないメガネでは見えないのと同様、補聴器も病院に行って合ったものをつけなければ、意味がありません」(田渕さん)
坂田さんによれば、通販で売られているものは、厳密にはほとんどが「補聴器でない」という。
「通販で手軽に買える安価なものは、ほとんどが『集音器』です。聞こえる声や音のボリュームを単純に大きくすることにとどまるため聴覚がクリアにならないどころか、すでに聞こえる音まで大音量で耳に流れ、耳に負担がかかってかえって難聴を悪化させてしまうこともあります」(坂田さん)
補聴器が認知機能の低下を防ぐ可能性が
一方で補聴器にはポケット型、耳かけ型、耳穴型のタイプがあり、値段の幅も数万円から数十万円と幅広い。標準性能のものでも十数万円する器具もある。
「たしかに値段は高いですが、安価だが耳に合わないものをつけるよりは、医師との相談のもと、しっかり選んだものをつけるほうが認知機能の低下も防げる可能性があり、長期的にみれば得だといえる。一般的には、高度の難聴であれば耳かけ型が、軽度の場合は耳穴型が選ばれる傾向があります」(田渕さん)
大切なのは、「難聴の疑いがあればすぐに病院に行く」ことだ。田渕さんが言う。
「検査をして、難聴の原因が加齢現象だとわかれば、その人に合った補聴器を作ることができます。そもそも日本はヨーロッパなど諸外国に比べて聴力検査を受ける人が少なく、補聴器の着用率も低い。がんなど、内科の病気はしっかり検査を受けても耳の不調は放置している人が非常に多いのです。しかし聞こえにくい状態を放置すれば友人と会ったり遊びに行ったりする頻度も減り、QOLが著しく下がります。『聞こえづらくなっている』ということを認識し、しっかり対処することは必ず全身の健康につながるため、早めに病院に足を運んでほしい」
人工内耳手術を受ける選択肢も
補聴器でも改善されなければ、「人工内耳手術を受ける」選択肢もある。
「耳の中に『蝸牛』の仕事を代行する人工内耳の機械を埋め込む治療法です。耳の後ろを切開して骨を削り、体の中に機械を埋め込むという手順で行います。全身麻酔の手術になり、病院によって差はありますが、片側1~3時間程度です。加齢が原因の慢性的な難聴である場合は、薬だけで治ることはほとんどありません。補聴器や人工内耳で対処することが治療のメインになるため、いかに早く病院にかかり、相性のいい医師を見つけられるかが、難聴を遠ざける大きなカギになります」(田渕さん・以下同)
病院はどう選べばいいのか。
「基本的に耳鼻科であれば難聴を診療することはできるため、通いやすい場所にある病院がいちばんです。補聴器を作ったり手術を受けたりと、一度で通院が終わることはまずないため遠い病院は避けるべきです。また、ひとつの目安は『難聴』を専門に掲げている病院であること。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会の補聴器相談医に認定されている医師も、技術認定を受けているので信頼できます」
加齢だからとあきらめず、「聞こえやすい耳」を手に入れよう。
イラスト/飛鳥幸子
※女性セブン2023年6月22日号
https://josei7.com/
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