「補聴器をうっかり落としてしまった!」メーカーの紛失保証制度拡大の動き もしもに備える対策を解説【専門家が教える難聴対策Vol.24】
もしも補聴器をなくしてしまったら? 知らないうちに落としてしまうかもしれない…。決して安くはない補聴器だけに、紛失の不安を感じている人もいるのではないだろうか。補聴器の紛失に関する注意ポイントや対策について、認定補聴器技能者の田中智子さんに教えてもらった。
教えてくれた人
認定補聴器技能者・田中智子さん
うぐいす補聴器代表。大手補聴器メーカー在籍中に経営学修士(MBA)を取得。訪問診療を行うクリニックの事務長を務めた後、主要メーカーの補聴器を試せる補聴器専門店・うぐいす補聴器を開業。講演会や執筆なども手がける。https://uguisu.co.jp/
補聴器「うっかり落とした」「なくした」を防ぐための対策
「ポケットに入れたまま忘れて、失くしたかも!とヒヤッとした」
「お風呂に入るときに外して、バスタオルの上に置いていたら、お風呂から上がった後に忘れてバスタオルで体を拭いてしまい、補聴器が洗濯機の下に転がってしまっていた」
「補聴器をつけたまま軽い運動をして気が付いたら、耳から外れてなくなっていた」
補聴器をご使用中のかた、そんな経験はありませんか? 聞こえにくくなってきたので、そろそろ補聴器を購入したいけど、高価なものを落としてしまうのではないか、しっかり管理できるだろうか。そんな不安を感じている人もいらっしゃるかもしれません。
近年、補聴器は技術の進歩によって高機能化・小型化が進み、快適に装着できるようになりました。周囲の人が気づかないほど目立たない、本人は付けていることを忘れてしまうこともあるほど。そんな快適さの一方で、小さすぎるゆえに、なくしたり、落としたりといった「紛失」の事例も増えています。
実際にご来店されるお客様の中にも、「補聴器をうっかり紛失してしまった」というかたは少なからずいらっしゃいます。
特にコロナ禍以降は、マスクの紐に引っかかって補聴器が取れてしまうという声は多く、紛失のリスクは高まっているかもしれません。また、高齢のかたは眼鏡を着用していることも多く、眼鏡の取り外しのときに補聴器も落としてしまうことがあるようです。
8割は購入後3か月以内に紛失
補聴器を使っていると、「つけていることを忘れる」と喜ばれるお客様は確かに多いのですが、その一方でなくしてしまうリスクもあります。決して安いものではないので、なるべく紛失しないよう大切に長く使いたいものですが、そうした不安に備え、「紛失保証」をつけておくという手があります。
補聴器の購入時、機種や価格によりますが、故障時の修理などの「品質保証」のほか、落としたりなくしてしまったりしたときの「紛失保証」をつけられる場合があります。保証は期間が長いほど価格も上がります。
購入後3か月以内が危ない?
当社で補聴器をご購入されたお客様の中で、補聴器を紛失されてしまったかたの約8割が、「購入後3か月以内」に紛失されています。
つまり補聴器をなくしやすいのは「補聴器を着け始めのころ」。装着に不慣れなうちは、うっかり落としやすいというわけです。
もしも補聴器を購入されて間もない場合、最初の3か月間は習慣化に必要な期間なので、できるだけ毎日装着してほしいと思います。慣れてくると落としたり、外れてしまったりすることが減ってきます。こうしたことから、紛失保証の期間は3か月程度がひとつの目安になると思います。
「紛失保証制度」拡大の動き
最近では「紛失保証制度」を新たに設けたり、保証の幅を拡大したりするメーカーも増えてきています。
これまで補聴器の紛失保証は、各メーカーの片耳50万円を超えるような上位機種に限られているケースが主流でした。しかし2025年1月から、補聴器の世界シェアNo.1を誇るグローバル企業のフォナックは、比較的手頃な価格帯である「エッセンシャルクラス」(10万円台後半)にも、1年間の紛失保証を適用し、より多くのかたが安心して補聴器を使える仕組みを整えました。
また、同じく高い世界シェアをもつオーティコンでも、今月(7日注文分)から「エッセンシャルクラス」を含む対象製品を紛失した場合、各条件に基づき新品もしくは同等製品を無償で提供する製品紛失保障サービスが開始されています。
業界をリードするこれらのブランドがこうしたサービスを導入したことは、非常に意義深く、業界にとって大きな転換点となる可能性があります。
紛失保証があるメーカーの一例
■フォナック
紛失・盗難・全損(修理不能)時に、同一器種または同等クラスの補聴器を100%保証。クラスにより保証期間は異なり、スタンダードクラスでも1年間、上位クラスでは最長2年間の保証が付帯されます。
https://www.kikoeblog.jp/?p=16136
■スターキー
クラスに応じて最長2年間の保証があり、10万円台の耳穴型補聴器でも120日間の紛失保証を付帯。さらに、片耳2万円で1年間の延長保証に加入することも可能です。
https://www.starkeyjp.com/pressrelease/2023/03/anshin-maintanance-pack
■リサウンド
業界で最も早く紛失保証を導入したメーカーのひとつ。紛失または過失による損傷の際、無償での同等品交換または修理対応を実施。保証年数と回数はクラスにより異なり、プレミアムクラス:2年間で2回、ハイグレードクラス:2年間で1回、スタンダード/ベーシッククラス:1年間で1回となります。
https://resoundjp.com/wisdom/%e3%83%97%e3%83%ac%e3%83%9f%e3%82%a2%e3%83%a0%e4%bf%9d%e8%a8%bc/
■シグニア
プレミアム/アドバンスクラス:2年間で1回の紛失保証。スタンダードクラス:1年間で1回の紛失保証。いずれも1回に限り無料で対応されます(一部、紛失補償対象外のモデル有)。
https://signia-otameshi.jp/blog/37/
■オーティコン
紛失保証については各条件に基づき新品もしくは同等製品を無償で提供します。(プレミアム・アドバンスクラスは購入日より2年、上記以外のクラスは購入日より1年)さらに、火災または盗難による場合は、すべての補聴器に対して1年間の再交付対応があります。
https://www.oticon.co.jp/hearing-aid-users/support/information/warranty
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まだ各メーカーにより価格と保証期間にバラつきがあるため、なかなか購入者が自分で判断することは難しいといえます。もしも紛失の不安がある場合、補聴器販売店にしっかりと伝えて相談しましょう。きっと自分に合った保証内容の付いた、予算内の補聴器を提案してくれると思いますよ。
紛失を防ぐために注意すべきこと
なくした人の声としてよく聞かれるのが、「耳につけていることを忘れて、マスクを外したタイミングで落としたようで、気が付いたらなかった」というもの。
「ちょっと外したけど、どこに置いたか分からなくなった」というかたも結構多いんです。この場合、「その日着ていた服のポケットから1週間後に見つかった」ということも。まずは落ち着いて探してみることも大切です。
このほか、注意が必要なのは、補聴器を外すたびに置く場所が毎回違っていて、定位置が決まっていないケースです。
病院や旅行先など自宅以外の場所はもちろん、自宅であっても「少し耳がかゆい」「マスクをつけ直す」「化粧をする」など、ちょっとしたタイミングで外してしまうことがあります。こうしたふとした行動の中で、置き場所が曖昧だと紛失や破損の原因になりかねません。
ご自宅で外す際には、あらかじめ決めた場所に保管する習慣をつけておくと安心です。アクセサリーケースなどを活用する方法もありますよ。
そもそも補聴器の使い方に問題があるケースも考えられます。たとえば、話をするときだけ装着しているとか、1日に何度も着けたり外したりを繰り返していると、紛失のリスクは高まります。
朝装着したら入浴の前までは外さない、外したら部屋の一定の場所に置く習慣をつけるなど、一定の生活習慣を保ちたいものです。
また、機種によってはスマホなどと連携して落とした場所をGPSで知らせる機能があるタイプも登場しています。

補聴器の紛失保証が充実してきています。 なくしてしまう不安を感じている場合は購入時に検討してみてくださいね
取材・文/立花加久 イラスト/奥川りな