ドラマ『日曜の夜ぐらいは…』8話を考察。いやな過去をやっつけよう「毎日楽しいなって思えることが一番の復讐」
3人(清野菜名、岸井ゆきの、生見愛瑠)の宝くじの当選金を元手にしたカフェ「サンデイズ」の開店準備が軌道に乗り始めますが、ひとりだけ多忙でなかなか準備に参加できないサチは、そのお詫びと全員へのメッセージを若葉に託します。仲間たちへの思いやりあふれる言葉が感動的だった8話を、ライター・近藤正高さんが『日曜の夜ぐらいは…』(テレビ朝日系 日曜よる10時〜)を振り返ります。
サチの言葉に泣かされた
『日曜の夜ぐらいは…』第8話は前半からクライマックスのような展開であった。カフェ「サンデイズ」の開店準備が軌道に乗り始めた矢先、サチ(清野菜名)は、バイト先のファミレスで急遽人手が足りなくなり、フルシフトで勤務せねばならなくなる。その間、サンデイズのほうはほかの3人……翔子(岸井ゆきの)・若葉(生見愛瑠)・みね(岡山天音)に任せることに。
そんななか、サチは夜に若葉を呼び出して、みんなへの伝言を頼む。それは彼女から店の準備にしばらくかかわれないことへのお詫びとともに、それぞれに頼みたいことを託したものであった。
こうしてサチの家にみんなが集められ、本人不在のなか、若葉によって一人ひとりにメッセージが伝えられる。若葉の祖母・富士子(宮本信子)には、かつて自分の家を建てるにあたりインテリアや設計を学んだ経験から、ぜひアドバイスをお願いしたいと頼んだ。翔子には、最近家族のことか何かで抱えているものがあると察したうえ、いますぐ引っ越してきてみんなと一緒にいるようにと呼びかける。
他方、サチから母親の邦子(和久井映見)へのお願いは、カフェのメニューとしてカレーを出したいので準備しておいてほしいという1点のみだったが、ほかのみんなに対し、どんどん邦子を利用してほしいと頼んだ。それは、脚の不自由な邦子に対するサチのはからいであると同時に、それぞれの理由から実の母親と生きられない翔子・若葉・みねに、邦子を代わりに頼ってほしいという思いやりでもあった。「お母さんはあそこから動けないけど、それは言い方を変えれば、そこにいつでもいてくれるってことだから」というサチの言葉には泣かされた。
さらにサチは、みね君にみんなあなたが大好きだと伝え、あなたは何かを頼めば全力でそうしようとしてくれちゃうだろうからあえて頼み事はしないが、一つだけ「いなくならないで」とお願いする。それとあわせて彼にも引っ越しを勧めるのだった。そして若葉には、これまで想像のつかないぐらいしんどい思いをしてきたはずだと慮ったうえ、でもだからこそ私たちは出会えたのだと考えるようにしようと言って、「毎日楽しいなって思えることが一番の復讐」だと一緒にいやな過去をやっつけていこうと約束を交わす。
サチの仲間たちを思いやりあふれる言葉に、みんなすっかり感動してしまう。邦子はそんな娘について、誇らしげに「強い子なんですよ、サチ」と言って、彼女が昔、駅伝でアンカーを務め、チームが8位だったところから一気に7人抜いて優勝した思い出を語った。サチも、邦子がその話をすることはあらかじめお見通しであった。そしてあのときを思い出せばきっとこれからも大丈夫だと、「任せて」と若葉を前に胸を叩くのだった。
第8話放送と同日には、本作の脚本家・岡田惠和がパーソナリティを務めるNHK-FMの番組『岡田惠和 今宵、ロックバーで』に、サチを演じる清野菜名がゲスト出演した。そこで彼女が、子供のころから運動では絶対に誰にも負けたくないと思い、マラソン大会で1位になったりしてきたと語っていたのが、今回のサチの駅伝7人抜きのエピソードと重なった。案外、岡田は事前に清野からこの話を聞いていて、脚本に反映させたのかもしれない。
それにしても、今回、清野演じるサチの仲間に対する思いやりあふれるリーダーぶりには惚れ惚れとした。仲間への温かい言葉も、日頃からみんなをちゃんと見ていないことにはあそこまで気づけないだろう。その姿勢はまさにリーダーにふさわしい。
サチのメッセージが若葉を介してみんなに伝えられたその日より、邦子のことはしばらく富士子が見てくれることになり、さっそく若葉の家でサチと翔子と3人での共同生活が始まった。その夜遅くにサチが帰るとすでにお風呂が沸いており、若葉に「お風呂あがって3人でゴロゴロだらだらしゃべりながら気づいたら眠ってしまっていたという幸せはいかがですか」と勧められる。
だが、しゃべる間もなく、サチは布団に横になるとすぐに寝入ってしまった。すると「いらっしゃいませ」と寝言。きっとバイトの夢を見ているのだろうと思いきや、サチが続けて「サンデイズへようこそ」と言うので、ほかの二人はうれしくなって「私も同じ夢を見よう」とそれぞれ布団に潜り込んだ。
パンダ像がいつにも増して登場
今回は、団地の公園に置かれたパンダ像がいつにも増して登場した。サチが若葉にメッセージを託したときにも傍らにパンダがいたし、みね君はパンダの前を通りかかったとき、垂れ目に親近感を覚えたのか思わずしげしげと見つめていた。それ以外にも場面と場面をつなぐアイキャッチ的な形でたびたびパンダが現れた。
思えば、サチはみんなと出会う前から、毎朝、出勤時にその前を自転車で通りかかるたび、パンダに向かってそれと同じく右手を挙げて挨拶をしてきた。翔子と若葉と買った宝くじに当たった際も、3人で山分けするという約束を思い出したのは、パンダと向き合って考えていたときだった。
このパンダと似た存在として思い出されるのが、本作と同じく岡田惠和の脚本によるドラマ『ひよっこ』の劇中、商店街の薬局前に置かれていたインコの人形だ。製薬会社のマスコットキャラと思われるこのインコは、ヒロインをはじめ近所の人たちから「イチコ」と呼ばれ、愛されながらも、ときに頭をはたかれたりサンドバッグ代わりになることもあった。もちろん、そんなことをされてもイチコは何も言わない。むしろ物を言わない存在だからこそ、登場人物たちが自分の気持ちを素直に投影できる役目を担っていたのだろう。それにしてもなぜ、今回その役を担うのがパンダなのか。清野菜名が他局のドラマで「ミスパンダ」というヒロインを演じていたことにもちなんでいるのだろうか……。
若葉の母とサチの父
さて、前回、若葉の母親(矢田亜希子)が、娘と母(富士子)の引っ越し先を近所の幸田(さちだ)さん(生田智子)に訊いたところ、相手があっさり「知ってますよ」と答えたときには冷や冷やさせられた。しかし、じつはそれは富士子の仕掛けた罠だった。
富士子は引っ越し前、幸田さんに新居の住所を書いたメモを渡すとともに、もし今後、自分を訪ねて女性が来たら住所を教えてやってほしいと頼んでいたのである。しかし、一瞬映ったメモには東京ではなく茨城県とあった。それを頼りに若葉の母がたどり着いた先は、何と、海岸の掘っ立て小屋。彼女はその小屋の扉を開けようとしたところ、アカンベーをした顔の描かれた木の札が目の前に飛び込んできて、富士子にしてやられたとようやく気づくのだった。
こうして富士子が幸田さんの協力を得て仕掛けた作戦は大成功に終わる。若葉が貯めた92万円を奪われたことへの仕返しとしてはまだ生ぬるい気もするが、ともあれ、富士子は若葉を母親の再襲来から守ったのである。
襲来といえばこの人、サチの父(尾美としのり)はきょうもファミレスの店長(橋本じゅん)にたかって中華料理屋で食事にありついていた。このときもしつこくサチのシフト状況を訊ねた父だが、それに対し店長はしばし考えると、彼女はいまもシフトいっぱいで働いているとウソをつく。ここで正直に、サチはシフトをほとんど入れなくなって景気がよさそうだと伝えれば、このダメ親父はまた娘にカネをせびるに違いないとの判断からであった。ファミレスのピンチに際し、大いに助けてくれたサチへの店長のせめてもの恩返しだろう。
そう、このときにはすでにファミレスは店員も補充されつつあり、ピンチを脱していた。サチもバイトを途中で抜け、サンデイズの開店準備のため、店舗予定地の古民家での打ち合わせに出るぐらいには余裕を取り戻す。このとき、邦子と富士子も初めて打ち合わせに参加、カフェプロデューサーの賢太(川村壱馬)とも初めて会う。富士子はさっそく賢太に近づくと、あれこれと質問を始めた。邦子は店で出すカレーの名前を「邦子カレー」にすると決める。
そろってラジオ番組に耳を傾ける
後日、サチは翔子・若葉・みねと連れ立って店をまわり、食器とエプロンをワイワイ言いながら選んだ。エプロンは男女同じデザインのものと決め、みね君をモデルにあれこれ試着させながら、ようやくこれぞと思うものを見つける。
その後も彼女たちは、家で長い名前のメニューを考えたり、カフェ研修を受けたりと着実に準備を進めていった。研修ではラテアートを学ぶも、翔子だけなかなかうまくいかない。だが、それを見たみね君が、翔子のだけ何を描いたのかお客さんに当ててもらうのはどうかとアイデアを出し、賢太を含むほかの面々も賛成する。個人の苦手なこともそうやってみんなでカバーし合うチームワークがすてきだ。
そんなふうに準備を進めるなか、また日曜日が巡ってくる。夕方、団地の邦子と富士子も、古民家に集まったサチたちも、そろってエレキコミックのラジオ番組に耳を傾ける。いままでそれぞれにバラバラで聴いていた番組を、こうしてみんなで聴いているのも、ほかならぬこの番組が生んだ縁だと思うと、登場人物の誰もが不思議な気がしたことだろう。
そこへ、エレキコミックの二人からみね君からのメールが読まれ、一緒に送られてきたという音声ファイルが流される。てっきりサンデイズの前宣伝かと思ったら、富士子と“ミネ・フジコ”という漫才コンビを組んだというお知らせだったのにはずっこけた。それでもエレキの二人は、みね君が何だか幸せそうだと安心した様子。サンデイズ開店の折にはぜひ、ミネ・フジコを呼び水に番組リスナーたちも店に集ってくれることを祈りたい。
文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)
ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。
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