「見せかけの友人なんていりません」下重暁子さんが提案する新時代の生き方
──「SNS断ち」「つながらない生き方」など、そうしたループから抜け出そうと思いつつ、“つながっていないと不安”“友達がいないとさみしい”という人も多くいます。
「そうですね。つながりから解放されて、ひとりで気楽に過ごしたいと思うのに、なんとなくママ友グループなどに参加している人が多いとか。“仲間はずれにされたくない”“もしかしたら何か悪口を言われているかもしれない”という気持ちからかもしれませんが、それは単なる強迫観念、思い込みです。
全員と、誰とでも仲よくするなんて、そんな必要はありません。そんなことは不可能。友達がいないんじゃないかという目で見られようが、陰で何か言われようが、気にしないこと。それだけです。気にしなければそのうちパタリと誰も何も言わなくなります」
──友達がいないと思われたくない、という気持ちもあります。
「見せかけの友人が何人、何十人いることで本当に充実した時間が持てるでしょうか。“友達が少ない人”という自分になんの引け目を感じることはありませんし、むしろ誇りに思ってもいいくらいです。つながりが増えるほどにストレスを感じるよりもよっぽど健やかに生きることができますよ。つきあいが悪い、社交的じゃない、変わり者だ──私も何度となくそう言われてきましたが、気にせずに過ごしていたら、今ではもう“そういう人だ”と受け入れてもらえました」
──孤独であることは「愉しさ」でもあり、「必要」だとも説かれています。
「孤独の愉しさは自由であること、そして自分自身と向き合えることです。自分自身と向き合うことは、自分の感情と向き合うということ。これが人生にはとても必要なことだと思っています。
かつて、親しくしていた男性と鎌倉に出かけたことがあったんです。あじさいが見頃の時期でした。寺社で参拝を終えると、彼は階段を先に下りてしまった。そのとき、満開のあじさいがわぁっといっせいに彼の方を向いたように見えたんです。現実にはあるわけないのに、不思議ですよね。それで私は直観的に “彼は以前に、別の女性と来たんだな”と思った。
そこで、なぜそう思ったのか、なぜあじさいの花がそんなふうに見えたのかと気持ちを掘り下げていきました。すると、嫉妬だな、と。あまり持ちたくない感情ではあるけれど、掘り下げることで、私も嫉妬する人間なんだと知ることができたんです。
嫉妬という感情がわかれば、鎮め方もわかってくるし、他人から向けられる嫉妬心もよく理解できるでしょう。どんな人にも妬みや嫉みという感情があり、悪口や陰口、噂話はたいていその感情から生まれます。悪口って楽しいですよね、それもわかります(笑い)。私にもそういう気持ちはあるんです。自分の中にある喜怒哀楽、醜い感情などに向き合い、認めることで、他人の感情も理解できる。自分を知ることは、他人を知ることになる。孤独の必要性はそこにあります」
噂話や他人のことばかり気になるのは“個”を見失っているから
──孤独な時間を持たず、自分のことがよくわからないことで不都合はありますか。
「最近は、自分の頭で物事を判断せず、多数意見に流される風潮がありますね。SNSもその要因のひとつではあるでしょう。“みんながするならそうしよう”と流されがちなのが日本人の悪いところ。考えないクセがつくと、人のことばかりが気になって、噂話や悪口が増えてしまう。多数の中に“個”が埋没し、自分が何をしたいのかも忘れてしまいます。大切なのは、自分で考え、判断して決めること。そんな“個”を育てるための時間は、孤独の中にしかありません。
その時間を大切に、そして充実させることで“自分”という唯一無二の存在が愛おしくなってきます。他人と比べて落ち込んだり、他人から攻撃されてイヤな思いをしても、“自分は自分”と立ち直ることができる。ストレスをためずにすむ。自分を育て、自分に期待し、自分を信じ、愛してほしい。孤独は“自分”をもたらしてくれる代えがたいものなのです」
──アラフォー、アラフィフ、アラ還と節目を重ね、人生の終わりが見えてきたとき、人は終活や断捨離など、生き方をサイズダウンさせたいと考えます。友達をどう減らせばいいのでしょう。
「そうはいっても、これまでつきあってきた人たちに対して唐突に“もうつきあいはやめる”なんて、線を引く必要はありません。はっきり言わなくてもいいことを口にして、いらぬトラブルを招く必要はありませんから(笑い)。口実を作って誘いを断りながら、ゆるやかに、なんとなく疎遠になっていけばいいんです。
また、なんでもかんでもサイズダウンすればいいというわけでもありません。年をとるとなかなか新しい友達もできないし、なんていう人もいますが、例えば年の離れた若い友人は新しい発見や考え方をもたらしてくれる大事な存在です。自分のしたいこと、波長が合う人や環境を見定め、老若男女を問わず、新しい友達ができたらそれはとても素晴らしいことですよ。
ストレスを抱える人間関係に時間を費やすのではなく、自分を大事にできる人間関係を構築することです。そのために“孤独”を愉しみ、かけがえのないひとりの時間を堪能してください。きっとその時間が、残りの人生を満ちたりたものにしてくれます」
※女性セブン2019年1月3・10日号
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