50を過ぎたら小さく暮らす|捨てていいモノ、悪いモノを見極める4つのルール
あなたは今、どんな家に住んでいますか? 住人のいない子供部屋には、思い出の品がぎっしり、リビングには小物がひしめき合い、クローゼットもギュウギュウ。たまった新聞や本は床に積み重ねられて…。もし、そんな家で暮らしているとしたら、身動きがとりづらくなる老後、大変なことに。今から小さく暮らすための準備を始めてみませんか?
小さな暮らしが身を守ってくれる
生活経済評論家の沖幸子さんは、50才を過ぎたら暮らしを小さくするべきだと語る。
「年を重ねていくにつれ、経済面でも物理面でも、管理できる範囲は狭まっていきます。例えば、年金生活に入ると収入が減りますから、買い物や遊びをセーブせざるを得ません。肉体面でも、2階に上がって掃除をするのが億劫になったり…。老後も暮らしやすいようにするには、今から身の回りを整理して、管理する範囲を狭めていった方が楽なんです」(沖さん)
具体的には、無駄遣いを見直し、いらないモノを減らす。特にモノは、老後に入る前、体力があるうちに整理した方がいいと、遺品整理の第一人者である内藤久さんは話す。
「地震や火事などの際、上からモノが落下してきたり、床に置いてあるモノに足を取られて逃げ遅れるケースがあります。高齢者の転倒は、外より室内の方が多いんです。そういう点でも、モノは減らした方がいいと思います」(内藤さん)
モノにつまずいて骨折したせいで寝たきりになることもあり得る。では、どう減らしたらよいだろうか?
捨てるべきモノに迷った時は、次の4つのルールを参考にしてみて。ただし、「減らしてはいけないモノ」もあるので、注意して!
ルール1 “3定”を守る
「定番」「定量」「定位置」の“3定”を守れば、モノが増えにくくなるという。
「『定番』とは、いつも買う衣服などのブランドや店を決めること。そうすれば別の店がセールになっていても“決めた店と違うからやめよう”と、買い物欲にブレーキがかかります。そして、『定量』とは所有する量のこと。例えば、衣服の量はクローゼットの7割までと決めておけば、それより多くのモノは買わなくなります。『定位置』とは、モノの場所を決めること。鍵と時計は玄関、などと決めておけば、探す手間も省け、ストレスも減ります」(沖さん)
「定量」に関しては、毎年1回見直すことも大切だ。
「昨年の自分と今の自分では、管理できる能力が違います。例えば、昨年は、スカートは3枚まで、ズボンは2枚までと決めていても、今の自分がスカートよりズボンの方がフィットしているなら、比重を変えればいいんです」(沖さん)
ルール2 1日1個捨てる
すでにある「たんすの肥やし」を減らすにはどうしたらいいか。答えは簡単。「1日1個」を目標に、モノを捨てていけばいい。それは、紙袋でも古い下着でもなんでもいい。
「1日1個モノを捨てる習慣をつけると、1年で365個のモノが減り、家は自然とスッキリします。ただし、捨てるからといって、新たにモノを買ってはダメ。新しいモノを1つ買う時は、2つ処分するモノを考えること。買い物の時の心構えも肝心なんです」(沖さん)
それでもなかなか減らないなら、定年後は捨てるモノの数を1日に2個に増やすなど、処分する量を増やしてみよう。
「どうしても処分できないモノは無理に手放す必要はありませんが、自分の死後は、それらはすべてゴミになることは覚えておきましょう。どんなに大事なモノでも他人から見ればガラクタ。そう思うと、潔く処分できると思いませんか?」(沖さん)
ルール3 モノは引き算、心は足し算
モノは減らせど、心の糧は減らさない方がいいと、沖さんは強調する。
「趣味や生きがいまで減らしたら、老後がわびしくなってしまいます。心の糧になることはどんどんプラスして、豊かな老後を送ってほしいですね。例えば山登りが趣味なら、できるうちに謳歌しておいた方がいいと思います。意外と元気に動き回れる老後の時間は短いものですから」(沖さん)
人間関係も同様だと続ける。一緒にいて居心地のいい友達とは長くつきあって、心の安定は大事にしたい。
「考える習慣も減らしてはダメです。“どこをどうしたら掃除の手間が省けるか”といった思考を蓄積していくことは、暮らしやすさにつながりますから。思考を止めてしまったら、振り込め詐欺やあやしい訪問販売にも引っかかりやすくなってしまうので、要注意です」(沖さん)
ルール4 今の家の生活空間を小さくする
車が不可欠な地方に住んでいる場合、老後の住まいは病院や役所までの距離が近い所に住まいを移すのが、コスパを考えても理想的だ。同様に、都心に住んでいても、掃除や整理が大変な戸建てから、部屋数の少ない駅近マンションに住まいを変えた方が、老後は便利になり、お金もかからないとされる。
しかし、長年住んだ家に愛着があり離れられない人も多いだろうし、まとまったお金を出しづらいのが現実だ。
「無理して引っ越す必要はありません。使う部屋を減らせばいいだけ」と、沖さんは言う。
老後は、すべての部屋を使うのではなく、子供部屋を空けるなど、住む人数が減るたびに使う部屋とその中のモノを減らしていけばいいのだ。食事もダイニングルームを使わず、台所で済ませればいい。使う部屋が減れば、その分掃除の手間も省けて楽になる。
初めの一歩は目につくモノから
いざモノを減らす時、どこから手をつけたらいいか。前出の内藤さんは、「初めの一歩は床から」と提案する。
「床にモノが置いてある場合は、何よりもまず、床から片付けましょう。少しずつモノが減り、床が見えてくると気持ちが明るくなり、他の部屋もやってみよう、クローゼットの中も減らしていこう、とやる気が継続しやすいんです」(内藤さん)
また、3年以上目に入らなかったモノは捨てていいモノ、と思っていいという。そのうち使おうと思いつつ、存在すら忘れていたようなモノは、潔く処分してしまおう。
“所有価値”より“利用価値”を意識
一方で、前出の沖さんは、「モノを捨てる時は、所有価値より利用価値を考えて」と言う。
「“いつか使えるかもしれない”と、持っていること自体に価値を見出すのが所有価値。捨てるべきか迷ったモノに対しては、こういう考えを持たず、“いつ・どこで・どんな時に使えるか。どれだけ利用できるか”という利用価値で判断しましょう」(沖さん)
例えば、数年に1回使うかどうかわからない客用布団や礼服は、貸し布団店や貸衣装店でレンタルできるので、持っている必要はない。車も手放し、カーシェアやレンタカーで済ませられるなら、その方が身軽になり、維持費もかからない。
とはいえ、思い入れのあるモノや、それがあることで気持ちが安定するモノは無理に捨てる必要はないと、沖さんも内藤さんも口を揃える。維持費がかかる車も、好きなら所有することで心が満たされる。その代わり、ほかで削ればいいのだ。
上記のルールはあくまで基本。どうしたら、心豊かに老後を暮らせるか考えつつ、自分の管理能力に応じて、暮らしを小さくしていけばいいのだ。
早速、身辺をチェック!
【小さくするもの】
□衣服
□靴
□かばん
□宝石やアクセサリー
□無駄な保険
□贈り物(お中元やお歳暮など)
□冠婚葬祭費
□国民健康保険の支払い回数
□住宅のリフォーム費
□維持費がかかる大型車
□古い家電
□通信費
□子供や孫への資金援助
□使う部屋
□交際費
□不要な人間関係
□食費
□アルバム
□初孫へのプレゼント
□包装紙や紙袋
【小さくしてはいけないもの】
□生きがい
□最低限の交際費
□居心地のいい友達
□思い出作り
□利便性がよく、愛着のある家
□大事な趣味・習い事
□維持費があまりかからないコンパクトカー
□歯のメンテナンス
□友人知人の連絡帳
□省エネ効果の高い家電
□健康診断
□どうしても手放せないモノ
□食事の栄養バランス
□考える習慣
□休息時間
□心の余裕
イラスト/前田まみ
教えてくれた人
沖幸子さん/生活経済評論家。ANA、洗剤メーカーを経て、ドイツ、イギリス、オランダで生活マーケティングを学び、ハウスクリーニング会社を設立。ベンチャー経営者として活躍する一方、「掃除界のカリスマ」と呼ばれ、暮らしが楽しくなる「沖マジック」が話題に。雑誌・テレビ・講演など多方面で活躍。ナチュラルに歳を重ねるファッションリーダーとしても憧れと共感を呼んでいる。
※女性セブン2018年9月27日号