病気になって性格が変わった父。それでも母は「昔よりいい」と夫婦円満に【実家は 老々介護中 Vol.20】
80才になる父は、がん・認知症・統合失調症と診断され、母が在宅介護をしています。美容ライターの私は、たまに実家を手伝っています。孫に会いたくても会いにくいコロナのご時世が続き、ようやく会えた日。昔は慎重で無口だった父が、孫への気遣いもなく気ままにしゃべり、気まずい雰囲気に。父のキャラ変に今更ながら驚くのですが、このキャラ変のおかげで昔より良い面もあるんです。
ようやく孫とご対面。それなのに父が余計なことを言って…
娘とふたりで実家へ。息子も行くはずが進学に関わるテストが重なり、風邪もひいているようなのでお留守番してもらうこにしました。会えるうちに会わせたい、と焦るのですが、仕方ないです。
実家に着くと、今日は父の受け応えがクリアです! このところよく寝てご飯もいつもより食べ、体調を整えて待っていてくれたみたい。パジャマではなくきれいなシャツを着て、座位が保てないながらも、ソファにとても大きなクッションを置き、寄りかかりながら座っていました。ニコニコ娘の就職活動の話を聞いてくれて、お話しできて良かった… と思っていたら、父が、
「福利厚生はどうなの?」
「ボーナス出る会社なの?」
おそらくそういうようなことを、滑舌が悪いながら言っている様子で、とやかく言われた娘はだんだん不機嫌に。私と母は、また始まった… と苦笑い。
「まあ、ほら、本人の人生だからさ。うちでも、よく話し合って決めてるんだよ」と、私が間に入りましたが。
年齢とともに頑固になったのと、そもそも精神科に通い出したあたりから、父の性格が変わったんですよね。
娘は「バイトがあるから」と先に帰ってしまいました。夕方のヘルパーさんが来るまで、私は父を見つつ、母の台所を手伝います。
「お母さん、うちのお父さんってさ、行方不明になったあたりから性格変わったよね?」
あれから10年、精神科のお薬を飲んで父の様子は落ち着いていますが。母は何ともいえない表情で、
「まあ、前の性格に戻るわけじゃないみたいだね」と。
もともと、父はしゃべるのが得意ではなく、何かあれば母から言ってもらう人でした。それで人との衝突を避けていたのですが、精神的な病気になってからは、思ったことをバシバシ言うように。
母からすると、
「言ってくれたほうがいいのよ。25歳で結婚して、ずーっといつも怒ってて、何が悪かったか、気がつかないお前が悪い、みたいな人だったんだから。やっとやりやすくなりましたよ」
ということですが。
黙って機嫌が悪いより付き合いやすいかも、確かに。病気が夫婦円満をくれたなんて、喜んでいいのかどうなのか。
「ああ、ああ、何やってんの」
父の声が聞こえました。おやつにスーパーで買った胡麻豆腐を食べようと、母が父のお世話をしていたところ、フタを開けそこねて中身がこぼれてしまったようです。
「お父さんのためにやってるのに、そんな言い方ないじゃん… 」と思っていると、母は、「あらー、ごめんねえ」
とテーブルの胡麻豆腐を容器に戻し、
「汚くないし食べられるでしょ、どうぞ」
と明るく言って、父もまあいいか、という感じでペロッと食べちゃいました。
病気になる前よりも、むしろ夫婦の仲は良好? 母の努力のおかげですね。状況に合わせて生活するうち、以前と違うけど、新たな夫婦関係ができてきた感じ。
どうにか、ソファに座っておやつを食べようと頑張る父が、もう座位を保てないのが切ない。それでも、胡麻豆腐をふたつも食べたと喜ぶ母を見ていると、夫婦が今このときを大切に暮らしているのが、何よりだと思いました。年を重ねると、切ないことが増えるんですね、きっと。
文/タレイカ
都心で夫、子どもと暮らすアラフィフ美容ライター。がん、認知症、統合失調症を患う父(80才)を母が老々在宅介護中のため、実家にたびたび手伝いに帰っている。
イラスト/富圭愛