暮らし

親を深く傷つけてしまう子どもの「失礼な一言」 近い関係だからこそ飛び出す“凶暴”なフレーズ7選

「親しき仲にも礼儀あり」とはよく言いますが、親子ほどの関係になるとつい何を言っても許されると思ってしまいがちではないでしょうか。しかし、その一言に親は深く傷ついているかもしれません。コラムニストで5月「失礼な一言」(新潮社)を上梓した石原壮一郎さんが、言いがちだけど危険なフレーズについて教えてくれました。

「親子だから何を言ってもいい」は大間違い

「お母さん、老けたわね」

「しょうがないでしょ、もう歳なんだから」

 母と娘の微笑ましいやり取りにも見えますが、はたしてそうでしょうか。娘に「老けた」と言われたお母さんは、もしかしたら内心はショックを受けているかもしれません。

「親子なんだから何を言ってもいい」というのは大間違い。近しい関係だからこそ、つい油断して、相手を傷つける“凶暴”なフレーズをぶつけてしまいがちです。何気なく口にした一言が、親子関係に深刻な亀裂を生んでしまうケースも少なくありません。

 お互いさまではあるのですが、ここでは子どもから親に対する「失礼な一言」について考えてみましょう。発せられがちな「7つのフレーズ」をあげてみました。

その1「どうしてこんなこともできないの」

 子どもにとって親は、いつまでも「大きくて頼もしい存在」というイメージ。ただ、現実はそのとおりではありません。いつの間にか自分は成長し、親は年老いてしまいます。かつては何でも知っていて何でもできた親が、簡単な失敗をしたりすると、思わずこう言ってしまいがち。それはけっこう残酷であり、子どもの側のわがままな幻想の押し付けです。

その2「もうその話は何度も聞いたわよ」

 高齢の親と話していると、同じ話題が繰り返し出てきがち。こう言って会話をシャットアウトしたら、親はさぞ悲しい気持ちになるでしょう。何度も同じ話をしていることは、親だって薄々気が付いています。ただ、行動半径も人間関係も狭まる一方で、新しい話題なんてそうそうありません。話を聞くのも親孝行だと思って、同じように相槌を打ちましょう。

その3「ボケちゃったんじゃないの」

 親がちょっとした物忘れをした場面などで、冗談のつもりでこう言ってしまうことはあります。ただ、こっちは「実際はぜんぜん大丈夫だからこそ言える冗談」のもりでも、親は「そう見えるのかな……」とショックを受けてしまいかねません。軽い調子での「ボケないでよ」という励ましも、心配される年齢になったのかと落ち込ませる可能性が大です。

その4「お父さん(お母さん)の考えは古いのよ」

 年代が違えば、いろんなことに関する考え方ややり方も違ってきます。ただ、古いから間違っている、新しいから正しいとは限りません。「古い」という理由で頭ごなしに否定するのは失礼極まりないし、親にしてみれば自分が積み重ねてきた年月を否定されたようにも聞こえるでしょう。「もう歳なんだから黙ってろ」という意味にもなってしまいます。

その5「あんなお父さんと、どうして別れなかったの」

 父親が道楽者で苦労してきた母親に対して、こう尋ねたとします。こちらとしてはねぎらいの気持ちを込めていたとしても、母親は自分の人生を否定されたと感じるでしょう。仮に「あなたがいたから」と言われた場合に、批判したり否定したりする言葉を返すのは人として最低の行為です。子どもならどんな無神経なことを言ってもいいわけではありません。

その6「もうちょっと貯めてると思った」

 親子のあいだでも、お金の話題はデリケート。貯金の額を聞いてこう反応するのは、あまりにも無神経です。親は親なりに全力で生きてきたはず。子どもに貯金の額を非難される筋合いはありません。しかも、そんなつもりはなくても、遺産をアテにしているように聞こえてしまうでしょう。「けっこう貯めてるんじゃないの」と冗談めかして探るのも失礼です。

その7「お母さんみたいなのを毒親って言うんだよ」

 ケンカをして売り言葉に買い言葉という状況だったとしても、親に対して絶対に言ってはいけない言葉のひとつ。「産んでくれと頼んだわけじゃない」も同様です。頭では「言うわけない」と思っていても、感情的になるなどの悪い条件が重なると、人は「取り返しのつかない失敗」をしてしまいがち。親への甘えがないと口にできない言葉でもあります。

 どんな言葉が相手を傷つけるか、どんな言葉が失礼に当たるかは、その時の状況や関係性よって変わってきます。ここにあげた言葉でお互いに笑い合えるケースもあるでしょう。

 ただ、無意識のうちに相手を傷つけたり落ち込ませたりするのは避けたいところ。「親しき仲にも礼儀あり」という諺は、親子の仲でこそ念入りに肝に銘じましょう。「親子なのに水臭い」と当たり前の気遣いを省略するのは、あまりにも乱暴かつ危険です。

 親子関係に限らず、夫婦や職場や友人とのやり取りでも、よかれと思って言った言葉が相手を怒らせたり傷つけたりするケースは少なくありません。そんな悲劇が減るようにと願いつつ、さまざまなシチュエーションにおける「失礼」の実例を集め、「失礼」について考察した本を出しました。タイトルは『失礼な一言』(新潮新書)。

 平気で人を傷つける人は、容赦なく人に傷つけられます。人にやさしい言葉をかけられる人は、人からやさしい言葉をたくさんもらえます。「失礼」について考えれば考えるほど、楽しくて豊かな人間関係を築ける自分になれるでしょう。……ん? いつの間にか自分の本の話になってしまいました。たいへん失礼いたしました。

文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)

1963年三重県生まれ。コラムニスト。『大人養成講座』『大人力検定』など著書多数。最新刊『失礼な一言』(新潮新書)が好評発売中。

失礼な一言 (新潮新書)

画像をクリックするとAmazonの購入画面に移動します

●毒蝮三太夫が伝授「これが愛される年寄りになる極意だ!」|人の家に行くときは面白い話を手土産にする他

●自叙伝『アロハ 90歳の僕』に寄せられた各界著名人からの愛溢れるメッセージにブーさんの反応は?|連載 96回

関連キーワード
ニックネーム可
入力されたメールアドレスは公開されません
編集部で不適切と判断されたコメントは削除いたします。
寄せられたコメントは、当サイト内の記事中で掲載する可能性がございます。予めご了承ください。

最近のコメント

シリーズ

介護付有料老人ホーム「ウイーザス九段」のすべて
介護付有料老人ホーム「ウイーザス九段」のすべて
神田神保町に誕生した話題の介護付有料老人ホームをレポート!24時間看護、安心の防災設備、熟練の料理長による絶品料理ほか満載の魅力をお伝えします。
「老人ホーム・介護施設」の基本と選び方
「老人ホーム・介護施設」の基本と選び方
老人ホーム(高齢者施設)の種類や特徴、それぞれの施設の違いや選び方を解説。親や家族、自分にぴったりな施設探しをするヒント集。
「老人ホーム・介護施設」ウォッチング
「老人ホーム・介護施設」ウォッチング
話題の高齢者施設や評判の高い老人ホームなど、高齢者向けの住宅全般を幅広くピックアップ。実際に訪問して詳細にレポートします。
「介護食」の最新情報、市販の介護食や手作りレシピ、わかりやすい動画も
「介護食」の最新情報、市販の介護食や手作りレシピ、わかりやすい動画も
介護食の基本や見た目も味もおいしいレシピ、市販の介護食を食べ比べ、味や見た目を紹介。新商品や便利グッズ情報、介護食の作り方を解説する動画も。
介護の悩み ニオイについて 対処法・解決法
介護の悩み ニオイについて 対処法・解決法
介護の困りごとの一つに“ニオイ”があります。デリケートなことだからこそ、ちゃんと向き合い、軽減したいものです。ニオイに関するアンケート調査や、専門家による解決法、対処法をご紹介します。
「芸能人・著名人」にまつわる介護の話
「芸能人・著名人」にまつわる介護の話
話題のタレントなどの芸能人や著名人にまつわる介護や親の看取りなどの話題。介護の仕事をするタレントインタビューなど、旬の話題をピックアップ。
介護の「困った」を解決!介護の基本情報
介護の「困った」を解決!介護の基本情報
介護保険制度の基本からサービスの利用方法を詳細解説。介護が始まったとき、知っておきたい基本的な情報をお届けします。
切実な悩み「排泄」 ケア法、最新の役立ちグッズ、サービスをご紹介
切実な悩み「排泄」 ケア法、最新の役立ちグッズ、サービスをご紹介
数々ある介護のお悩み。中でも「排泄」にまつわることは、デリケートなことなだけに、ケアする人も、ケアを受ける人も、その悩みが深いでしょう。 ケアのヒントを専門家に取材しました。また、排泄ケアに役立つ最新グッズをご紹介します!