過干渉で理不尽な親との関係に悩む18歳に89歳の毒蝮三太夫が授けたアドバイス|「マムちゃんの毒入り相談室」第70回
子どもは親を選べない。いつも理不尽な怒りをぶつけられたり過干渉だったりなど、親にたくさんの不満を抱えている18歳の女性が、70歳以上も年が離れたマムシさんにアドバイスを求めてきた。マムシさんはその判断と勇気を賞賛しつつ、「両親と離れるしか解決策はない」と考えている相談者に、別の視点からの対処法を提案する。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「親といるのが苦しい。マムシさんはどう思いますか?」
俺も3月末で89歳になった。次はいよいよ90歳か。90の坂を上った向こうに、どんな景色が待っているのか楽しみだ。まだまだ張り切って勢いよく突き進むからな。
今回は、親のことで悩んでいる18歳の女性からの相談だ。このコーナーの最年少記録だな。70歳以上年上の俺に相談してくれたっていうのが嬉しいじゃないか。
「親に理不尽な怒りをぶつけられて、少しでも反論すると10倍の勢いでキレられます。両親が些細なことで毎日怒鳴り合う喧嘩をしています。
家に物が多すぎて汚いのですが、片付けようとすると、物の場所を変えるな、物を捨てるなと叱られます。親戚がいる場では母は優しくなるのですが、家に帰ると急に態度が一変します。ほぼ毎日、太ってる、性格が悪い、などと悪口を言われます。LINEの文面を強制的に見られなど、常に過干渉です。
両親と離れるしか解決策はもうないと思っているのですが、話を聞いてもらいたくて相談させていただきました。この状況を客観的に見てどう思うか、解決策は他にあるかなど、教えていただけると助かります」
回答:「両親と離れるより、まず向き合うほうがいい。エールを送るよ」
あなたは、とっても健全な精神の持ち主だと思う。将来有望だよ。同年代の友だちに相談したって「ひどいわねー」「カワイソー」って共感はしてくれるかもしれないけど、解決にはつながらない。真剣にどうにかしたくて、年齢が違う俺に意見を求めてきたわけだ。
メールを読むと、失礼ながらあなたのご両親は、なかなか困ったタイプみたいだな。ただ、片方の話だけで決めつけるわけにはいかない。親御さんには親御さんの言い分もあるだろう。そこを差っ引いても、はっきりしているのは、親御さんは「子離れ」ができてないってことだ。もう18歳になった子どもに口うるさく言ったってしょうがないよ。
あなたをいつまでも子ども扱いして、支配しようとしてるわけだ。こっちもふてくされてるだけじゃ、一人前だと思ってはもらえない。一度、両親と向かい合って、しっかり話をしてみたらどうかな。まず「ここまで大きくしてもらったことに感謝しています」とお礼を言って、その上で「こういうところは、こうしてほしい」と冷静に伝えてみよう。
俺も中三のときだったかな、親父がいつもお袋を殴っていることが我慢ならなくて、親父にとびかかって投げ飛ばしたことがある。親父はその瞬間に、息子がすっかり成長していることに気づいたのかな。それからは俺にうるさいことを言わなくなった。親父がお袋を殴る姿を見て、俺は「こんな親にはならないようにしよう」とも思ったね。
面と向かって話すよりも、手紙を書くのがいいかもしれない。結婚式の最後に新婦が親に手紙を読み上げるじゃない。あんな感じで、「育ててくれてありがとうございます」から始めて、「自分なりにしっかり考えているので心配しないでください」と宣言する。言ってみれば、手紙を読み上げることで親を精神的に投げ飛ばすわけだ。
俺に相談しようと判断して行動を起こしたあなたは、しっかりした人に違いない。親の心を入れ換えさせられる手紙をきっと書けるはずだ。手紙を書くことで、あらためて自分と親との関係を見つめ直したり、親の気持ちや事情を考えたりする効果もあるだろう。
あなたは「両親と離れるしか解決策はもうない」と考えているようだけど、その思いにとらわれないほうがいいんじゃないかな。きっちり向き合わないまま、逃げるように離れていっても、親の支配から逃れられるとは限らない。完全に縁を切って消息不明になるわけにもいかないんだから、ますます厄介なことになる可能性もありそうだ。
しかも、家を出るとなるとお金も手間もかかるから、犠牲にしなきゃいけないことがいっぱい出てくる。それよりも今のまま家にいて、両親を「反面教師」にしてしまうことをオススメするね。不愉快なことを言われるたびに「こういうことを言うと相手は傷つく」「こういう態度は親としてどうかと思う」なんてノートに書き留めてみるのもいいんじゃないかな。
人生にはままならないことも多いし、自分の境遇を恨みたくなることもある。だけど、天はその人に乗り越えられない試練は与えない。健全に育っているあなたなら、きっと大丈夫だ。試練を栄養にして、どんどん大きく成長していってくれ。18歳のあなたの前には、希望だらけの未来と無限の可能性が広がっている。心から応援しているぞ!
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『金曜ワイドラジオTOKYO 「えんがわ」』内で毎月最終金曜日の16時から放送中。89歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。この連載をベースにしつつ新しい相談を多数加えた最新刊『70歳からの人生相談』(文春新書)が、幅広い世代に大きな反響を呼んでいる。
4月からはエフエム世田谷(83.4MHz)で、新しい番組に参加。『介護をつなぐ!終活をつなぐ!ツナグワラジオ』(毎週土曜日朝6:30〜7:00)にて「まむちゃんの心の相談」というコーナーを担当。
YouTubeの「マムちゃんねる【公式】」も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、15日に新しい動画を配信中。
YouTube「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX

石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」「失礼な一言」など著書多数。新著『昭和人間のトリセツ』(日経プレミアシリーズ)と『大人のための“名言ケア”』(創元社)が好評発売中。この連載ではマムシさんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。