「血糖値スパイク」(食後高血糖)は糖尿病の“始まりのサイン”? 日本人の5人に1人がなる国民病を防ぐには【糖尿病専門医監修】
日本人の約5人に1人は糖尿病もしくは糖尿病予備軍とされ、いまや国民病になった「糖尿病」。特にこの2~3年、コロナ禍による生活環境の変化により、血糖値が高くなっている人が増えているという。専門医に糖尿病の危険性を聞いた。
50代女性に多い糖尿病予備軍
厚生労働省が実施した「令和元年国民健康・栄養調査」によると、糖尿病有病者と糖尿病予備軍は合わせて約2400万人にのぼる。
「健康診断の結果に問題がないのに、実は糖尿病予備軍だという人は多い。特に50代以降の女性は注意が必要です」
と話すのは、糖尿病専門医の市原由美江さんだ。なぜ、50代以降の女性は危ないのか。
「女性ホルモンのエストロゲンには血糖値を下げるホルモン“インスリン”の効能を高める働きがあります。しかし、更年期に入るとエストロゲンの分泌量が減少。そうなるとインスリンの効きが悪くなり、血糖値が上昇して糖尿病のリスクが高まるからです」(市原さん・以下同)
さらに、すい臓から分泌されるインスリンの量も加齢とともに減少する。妊娠中に「妊娠糖尿病」と診断された女性は、そうでなかった女性に比べて、2型糖尿病になるリスクが約7倍になるという統計結果もある。つまり50代に入ったら誰もが、糖尿病予備軍の可能性があるという自覚を持った方がいいという。
年齢や体形に関係なく「血糖値スパイク」の人は糖尿病に要注意
そもそも糖尿病とは、インスリンが充分に働かずに、血液中を流れるブドウ糖が増えてしまう病気だ。血液中を流れるブドウ糖の濃度を示すのが血糖値で、食事や日常生活、運動、精神状態などによって、常に上がったり下がったりしている。
血糖値は健康な人の場合、空腹時で70~109mg/dl。これが126 mg/dl以上、かつヘモグロビンA1c(1~2か月の血糖値の平均を表す指標)が6.5%以上となると、糖尿病と診断される。糖尿病には、1型と2型があり、1型は自分でインスリンが作れなくなる自己免疫疾患。生活習慣とは無関係に発症するのだという。かくいう市原さんも、実は11才の頃から1型糖尿病を患っている。
一方2型は、遺伝因子と環境因子(食べすぎ、運動不足、肥満、ストレスなど)によりインスリンの働きが低下することで発症する。
「1型は糖尿病患者全体の5%程度で、圧倒的に多いのが2型です」
発症の原因は違うが、糖尿病の症状や苦しみは同じだ。
「私は小学6年生のときに糖尿病と診断されて以来、食べたいものもがまんして、毎日4回のインスリン注射と血糖値測定をしてきました。定期検診も欠かせませんし、治療費だって相当なものです。注射は消毒や管理も面倒。悲しくて苦しくて…病気のせいで性格も暗くなりました」
自分のように苦しむ患者に寄り添い、少しでも患者数を減らしたいと、糖尿病専門医になったのだという。
●血糖値スパイクとは?
「最近増えているのは、年齢や体形に関係なく、食後の短時間に血糖値が急上昇する『血糖値スパイク(食後高血糖)』の人です。食後は誰でも一時的に血糖値が高くなります。しかし糖質の摂りすぎなどが原因でインスリンの分泌が追いつかなくなり、食後2時間以上たっても血糖値が140mg/dlある場合、食後高血糖と判断されます」
健康診断では一般的に、空腹時の血糖値を測定するため、食後の血糖値まではわからない。そのため、血糖値の検査結果は正常なのに、実は食後高血糖だったという人は多い。検査で見逃されるため対応が遅れ、症状が悪化してしまう。