50才からの「睡眠」の悩みに医師が回答「なかなか眠れない、夜中に目が覚めるのはなぜ?」
「睡眠負債」という言葉をご存じだろうか。日々の睡眠不足が蓄積する状態で、これが続くと心身に深刻なダメージを与えるとして話題だ。このような睡眠で悩む人は多いものだが、その代表的なものを“スリープドクター”である遠藤拓郎さんに聞いたのが上のQ&Aだ。
Q1にある「睡眠も老化する」とは、なんともショックだが、それについて遠藤さんは、次のように解説する。
「睡眠には、『深い睡眠(ノンレム睡眠)』と、夢を見るときの『浅い睡眠(レム睡眠)』があり、基本1セット約90分の周期で4~6回繰り返されます。しかし、加齢とともに深く眠る力が減少し、基本サイクルが乱れていくのです。
睡眠をスキー場に例えると、深い睡眠を“ゲレンデの高い場所”、浅い睡眠を“その下の小さなこぶ”と思ってください。若い頃は、高い場所から一気に滑り降り、その勢いでこぶを乗り越えられる(=朝までぐっすり眠れる)のですが、高い場所まで行く体力のない中高年は、低い場所から滑り始めるため、こぶにつまずく。つまり、途中で目覚めやすくなるのです」(遠藤さん・以下同)
体や脳を休ませ、アンチエイジングに必要な成長ホルモンを分泌する役割が深い睡眠にはあり、これは寝入ってから3時間の間に多く現れる。一方、浅い睡眠には記憶の整理をする役割があり、夜中は短く、朝方に多く現れる。中高年は、成長ホルモンの分泌を促す深い眠りを得ることが重要で、それが「質のよい眠り」につながるのだが、年齢的衰えにより浅い睡眠が多くなってしまうのだ。眠りの浅さを補うには、睡眠時間を延ばすべきなのか。
長さより深い睡眠が重要
とはいえQ2のように、長く寝ても寝足りない人もいる。
「仕事や子育てが一段落し、時間にゆとりのできた中高年の多くは“寝すぎ”の傾向にあると思います。下の[グラフ1]を見てください。年齢とともに眠れる時間が減るのに比例し、床にいる時間も減っていきますが、35才を過ぎると徐々に床にいる時間が増え始めます。なぜなら体力が落ち、起きていられなくなるからです。
そして55才を境に、床にいる時間が眠れる時間を上回るようになります。必要以上に床にいるのだから、『寝つけない』のは当然です。長く寝ると眠りの質が落ち、浅い睡眠になる。睡眠の質を上げるには『長さ』ではなく『深さ』が大切なのです」
◆0~85才の眠れる時間と床に入っている時間
20~30代前半は、「眠れるのに床にいる時間が少ない」ため、床に入ればぐっすり眠れている。35才以降は体力の低下により、床にいる時間が増え始め、「眠れないのに床にいる時間は増える」生活に突入する。
教えてくれた人
遠藤拓郎さん/スリープクリニック調布院長
医学博士、元慶應義塾大学医学部特任教授。祖父、父と3代で90年以上睡眠の研究に携わる。近著に『75歳までに身につけたいシニアのための7つの睡眠習慣』(横浜タイガ出版)、最新刊に『脳と心を癒して心地よく眠る 和の花もようのぬり絵』(共著、日本文芸社)がある。https://www.sleepmedicine-tokyo.com/
取材・文/佐藤有栄 イラスト/はまさきはるこ
※女性セブン2023年5月4日号
https://josei7.com/
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