認知症の母が「パンツをはかない理由」困った息子が知恵を絞った失禁対策と収納の工夫
岩手・盛岡でひとり暮らしをする認知症の母を東京から通いで介護をしている作家でブロガーの工藤広伸さん。母が要介護3となり、夜間の失禁が増えてきたが、ポータブルトイレも使えるようになり、はくタイプの紙オムツ(リハビリパンツ)も導入した。しかし、なぜか朝起きてみると布団やシーツの汚れが…。困った問題を解決に導いた知恵と工夫とは?
認知症の母の夜間の失禁被害が拡大した
デイサービスやヘルパーさんから母の失禁が増えてきたとの報告があって、いよいよ失禁パンツ(尿パッド付きの布パンツで、繰り返し利用可能)から、より吸収力の高いリハビリパンツ(以下、リハパン)へ変更する時期が来たのかもしれないと考えていました。
これまでも夜間の失禁はありましたが昼間は問題なかったので、改めて母の状態を確認したところ、確かに昼の失禁がまれにありました。母にも状況を伝えたうえで、今後はリハパンをはいてもらうようにしたのです。
これでズボンが尿で汚れる心配もなくなって介護がラクになると思っていたのですが、残念ながらそうはならなかったのです。
わが家で使っているリハパンは紙素材で薄く、布の下着のように自分ではいたり脱いだりできるタイプです。母がすんなりリハパンを受け入れてくれたのも、見た目や扱い方が布の下着に近かったからかもしれません。
1日を通してリハパンをはいてもらうようになったのですが、朝に布団を畳む際に、リハパンをはく前よりも敷布団やシーツの汚れ方がひどくなっていたです。2回分の尿を吸収してくれるはずなのに、一体なぜ?
母に理由を尋ねても、全く状況を覚えていません。しかも冬で寒かったせいもあって、朝の失禁処理に追われる日が増えていきました。これはおかしいと思いながら原因を探っていたところ、母が急にこんなことを言い出したのです。
なぜかパンツをはかずに過ごしていた母
母:「あら、わたしパンツはいてなかったわ」
母の一言で思い出した、数日前の出来事がありました。それはタンスの中に入っているリハパンを見ているのに、母が「パンツがない」と言ったのです。わたしは「これでしょ、これがパンツ」と言ったものの、すぐに母の言葉の意味を理解しました。
リハパンは小さく折り畳まれた状態で袋に入っていて、わたしはその状態のままタンスに収納しました。たくさん収納できてよかったのですが、母には小さく折り畳まれたリハパンはパンツと認識していなかったようなのです。
母がパンツをはき替えようとタンスの引き出しを開けたら、自分の記憶と同じパンツが見当たらないから、パンツをはかずにいたのだと思います。認知症が進行しているのに、急に環境を変えてしまった介護者であるわたしの完全なミスです。
敷布団やシーツの汚れがひどくなってしまったのも、1回目の失禁でリハパンを脱いだあと、何もはかないまま2回目の失禁をしてしまったからでした。尿を吸収するものがない状態だったので、被害が大きくなってしまったのです。
さらに夜中に起きた直後に寝ぼけていて、タンスの中にあるリハパンを思い出せない日もありました。尿を吸収したリハパンが布団のそばに脱ぎ捨ててあって、何もはかずに寝て日中もそのまま生活を続けていたのです。
母はパジャマを着ない人で、寝ているときにはいたズボンのまま生活するのですが、パンツをはいていないと尿や便の汚れがズボンに付着します。何とかして母にパンツをはいてもらうために、ある対策を講じてみました。
リハパンの場所がすぐに分かる棚を購入
まずはリハパンの保管方法を見直しました。リハパンを大きく広げて、母にパンツと分かるよう工夫してタンスに収納しました。すると母はパンツと認識してくれるようになり、自分でパンツをはき替えてくれるようになったのです。
夜間の失禁に関しては、母が寝ぼけていてもリハパンの場所がすぐに分かるよう、ネットで小さな棚を2000円で購入し、設置しました。
棚のサイズは、リハパンを広げて収納できるサイズを選びました。さらに、わたしやヘルパーさんがポータブルトイレの掃除で使う紙のトイレクリーナーとポータブルトイレ用の処理袋を保管できるスペースを確保するために、3段の棚にしました。
新しく設置した棚の効果は?
棚の設置後、黙って母の様子を見守っていたのですが、夜間にリハパンの存在に気づくようになり、リハパンをはかない日が激減しました。朝の失禁処理もラクになりましたし、日中もきちんとリハパンをはいてくれています。
これで解決したと思っていたのですが、リハパンが目に見える場所にあるのが気になるようで、棚に収納したリハパンをどこかへ片づけてしまう日もあります。
母がリハパンを片づけてしまえば元の木阿弥で、失禁の被害はまた大きくなるし、リハパンをはかずに生活する日もあります。そこで最近は、わたしが母に不思議な声掛けをするようになりました。
わたし:「ねぇ、今日はパンツちゃんとはいてる?」
母:「はいてるわよ、見てほら」
母は恥ずかし気もなく息子にパンツを見せ、わたしも何も思わずに母のパンツの確認をする毎日です。
今日もしれっと、しれっと。
工藤広伸(くどうひろのぶ)
介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(79歳・要介護3)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/、Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442。