兄がボケました~若年性認知症の家族との日々【第193回 排泄物パトロールの日々】
若年性認知症の兄と暮らすライターのツガエマナミコさんを最も悩ませているのは、兄の排泄問題です。トイレではない場所で、大きい方も小さい方もしてしまう兄。家にいてもなかなか心休まらないマナミコさんですが、この度はまたしても思いもかけぬ場所でそれを見つけてしまったというお話です。
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トグロを巻いたそれが…
デイケアで送迎をお願いしてからお帰りが16時50分ぐらいになって「よかったよかった」と思っておりましたのもつかの間、3回目からは16時30分ごろに「あと2~3分で到着します」との連絡が当たり前になり、先日はついに16時ピッタリに電話があり「すみません。今日は車の都合がつかなくて、これからすぐお送りします。大丈夫ですか?」と、まさかの不意打ち。スタッフさまに連れられて徒歩でお帰りになった事態に、”あと30分”が奪われたツガエは密かにキレておりました。
”キレた”といえば、外せないのが兄のお便さま事情でございます。
「またその話?」と思いますよね。本当にすみません。でも我が家の介護はこれがメインなのでございます。
先日のデイケアの日の朝、キッチンの蓋つきゴミ箱の前でパンツを下ろしている兄を発見し、「トイレはこっちだよ~」と誘導いたしました。ところが、時すでに遅く、よく見るとキッチンの床に小さなお便さまが点在しておりまして、椅子の上にもポタリ。トイレ内でドタバタした後に出てきたときにはトイレの床も便座もだいぶお便さま色に彩られておりました。
よほどゆるいお便さまだったのか、パンツ姿で歩く御身脚の後ろ側は流れお便さまの芸術的な仕上がりになっておりましたので、「シャワーしよう~」と、今度はお風呂場にお連れいたしました。
お便さま付きのスリッパに、お便さま付きの靴下、お便さまでずっしり重いパンツとリハパンを脱がせて、シャワーのお湯を兄の下半身に掛け流しつつ、「あと20分でお迎えが来ちゃうな」と考えておりました。
「冷たい」とか「いい感じ」などと言いながら下半身を洗う兄を、感情ゼロで見守りながら「間に合わないときは、連絡して徒歩でいけばいいか」と開き直って、兄のペースに任せてみました。
それが良かったのか、奇跡的に着替えがうまくいってお迎えの時間にマンションのエントランスに立つことができました。
送迎バスを見送った後には悲惨なトイレ、そしてお風呂場、さらにはキッチンのお便さま掃除でございました。わたくしが一人の時間に暇を持て余さないようにとの配慮でしょうか。しっかりノルマを課して行くあたり、さすが要介護3の実力でございます。
さらにその3日後には、気づかない間に蓋つきゴミ箱のプラゴミの袋の中にお便さまが鎮座。朝の掃除機タイムのちょっと目を離した隙の早業でございました。
プラゴミの中からカイワレ大根の容器を見つけたと思われ、その中にいたして、他のプラゴミと一緒に入っていたのでございます…。トグロを巻けるくらいの適度な硬さがあったので被害は少なかったですが、どんな態勢でどうやったらこんな場所でこんなことができるのか、世にも奇妙な兄を思い、少々怖くなりました。
「なんでここでするの?」とお便さまを兄の眼に見せながら聞いてみたところ、「やってないよ」と無実を主張する兄。
「じゃ、誰か家に入ってきてやったんだ。ひどいと思わない? 警察呼ぼうか」と言うと「そうだね」と消え入るような声がし、いつもの椅子に座った背中がどんどん曲がっていきました。そんな反省も30分もすればきれいさっぱり忘れてしまうのでございますから、丁寧にお説教する気にはなりませんでした。
カイワレ容器の中身のお便さまをトイレに流し、おこぼれで被害を受けた周辺のプラゴミをトイレで洗いながら、世の中でこんなことをしているのはわたくしだけなのではないか…と、頭上を飛ぶドローンの目線になりました。
今はゴミ箱の蓋に養生テープを貼り、簡単に開かないように対策中。テープを剥がせば蓋が開くという知恵はもう失くしてしまったのでございましょう。ゴミ箱への放出はあきらめたようです。
でもたまにベラオシ(ベランダでオシッコ)の再発があり、排泄物のパトロールは欠かせない日々でございます。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性60才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現64才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ
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