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栃木県警のパトカーからは誰も逃げられない!?街の人に教わる『街角ホワイトボード先生』で世界の広さを実感

 お正月番組の中でもひときわ異彩を放っていた『街角ホワイトボード先生』(テレビ東京/1月2日放送)が見せてくれた知らない世界の可能性について、テレビっ子ライター・井上マサキさんがご報告します。

ホワイトボードが主役

 お正月のテレビのなかで、ひときわ異彩を放っていたのが12日放送の『街角ホワイトボード先生』(テレビ東京)であった。

 なんといってもお正月である。三が日のゴールデンタイムは、芸能人やアーティストをたくさん呼んだり、豪華なセットを組んだり、スペシャル感あふれる新春特番が目白押し。そのなかにあって、『街角ホワイトボード先生』の主役はタイトル通り、街角に置かれたホワイトボードだった。

 番組では、日本全国のさまざまな場所にホワイトボードを設置。そして街の人たちに「世の中に伝えたいこと」を自由に授業してもらう。設置期間はのべ35日間、授業してくれた先生は子どもからお年寄りまで200人以上。最初にちょっとだけ映った全授業タイトルがバラバラすぎてもうすごい。

「都会のネズミから学ぶ生き方(23歳女性)」「バルーンアートのすすめ(14歳男性)」「めろめろごっこ(6歳男性)」「女同士で付き合うメリット&デメリット(36歳女性)」「今まで飼った猫(57歳男性)」……

 このリストから20個に厳選した授業を見ていくのは、オードリー春日とパンサー尾形、そしてテレ東の角谷暁子アナ。57歳男性の今まで飼った猫も気になるな……となったところで始まった最初の授業は、21歳大学生の「栃木県警のパトカーからは誰も逃げられない」だった。

街角ロケの自然な写り方

 先生によると、栃木県警にはスーパーカーを使ったパトカーが4台あって、時速300キロメートル以上出る車種もあるそう。巣鴨の街中に置かれたホワイトボードに「ホンダNSX」「総額5000万円以上」とキーワードを書いていく先生。東北自動車道を走るときは気をつけてください、と新春からありがたい忠告をいただく。

 そのあとも続々と授業は続く。魚屋を営む44歳男性が「マグロのサクの見分け方」を教えてくれたり、薬剤師を目指す20歳男性が「薬剤師をナメるな!」とその仕事の大切さを訴えたりする。世界史が好きな22歳大学生が「知名度が低くて残念な国王」を語れば、12歳小学生が「お笑いの良さ」を熱弁する。

 仕事で得た知識だったり、なにかのマニアだったり、学校で学んだことがあったり……意外とみんな「誰かに教えられること」ってあるもの。その「教えられること」そのものや、教えられるようになった経緯が、先生たちの個性となって伝わってくる。ホワイトボードは個性を移す鏡なのだ。

 大阪の商店街で出会った54歳男性による「街角ロケの自然な写り方」も良かった。先生はロケに遭遇すると、テレビに映りたい一心で前に出ようとするのだが、大切なのは「自然にカメラの前に入り、人と違ったしぐさ・行動を取る」ことだという。

 過去に、うどんを食べながら歩いていたらカメラマンが驚いてカメラを向けたことがあり、それ以来「背伸びをして身体を動かす」「帽子を10回くらいかぶり直す」など試しているそう。カメラマンの意識をいかに向けるか、という授業には、春日&尾形も「勉強になる」と耳を傾ける。

 ちなみに先生の好きなことは「自分が映ったテレビ番組をコレクションすること」。ということは、街角ロケに遭遇したあと、映ったかどうかをオンエアで確認して、次の試作を考えているのだろう。カメラに映るために日々PDCAPlanDoCheckActionを回しているのだな……と想像すると、さっきの授業のありがたみも増すのである。

「デコラ」「ハンカチ」の世界

『街角ホワイトボード先生』では、気になる授業をした先生のその後を追いかけたりもする。たとえば「原宿カルチャー デコラの魅力」を教えてくれた16歳高校生。「デコラ」は大量のアクセサリーで過剰装飾をするファッションで、先生自身もド派手なデコラファッションに身を包んでいる。

 アクセサリーはひとつひとつハンドメイドなこと、全盛期は1520年前であること、ブームを再来させようと原宿を歩いて認知度を上げようとしていること……しっかり自分の言葉で語ってくれるので後日密着してみると、全国からデコラ仲間が集まる会合をリーダーとして仕切っているのだった。すごい。知らない世界ってある……

 世界といえば、大宮の38歳男性による「あなたの知らないハンカチの世界」のインパクトも相当なものだった。先生は「ハンカチには不思議な魅力がある」と言い、ホワイトボードに「さわりごこち」と大きく書いて丸で囲む。

 ハンカチの四隅の先端をずっと触り続けていると、やがて柔らかくふにゃふにゃになり、「そのときの触り心地が最高なんですよ!」と先生は熱を込めて語る。熱量の割に現象は地味だな……と思いつつ聞いていると、先生は「触り心地に目覚めると1つ問題が生じてしまう」とポケットから何かを取り出した。それは、ボロボロになってほぼ紐になったハンカチ……

「でもやめられないんですよね(笑)」と先生のハンカチ愛は止まらない。そのお宅にうかがうと、ハンカチたちに「ふわりん」「ふにゃりん」と名前をつけていること、寝床でイジる専用のハンカチがあること、触り心地が80点を超えないと名前をつけないことなどが続々と判明するのだ。

 ホワイトボードは個性を移す鏡であり、鏡の向こうには知らない世界が広がっている。十人十色ならぬ、二十人二十色の授業を見て、世界は想像以上に広いのだな……と実感する2023年の始まりであった。もし自分が街角で先生になったら、何の授業をしようかな。

文/井上マサキ(いのうえ・まさき)

井上マサキ

1975年 宮城県石巻市生まれ。神奈川県在住。二児の父。大学卒業後、大手SIerにてシステムエンジニアとして勤務。ブログ執筆などを経て、2015年よりフリーランスのライターに。企業広報やWebメディアなどで執筆するかたわら、「路線図マニア」としてメディアにも出演。著書に『日本の路線図』(三才ブックス)、『桃太郎のきびだんごは経費で落ちるのか?』(ダイヤモンド社)など。

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