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『鎌倉殿の13人』43話 あからさまなフラグが立ち、いよいよ鶴岡八幡宮の惨劇が迫る

 NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』43話。頼家の子・公暁(寛一郎)は、鎌倉殿への野心を、乳母夫である三浦義村(山本耕史)に語る。しかし、後鳥羽上皇(尾上松也)を頼って次の鎌倉殿を京から迎え入れるという実朝(柿澤勇人)の意思は固い。悲劇に向かって突き進む「資格と死角」(副題)の回を、歴史とドラマに詳しいライター、近藤正高さんが、歴史書を紐解きながら考察します。

帝の御子だったら

『鎌倉殿の13人』第43回の冒頭、僧侶として京での修業から鎌倉に戻った公暁(寛一郎)は、政子(小池栄子)と実朝(柿澤勇人)との面会を翌日に控え、乳母夫である三浦義村(山本耕史)に対し、「必ず鎌倉殿になってみせる。私は、そのために戻ってきた」と野心をたぎらせる。どうもこの時点では、次の鎌倉殿を京から迎え入れると実朝が決めたことは、まだ北条の者にしか知らされていなかったらしい。翌日、公暁と御所に赴いた義村は、義時(小栗旬)と二人きりになったタイミングで、後継の鎌倉殿は若君で決まりではないのかと切り出したところ、そのことを知らされ、驚愕する。

 政子も、挨拶に来た公暁が「立派な鎌倉殿になる所存です」と宣言するのを聞いて驚き、すぐさま義時のところへ行ってなぜ公暁に説明をしないのかと問いただす。義時はそれに「そもそも話すいわれはありませぬ」と返しつつ、義村には「(公暁が次の鎌倉殿になるなど)許されるはずがないだろ!」と突っぱねた。義時としては実朝の意向には断固反対する立場ではあるが、次の鎌倉殿について公暁が話にかかわってくれば厄介なことになると思い、彼を外したうえで決めるつもりでいたのだろう。

 このとき、公暁は実朝と会っており、「あの子の口から公暁の耳に入ることがないといいんだけれど」と心配する政子に、義時は「鎌倉殿は賢いお方です。軽はずみに話すようなことはなさらないはず」と断言したのだが、言っているそばから、実朝はそのことを公暁に話してしまう。軽はずみすぎる……。

 それでも義時ら周りの者たちは、実朝の申し出を後鳥羽上皇(尾上松也)がすんなりと聞き入れるわけがないと信じていたふしがある。義時・実衣(宮澤エマ)・義村が3人で集まった席では、実衣が「どこの馬の骨ともつかない貧乏貴族の小せがれをあてがわれてみなさいよ。目も当てられないわ」と言えば、義村も「これが帝の御子だったら俺も納得してやる」と、まるでそんなことはありえないかのごとく話していた。そもそも実衣は、公暁だけでなく自分の息子である阿野時元(森優作)にも鎌倉殿になる芽はあると信じて疑わなかった。

 しかし、実衣や義村の予想に反して、京の後鳥羽上皇より親王を鎌倉に遣わしてもよいとの書状が実朝のもとに届いていた。実朝は、そのことを伝えるべく執権の義時以下、側近の泰時(坂口健太郎)を含む宿老たちを集める。実朝の発表を受け、実衣が思わず絶句したのに対し、義時と義村は一応は受け入れる態度を示した。ただ、実朝が一日も早く話を固めるため上洛したいと言い出すと、義時と大江広元(栗原英雄)が、鎌倉殿の上洛はそんなに軽いものではないと諫めた。

 そこへ政子が、実朝に代わり自分が熊野詣という形で上洛して話をつけてくると申し出た。これには広元も賛成する。朝廷からは藤原兼子(シルビア・グラブ)が相手ということになるだろうし、おなごどうし話も弾むであろうというのがその言い分だ。政子は心強い味方を得て、愛する息子・実朝のため覚悟を決めて朝廷との交渉に臨む。

 このときの宿老の集まりには、千日参籠のため堂内に籠っていた公暁も100日目で抜け出して現れ、強い希望によりその席に加わっていた。このとき公暁は、自分の亡父・頼家のことを皆が「頼家様」ではなく「ご先代」と呼ぶことに何か含みがあるのかと違和感を覚える。のちに彼はその理由を知ることになるのだが……。

女性政治家の対話

 今回は登場人物たちによる1対1の対話シーンが畳みかけるように出てきて、思いがけない進展を見せることが目立った。

 まず政子と大江広元である。政子が実朝に世継ぎの件で入れ知恵したことを、これでよかったのかしらと悩んでいると、そばにいた広元が、尼御台は今後も自分の思った道を進むべきだと肯定してみせた。このとき、政子からふいに「頼りにしていますからね」と言われ、彼はつい舞い上がってしまったのだろう。「私は頼朝様に呼ばれて鎌倉に参りました」と唐突に口にしたかと思うと、頼朝のあと頼家、実朝と代は代わったが「私がお仕えしてきたお方はただ一人、尼御台にございます」と告白し、さらに両目がほとんど見えなくなったいまでも「心の目にはいまもありありとそのお姿が映ります」と、ここぞとばかりに政子への思いをほとばしらせた。だが、それに対する政子の返事は「重すぎます」というものであった。これには広元の顔も思わずゆるむ……というか歪んだ。所詮は成就しない恋とはわかっているものの、このやりとりにはせつないものがあった。

 しかし、広元が政子にとって頼りになる存在であることに変わりはない。政子が藤原兼子と会談するにあたっても、兼子にとって(後鳥羽上皇の親王のうち)自分が育ててきた頼仁親王が鎌倉殿になれば願ってもないこと、そこをうまくくすぐることだと、広元から「談判をうまく運ぶコツ」を教えられていた。

 対する兼子も、政子の鼻をへし折ってやると息巻くが、慈円(山寺宏一)に「へし折ったうえで話に乗ってやる。談判をうまく運ぶコツにございます」とアドバイスされていた。というわけで今度は政子と兼子――慈円にその著書『愚管抄』で「女人入眼の日本国(女性が最後の仕上げをする日本国)」と呼ばしめた東西の女性政治家の対話が描かれる。

 まず、政子から干しダコを贈られ、兼子は「ほう。坂東のならわしでは口が汚れるものを差し出されるか」と先制パンチをかますが、政子も負けじと「たまには汚れたものを口にするのもようございますよ。日々の食事がいかにおいしいか改めて思いをいたすことができます」と、しれっと言い返した。

 ここから、本題である親王を鎌倉に迎える話に入る。兼子が不穏な鎌倉へ親王を送ることを懸念すると、政子は広元から教えられたとおり、頼仁親王の話を切り出した。ちょうどいまの帝(順徳天皇)の后が懐妊しており、その子が産まれれば帝の弟である頼仁が皇位を継承する芽はなくなる。そこで政子は「ならば代わりに鎌倉殿になっていただけたらこれほどうれしいことはございません。そうなれば、兼子様は我らにとっても何よりも大事なお方になります。鎌倉挙げて最高の礼を尽くしたいと思います」と述べたのだ。これに兼子は「あら」と態度を一変させる。

 京では政子のことを悪女や鬼だのと悪く言う者たちもいたという。それに対し兼子は「政子殿には政子殿の考え、立場があったに違いない」と言ってやったと明かしたうえ、政子に近づくと「どこが鬼ですか。むしろ東大寺の大仏様に似ておられる」と褒めたたえた。慈円から教えどおりの言動ともとれるが、このあとで酒はいけるほうかと訊ねたあたり、案外、本当に政子のことが気に入ったのかもしれない。

 この間、政子に謁見を許したにもかかわらず断られていた上皇は、代わりに彼女に同行した弟の時房(瀬戸康史)に、自らの正体を隠して蹴鞠に誘う。しばし鞠の技を競い合い、互いに褒め合ったが、上皇が「東夷にしては筋がよい」とちょっと挑発したのに対し、時房は思わず、笑いながら「何だと」と上皇を小突いてしまった。時房はすぐさまそこへ駆けつけた男たちに取り押さえられ、初めて蹴鞠の相手が上皇だったと知る。上皇はすぐに時房を解放するよう男らに伝え、時房には「いずれまた勝負しようぞ」と言ったかと思うと、一緒にいた慈円に「我が最愛の子たる親王を鎌倉に与える話、早く決めてやれ」と命じた。これには時房はひれ伏すばかりであった。実朝には和歌で、時房には蹴鞠をもって懐柔してしまう上皇、恐るべし。

 こうして鎌倉殿の後継に頼仁親王が決まり、それとともに実朝は左大将に任ずるとの書状がさっそく京より鎌倉に届けられた。左大将は、亡き父・頼朝の右大将を上回る官位だ。同時に政子も従三位に叙せられる。これを受けて実朝は泰時にも官職に推挙してやりたいと言い出し、源仲章(生田斗真)が讃岐守はどうかと提案した。その場に同席した義時は、息子を国司にするのは早いと反対する。

 仲章はこのあと廊下で義時を呼び止め、頼仁親王が鎌倉殿になった暁には自分がそれを支え、政を進めていくと豪語した。義時はそれに思うところあったのだろう、その夜、泰時の館を訪ねると、父子2人で向き合い、「いずれおまえは執権になる。おまえなら私が目指していてなれなかったものになれる。そのとき、必ずあの男が立ちはだかる。源仲章の好きにさせてはならぬ。だからいまから気をつけよ。借りをつくるな」と泰時に言い聞かせた。

 もっとも、泰時も最初から讃岐守は辞退するつもりであった。「気が合いましたね」と言う彼に、義時は思い出したように「親王を将軍に迎える件、受け入れることにした。つまり親王はこちらにとって人質だ」と告げた。人質という言葉に戸惑いながら、泰時は先に言われた言葉が気になり、「父上が目指してなれなかったものとは何ですか」と訊ねたのだが、義時は答えずに帰っていった。

 今回のサブタイトルが「資格と死角」だったとおり、義時は泰時に将来の執権となる資格を認めたうえ、彼が仲章に取り込まれるのを阻止したものの、思わぬ死角があった。それは妻ののえ(菊地凛子)だ。のえは、政子のいないあいだに花見を楽しむ実衣に付き従い、帰ってきたところで、たまたま廊下で仲章を見て一目惚れする。

 仲章もまた、のえに気づくと声をかけてきて、しばし話し込んだ。一緒に京の思い出話で盛り上がり、坂東の水が合わないとぼやき合うなどすっかり意気投合し、今後も会って話をすることを約束し合う。何やら不倫に発展しそうな勢いだが、そればかりでなく、仲章がこのあとたどる運命を思えば、彼女と義時の関係はいい方向には進まないと予感させた。

北条を許すな

 のえと仲章のゆるふわな会話に続き、終盤では一転して今回もっとも緊迫したやりとりが描かれる。それは、千日参籠中の公暁のもとへ義村が訪ねてきたシーンでのこと。公暁はすでに親王を鎌倉殿にする方向で朝廷と話がまとまったことを知っており、自分が鎌倉殿になる芽が摘まれたという事実を確認するため、わざわざ参籠を中断して義村を呼んだのだ。この事実を義村が認めると、公暁はそのまま「行け」と告げた。

 しかし、義村が帰ろうとした際、ふいに「若君が鎌倉殿になれば必ず災いが降りかかる。これでよかったのです」と口にしたのがまずかった。これに公暁は「どういう意味だ!?」と強く反応する。義村はこのとき、公暁が母親のつつじから父の頼家が死に至るまでの真相を聞かされていないことを知ってしまった。そこで「なるほどな」とひとりごちると、公暁はさらに「なるほどとは何だ。本当は何があった。言え」と突っかかる。

 その後、義村は自分の言葉のせいでどんどん深みにハマっていく。「つつじ殿はあなたに穏やかに暮らしてもらいたいがゆえ嘘をついた。その思いを私ごときが覆すことはできませぬ」と話すのを拒めば、「なぜ母は嘘をついた!」と追及され、「言えませぬ! 北条義時は無二の友」「友を売ることはできません」とうっかり義時の名を漏らしてしまった。公暁に「義時がかかわっているのか」と訊かれ、「これ以上は……」となおも回答を避けるも、胸ぐらをつかまれた途端、覚悟を決めた表情を見せ、腰を据える。

「あなたの父は殺されたのです。北条の手によって」。義村からそう言われて公暁も思い出す。幼いころ、見知らぬ老婆(その正体は北条に滅ぼされた比企氏のひとり比企尼)から「北条を許すな」と言われたことを。これを受けて義村は「北条は頼家様とその家族を皆殺しにした。本来なら跡を継ぐべきあなたの幼い兄も義時によって殺された、わずか6歳で!」と早口で一気にまくしたてると、「北条を許してはなりませぬ。そして、北条に祭り上げられた源実朝もまた真の鎌倉殿にあらず」とけしかけて立ち去った。義村が最後の最後に義時を裏切り、公暁をたきつけたのは、これより前に弟の胤義(岸田タツヤ)に言っていたように、公暁を鎌倉殿にすることは三浦氏が這い上がる最後のチャンスだという焦りからであったのだろう。再びひとりになった公暁は「許せん」とつぶやく。

 その後、政子は建保6年(1218)4月29日、3ヵ月にわたる上洛から鎌倉に戻り、従三位に叙せられた喜びを実朝と分かち合う。その様子はかつて頼朝が征夷大将軍になったとき、夫婦で喜び合ったのを思い起こさせた。実朝もまた左大将に昇官したのを機に鶴岡八幡宮に参拝する行事「直衣始」の儀式を執り行うべく、仲章や義時父子と話し合う。このとき泰時から示された図面には、八幡宮の本宮に続く石段沿いに「大銀杏」がはっきりと描き込まれていた。儀式には何も関係がないはずで、ここで図面に描き入れる必要があるとは思えないが……。

 ともあれ、7月8日には直衣始が執り行われる。このとき、実朝の木靴のなかに小石が挟まり、木陰には公暁の姿があった。先ほどの図面の大銀杏といい、あからさまなフラグが立ち、ダメ押しするように「半年後、同じ場所で繰り広げられる惨劇。そのことを彼らはまだ知らない」との長澤まさみのナレーションが入る。登場人物それぞれの思惑が渦巻くなか、いよいよ実朝に運命のときが訪れようとしている。

→『鎌倉殿の13人』他の回のレビューを読む

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。

 

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